第31話 依頼

 四日前の朝、


 冒険者ギルドに皆で向かった。


「あら、遅かったわね、ソフィアさん」

 仁王立ちの受付嬢、リサが右手を差し出し挑発してきた。


 その手を握り返し、


「お金は、エドワードがきっちり支払うわ」

 と言いながらブンブンと腕を振る。


「まぁ、いいわ、今週中には修理して貰うから、それから請求するわ、いいわね」

 もうっと、リリーは腕を離し、


「じゃあ、本題ね、あなた達には、ゴブリンの……」

 ちぇっ、ゴブリンかぁ、面白くないなぁ……、


 空いている席を探し、そこに腰を下ろした。


 朝のギルドは、繁盛とは言わないが、人はそれなりに居るようだった。


 おそらく、朝、仕事の受注をして、日が沈む前に終わらせるというスタイルなのだろう。


 冒険者の暮らしは、日雇い労働者に近いのかもしれない。


「おい、あれ、エドワードじゃないか……」

「隣にいるのは、S級のジークなんじゃ……」

 周りの冒険者だろう、多分……、がザワザワとしだした。


 簡単な依頼の筈なのに、エドワードとジークフリード、リサの三人の話は長い間、続いている。


 ゴブリンなんて、さっさと片付けて、先を急ごうぜ……。


「面白くなさそうね」

 いつの間にか、隣に座ってきた、シルフィードが話し掛けてきた。


「あらっ、珍しいじゃない」

 ジークフリードに絡まっていない彼女を久しぶりに見たので、驚いてしまった。


「つまらない話だから、私も離れて来ちゃった」

 彼女はテヘッとベロを出し、自らの拳でコツンとこうべを垂れた。


「おい、あそこ見ろよ」

「すげぇ、美女揃いだ」

「誰か、声掛けてこいよ」

「やめとけって、あいつら、エドとジークの連れだぜ」


 おいおい……、


「騒がしいわね」

 シルフィードの威圧に周りが静まりかえる。


 たしかに、レティーシア、シルフィードは美人だし、チビとクララは可愛い、それに俺だ。そう、一番凄いのは俺だ!


 田舎者達には、俺の魅力は、刺激が強すぎるかもしれない。


 しかし、


「長いわね、ゴブリンくらい、サクッと倒して終わりじゃないっ」


「あら、あなた、ぜんぜん話を聞いてないのね」


「なによ、話って、どうせ駆け出しの私達の依頼なんて、つまらないものしかないわ」

 一匹だろうが、千匹だろうが、ゴブリンはゴブリンだ。


 あれを、倒すなんて、考えただけでも、面倒で、つまらない作業だ。


「そんな、無茶だ!」

 エドワードの荒っぽい声が聞こえてきた。


「あなた、何か知ってるの?」

「話をちゃんと聞かない、あなたが悪いのよ」

 シルフィードは呆れ顔だ。


 そんな、厄介な楽しい話なのか?


 疑問に答えてくれたのは、レティーシアだ。


「ソフィア、リサさんは、私達にゴブリン退治と……」

 なんだ、やっぱりゴブリンが……、倒す数が増えても……、


 コツン、


「痛っ」

 両手で頭を抑え、レティーシアを見た。


「泣かないでっ、ご主人」

 よしよしとチビが頭を撫でてくれる。

 もうっと、チビの腕を払いのけ、

 もう一度、レティーシアを見た。


「ちゃんと最後まで聞きなさい」

 テーブルに手をつき、彼女は顔を近づけてきた。フワッと甘い香りがする。

 自然と前かがみの胸元に目が持っていかれた。だってそこには……、


 白い谷間が……、もう少しで……。


「目を逸らさないで!」

「ごめんなさい」

 やべ、バレたかな……、


「私達に、古代樹の森を攻略させる気なのよ」

 彼女は、難しい顔で言い切った。


「最高じゃない」

 席を立ち、リサの元へ向かう。


「なっ!」

 悲鳴を上げた、エドワードを押しのけ宣言した。


「古代樹の森、面白そうじゃない、その依頼、受けるわ!」

 俺の声は、ギルドに響渡り、険悪な空気が辺りを支配した。


「なんだ、あいつ……」

「俺達を舐めてるのか」

「あれ、エドワードの連れだろ」

「あいつも、懲りない奴だ、今度こそ、死ねば良いのに……」


 俺を、「あれ」呼ばわりの上、「死ね」だとぉ。


 ヘルメスの杖を取り出し、

「文句があるなら相手」

「貴様、何をしている!」

 胸ぐらを掴み、言葉を打ち消したのは、エドワードだ。


「攻略は無理だ! 言葉を取り消せ!」

 掴まれた腕を、力で押し返す。


 その光景が驚かせたのか、エドワードの気迫が凄いのか、ギルド内は、俺達の挙動に注目していた。


「なんで無理なのよ、「死ね」とか言われて悔しくないの?」

 そうだ、「死ね」なんて軽々しく人に対して使う言葉ではない。


 言われる原因に心当たりがあっても許してはいけない。


 いや、違う、俺には見過ごす事は出来ない。


「無理なものは、無理だ、それは、三年前に……」

 彼は、顔を歪ませ、床を睨んでいる。


 何、まさか、こいつ……、以前、同様の依頼で失敗をした?


