第95話 炎の物語 後編
剣の名は初耳だが、【ミノタウロスの剛力】は知っている。
少々厄介な前衛職のスキル、二つある効果は筋力上昇と……。
トレイニー、奴の身体がでかく見える。
物凄い、圧力、のんびり考えてる暇は無い。
トレイニーは肩を突き出しタックルの要領で突っ込んで来る。
杖を両手で前に出し、意識をそこへ集中する。
トレイニーの左肩がそこへ。
衝撃音、両手が痺れた。
簡易とはいえ、俺の張った障壁が、たった一撃で砕け散った。
これだ、二つ目の効果はシールド無効化、地上編では、魔王のシールドですら無効にする。
トレイニーは、肩をぶつけたまま俺を押す。
その力に、俺は踏み止まることが出来ず、地面を削りながら後ろに下がる。
さらに、奴が、下段に構えているであろう剣は、突き出された肩を中心とした巨体に阻まれ確認できない。
首筋に悪寒!
これは、殺気だ!
トレイニーの力押しが終わった。
奴は、下段から突き上げるように剣を振るう。
それを杖で迎え撃つ。
杖が押される!
「くっ」
さらに、衝突時に感じた痛みで声が出る。
奴の与ダメが、俺の物防を僅かに上回った。
【
トレイニーは、そのまま俺の杖を押しながら、剣を右手に持ち替え、余った方で拳を作る。
「警戒し過ぎだ、エルフのお姫様」
杖の力を抜く、後は、振り下ろされる拳を躱して……?!
「やってくれたわね」
「力比べに持ち込めば、俺の勝ちだ」
トレイニーの奴は、拳を解き、俺の右手首を掴み、剣を投げ捨てた。
「流石、トレイニー様だ」
「俺たちの勝ちだ」
帝国軍の僅かな生き残りの声。
こいつら、カサカサとしぶといな……。
「観念しろ、エルフの姫君」
そして、奴は作った拳をゆっくりと動かし、俺の顔の前で止めた。
あ! なんかイライラする!
ガブッ!
あらやだ、固いし、不味い!
「うぇ! コイツ、噛みやがった!」
トレイニーは、拳を下げた。
ぺっ、ぺっ、くそ、
「何すんのよ、変態!」
「それは、こっちのセリフだ!」
トレイニーが、俺の顔面に拳を振り下ろす。
衝撃が身体を突き抜ける。
背後の地面が余波で砕ける。
流石は【ミノタウロスの剛力】、魔王の障壁を無効にし攻撃を当てる事が出来るスキルだけはある。
しかし、斧を装備するか、せめて格闘用の武器を装備して欲しかった。
非常に残念だ。
「額で俺の拳を防ぐだと……」
トレイニーの頬を汗が伝わり、その雫が落ちた。
俺は、可愛らしくニッコリと笑う。
「女の子を殴るなんて酷いのね、トレインさん」
「トレイニーだ! ……まさか俺と力比べだと」
掴まれた右手首を返し、奴の左手首を掴む、左手の杖は天に放り投げる。
奴の身体を引っ張り、膝をつかせる。
残念だが、あんたとはレベルが違いすぎる。
「一つ聞いて、いいかしら? なぜ、街を燃やしたの?」
左手で拳を作り、奴の顔の前で止める。
噛んだらダメだぞ!
「囮りだよ、俺たちが、王都西部を蹂躙すれば、交易都市は戦力を割かざるおえまい……」
そう答えると両膝をついたトレインは、天を仰ぎ叫ぶ、
「我を加護するミノタウロスよ、我の呼びかけ応じ、真の力を解放せよ、我は汝の真名を告げる、アステリオス、雷光の化身よ、汝をさらせ!」
空高きところから、奴の脳天を目掛け雷が落ちる。
閃光が辺りを支配し、視力を奪う。
奴の先程の問いの答えが脳内に響く。
そして、怒りが込み上げる!
囮りだとぉ!
そんな手間を掛けなくても、お前らは、十分に勝機があったはずだ!
腕に伝わる奴の反抗の力が格段に大きくなった。
奥の手というところか……、ゲームで言えば奴の所持するスキルが【ミノタウロスの剛力
「そんな馬鹿な」
奴は筋肉が肥大し一回り大きくなっていた、身体からはパチパチと放電もしているが、姿勢は何も変わらない。
「残念ね、力比べもあなたの負けね」
左の拳を大きく引く、流石に観念したのか奴は涙目だ。
「待て! 待って下さい」
「
振り下ろした拳で、奴は砕け散った。
言っただろ、蹂躙するって……。
それにしても、所詮は地上編のスキル、上方補正してもゴミスキルだった。
指揮官を失った軍は完全に崩壊した。
チビにメッセージを飛ばす。
すぐにフェンリルが顕現した。
青白い炎を纏う、巨大な白き獣、神々ですら恐れを抱いた、それに帝国兵は、絶望し、完全に敗北した。
捕虜はいらない、今、欲しいのは完全な勝利、それだけだ。
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