第21話 散歩

「君の事を知りたい」

 扉を開けると、ジークフリードが立っていた。


「え?」

「私は、もっと……」


 バタン、


「ソフィア様、話を聞くぐらい」

 部屋にいる、メイドが慌てて声を掛けてくる。


 ドンドン、


「うるさいわね、追い返して頂戴!」

 たくっ、朝から迷惑な奴だ。


「ご主人、どうか、したのか?」

 目を擦りながらフェンリルのチビが側にきた。

 着崩れたパジャマから胸の谷間が少し除く、無邪気な色気を惜しげもなく撒き散らす。


「何でもないわ」

 返事をしながら、チビの服を整えてやる。

 まったく手間が掛かる。

 俺より長い髪も、大変な事になっている。

 くしを手に取り、銀色の髪を丁寧にすいてやる。


 どうしても、ごりごりと乱暴な手つきになってしまうが、それでも、チビは立ったまま、うとうとしている。


「ジークフリード様、困ります」

 メイドを押しのけ、部屋に入り、彼は、叫びだした。


「私は、君の事をもっと知りたい」


「間に合ってます」

 出て行け! と押すが、ジークフリードの野郎はビクともしない。


「出、て、いっ、て!」

 くっそ〜、動け! 腕を出口の方へ引っ張るが動かない。


「ご主人、ごはん……」

 寝ぼけたチビは、役に立たない。そのうち、おしっことか、言い出すかもしれない。


「君と手合わせしたい」

「嫌です」

 絶対に嫌だ! 死ね!


 メイドが、チビの髪を、丁寧な手つきで扱いはじめた。


 こいつ、ジークフリードを俺に任せやがった。なんて奴!


「心配しなくても大丈夫だ。ここの訓練場は、とても丈夫で……」

「ちょっと、待ってて」

 そんな事よりも、チビの手入れだ。馬鹿は放っておこう。


 それに、いろいろメイドから習っとかないと、毛の長い犬は、ブラッシングを欠かすと皮膚病になるっていうし、この先、旅に出た時、大変だ。


「ねぇ、私にも、教えて」

「あら、ソフィア様は、そんな事、なさらなくても」

「いいの、チビの面倒は、私が、見るんだからっ!」

 あらあら、仕様がないわねと、メイドは、チビを俺に譲った。


「そんな、手つきじゃ、チビちゃんが可哀想ですよ」

 合間に、メイドの指導が入り、時折、手本を見せてくれたりする。


 そして、長い髪を一本にリボンで結え完成だ。う〜ん、でも、なんか、物足りない。


「そろそろいいか……」

「まだです!!」

 俺とメイドは、声を揃えて、ジークフリードを否定した。


 俺は良いが、メイドは大丈夫か? 一応、雇い主になるんじゃないか?


 いや、それでも、彼女の気持ちは、良くわかる。


 髪型とリボンは、とても奥か深く、例えば、ポニテールとか、ツインテールとか、サイドテールとか、リボンは、大きさ、太さ、色、素材、位置、さらに結び方など、いろいろ、試したい。


「この髪型のチビちゃんも可愛いですよね」

「きゃっ、そうね」

 チビの髪は長くて柔らかいので、様々な髪型に挑戦でき、それが、また、どれも、とても可愛い、さすがフェンリル、俺のチビちゃんだ。


「あの〜」

「ちょっと、黙ってて!」

 帰れ、ジークフリード!邪魔するな!


 俺とメイドは、チビの髪で、きゃっきゃと遊ぶ。


 それはとても、充実した時間だ。


 結局、最後は、リボンで一本に纏める髪型に、する事になった。


「やっぱり、これが、一番ですね、ソフィア様」

「そうね」

 ふふふ、よしよし、うちのチビが、一番、可愛いなぁと頭を撫でてやる。


「あの、そろそろ」

「あら、居たの?」

 ジークフリード、お前、暇な奴だなぁ〜〜。


「もう、お昼ですね、お茶と、軽いお食事を準備しますね」

 そう言うと、メイドは席を外した。


「いつまで、いるの?」

「君と手合わせするまでだ」

 はぁ〜っ、仕様がない、午後は、こいつで遊ぶか……。


「ねぇ、食べてく?」

「そうして、頂けるなら、ありがたい」

 表情を崩し、笑顔を見せたジークフリードは、正に女の敵だ。


 訓練場でぶっ飛ばしてやる、俺は、固く心に誓う。


 メイドが用意してくれた食事を平らげ、ジークフリードに付いて訓練場に向かう。


 城の中は、迷路のようになっており、なかなか、道を覚える事ができない。


 ジークフリードの背中を懸命に追う、くそっ、なんで、あいつは振り返らない。


 まったく、気の利かない奴だ!


「ご主人、外で遊ぶの?」

 一緒に付いて来た、チビはルンルンとご機嫌だ。

 俺の腕に絡まり、懸命に白銀の尻尾を振っている。


 日の当たる中庭に出ると、チビのテンションは更に上がり、俺を、引っ張り回す。


「もう、ちょっと落ち着きなさい」

「ご主人、あそこの人も、一緒に遊んでくれるかなぁ?」

 肩を叩き、チビが指差す方には、テラスがあり、レティーシアがいた。


「もうっ、あれは、レティーシアよ、この国の姫様、早く覚えなさい」

「姫様は、遊んでくれるのか?」

 どうだろう? ここからは、流石に声は届かないだろう。


 様子を伺うと、レティーシアはニコッと笑みを浮かべたようだ。


「そうね、遊んでくれるかも知れないわね」

 チビの頭を撫でてやる。


 ジークフリードを呼び止めようとするが、あいつの姿は、見えなくなっていた。


「ジークの馬鹿っ……」

 思わず口ずさんでしまった……、なんか、俺、キモい……。


 テラスから、レティーシアの姿も消えていた。


「よし、チビ、城の中を散歩するぞ!」

 俺の言葉で、チビは、散歩だヤッホイと飛び上がり喜んでいる。大きな胸が揺れたのがドレス越しにわかる。ケモ耳、ロリ巨乳の魅力全開だ!


 ついでに、町まで足を伸ばすのも良いかも知れない。


 さらば、ジーク、君の事は忘れない。


 俺とチビは、城の中を適当に歩く事にした。

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