 なら、

「あんたが、そんななら、三年前の失敗は無駄になるわよ」

 成功者とは、失敗しても諦めなかった者の称号!


「なんだと!」

 エドワードが再び掴み掛かろうと向かってきた。

 ただ、彼にも理由があっての事だろう。

 彼の人柄から少しは理解できる……。


 それでもだ!


 ドン、


 魔力を込め杖の先で床を叩く、衝撃で床にヒビが入り、それ以上に空気を震わせ、辺りを威圧していく。


「失敗、何それ、私には、そんな事は関係ないわ」


「このメンバーでは、無理だ!」

 エドワードの視線は、レティーシアを捉えていた。


 それは、逃げる為の理由探し、

 そんなの許さない!


「今度は、他人のせいにするのね」

 もともと、俺は、誰も戦力としては期待していない……、でも、こいつ、


「私は強いのよ、あんたが信じられないくらいにね」

 今度は、体内に魔力を練り、空間を無差別に歪ませる。俺を、もっと信じろ!


「小娘の言う通りだわ、ジーク、私だって凄いのよ」

 シルフィードが、その身に風を纏いはじめ、ギルドの壁が、ギシギシと悲鳴を上げはじめた。

 ジークフリードも反対していたのか……、彼女も同じ気持ちなのだろう。もっと、信じろと……。

 それに、精霊の加護とは挑戦を諦めない者に与えられるものかもしれない。


「しかし、俺達は……」

 ジークフリードの口を人差し指で塞いだのはシルフィードだ。


 風のような彼女の動きを、誰も捉える事が出来なかった。


「もうっ、つまらない事は、言わないでっ、私をもっと信用して頂戴」

 彼女は、思ったとおり、信じてもらえない事に腹を立てている。


 意外に可愛らしい奴。


「あなたはどうするの? 三年前の責任を果たすの? それとも……」


「わかった……、その代わり、リーダーは私がやる、その事に、文句がないなら……」


「いいわ、みんなに文句は、私が言わせない」

 文句を言い出しそうなシルフィードを、魔力で威圧し黙らせる。


「ジークはそれで良い?」

 シルフィードは、俺を見てクスッと笑う。


「あぁ、それが一番だろう」

 ジークフリードは輝くような笑顔で同意した。その立ち直りの早さと、その笑顔はムカつくが、彼の言う通りだ。


 過去に何があったか知らないが、一番責任を感じているものが、責任者になる、それが、多分、最高に違いない。


「今度は、誰も死なせない」

「そうね、きっと上手くいくわ」

 エドワードの背中を言葉で押してやる。


「話は、終わったかしら?」

 リサが割り込んで来た。


「あらっ、いたのね」

「あ、当たり前じゃないっ、私は受付よ!」

 彼女は真っ赤な顔で抗議する。

 ちょっと揶揄からかっただけで、本気とは、面白い奴。


 それでも彼女は、真剣な表情で、こう述べた。

「我がギルドの念願を叶えてくださいね」

 もちろん、

「任せてっ!」

 ドーンと胸を叩き返事をすると、


「ない胸を叩いて返事しないで、私はリーダーに聞いてるのよ」

「な、無いって、ちゃんとあるわよ」

 耳が熱くなり、杖を振りかざす。


 それに、リサだって、そんなに大きく無いくせに!


 ポカポカポカ!!


「痛っ、ボンボンと頭を叩かないでっ!」

 リサが悲鳴を上げた。死んじゃえ、バカッ!


 彼女は、エドワードを涙目で睨みつける。

 彼が、すぐに返事しないのでじれったいのだろう。


「今度こそ、攻略してみせる、吉報を待っていてくれ」

 彼の力強い表情に、思わず杖を振る手を止めた。


「ええ、待つわ」

 さらに、涙を拭く、リサのうっとりとした顔に、うっかり魅せられてしまう。


「ソフィアさん」

「は、はい」

 彼女の声に、思わず返事を噛んでしまった。


「今日の修理代も払ってね」

「えっ!」


 ギルドは、床も、壁も、酷い有様だ。


「引っ越しした方が良いんじゃない?」

 シルフィードが、また余計な事をって、半分はお前が……。


「そうね、なら、ソフィアさんの攻略報酬は、全部、弁償代ね」

 リサは、信じてるわっと手を差し出してきた。


 まぁ、いいか……、金儲けなんて、つまらない事には興味無いし……。


「しょうがないわね、今度、来た時、全額支払うわ」

「ええ、その時までに、立派なお屋敷に引っ越しするわ」

 お互い、誓い合って、俺達はギルドを出た。

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