第81話 神に抗えし者

 かつて世界には、四つの種族、四つの国が栄えていました。


 森には、魔力と容姿ばかりを自慢する、傲慢なエルフ。

 山には、力ばかりで乱暴な、思慮の足りない獣人が、

 そして、その地中深き穴倉に、宝物に固執し他を信じない、愚かなドワーフが互いにいがみ合って暮らしていました。


 それを憂いた、平原の支配者、賢き人間は、一つの提案をします。

「争いをやめ、皆が一つになれば、世界はもっと豊かに幸せになれるでしょう」


 もちろん、愚かな種族達は、反対します。

「醜きものとは一つになれない」

 森のエルフが真っ先に声をあげ、

「我らは力でねじ伏せる」

「我らは誰とも話をしない」

 獣人も、ドワーフも、勝手なこと言い仲良くしません。


 人間が困り果てていると、

 世にも珍しい銀色エルフの姫君がこう告げます。

「人よ、人よ、私があなたを助けましょう」

「姫よ、姫よ、エルフの姫君よ、ならば、貴方に任せましょう」

 人は喜び、彼女に任せて見ました。


 最初に彼女は仲間を説得します。

「私の言葉に従いなさい、さもなくば、この森全てを燃やしましょう」

 エルフ達は、姫の言葉に逆らえず従います。


 次は、獣人です。

「獣人よ、獣人よ、私の言葉に従えば、豊かな狩場を与えましょう」

 獣人達は、喜んで山を降りました。


「ドワーフよ、地の民よ、私の言葉に従えば、美しい宝石を与えましょう」

 ドワーフ達も穴倉から出てきました。


 最後に、人が、

「それでは、皆で一つになって、世界をより良くしていきましょう」

 と宣言します。


 こうして、四つの種族は大いに栄え、幸せな時代が訪れました。


 それも長くは続きません。


 最初は獣人です。

「エルフの姫よ、姫君よ、約束の狩場に早く連れていけ」

 エルフの姫に何度も詰め寄ります。

「獣人よ、獣人よ、そんなに狩場に行きたいなら、私が相手をしてあげる」

 怒った獣人は、彼女に襲いかかります。


「獣人よ、力ばかりで思慮の足らない獣人よ、その毛と皮を捧げなさい」

 獣人は敗れ毛皮にされました。


 次にドワーフです。

「エルフの姫よ、姫君よ、約束の宝石を、美しく輝く宝石を、早く差し出せ」

 エルフの姫に、何度も何度も詰め寄ります。

「ドワーフよ、地の民よ、そんなに宝石が欲しいなら、私が相手をしてあげる」

 怒ったドワーフは、彼女に襲いかかります。


「ドワーフよ、愚かで醜き地の民よ、その身と財を捧げなさい」

 ドワーフは敗れ、大切な宝石も、命も全て奪われます。


 人は、エルフの姫君を諌めます。

「エルフの姫よ、姫君よ、その振る舞いを改めろ」

「人よ、人よ、神の子よ、あなたは私を崇めなさい」

 あろうことか、銀色エルフは神を否定し、自らを崇めよと言い出しました。


 怒ったのは神でした。

「エルフよ、エルフ、銀色エルフの愚か者、世界を敵に煉獄の炎でその身を燃やせ」

 銀色エルフが真っ赤に燃えます。

 森も燃え、エルフは死に絶えます。


 それでも銀色エルフは死にません。


「この身は、炎で燃え尽きぬ」

 あろうことか、【邪悪な姫君】は、煉獄の炎を従え、神と争う構えです。


 地上に顕現できない神は、人に力を与えることにしました。

 聖なる力は、邪悪なる者を容赦なく滅します。


「世界よ、神よ、私は決して、滅びない」

 邪悪な姫君は、そう言い残し死にました。


 人よ、賢き人よ、神に祈りを捧げなさい。

 さすれば、神は必ず救う。


 煉獄の炎を制し、聖なる力は、人に幸せを運んでくれる。


 細部は国や地方によって異なるが、一般的な【邪悪な姫君】の、これがお伽話らしい。


 魔女さまーー、は語り終え、杖の灯りを消す。

 部屋が明かりを取り戻す。


 レティーシアが、


「真実の愛でしか、私は殺せない」


 さらに俺の目をしっかりと見て、

「これが、王家に伝わる、エルフの姫君が最後に口にした言葉」

 と言い切った。


「真実の愛でしか、私は殺せない」

 やな言葉だ……。

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