第68話 朝の休息

 あの会議から、南部の商館に、俺たちは寝泊まりをしている。


 理由は簡単、ここが、この街で一番安全だったからだ。

 イザベルは、なかなか油断ならない人物のようで、援軍の手際もそうだが、既に、商館にも兵士が詰めて、いやいや、それだけじゃ無く、停泊している船が、商船に偽装した軍船だとか、そもそも、執事も、かなりの実力者だし……


 こいつ、本気で交易都市を落とすつもりだったと、疑いたくなるくらいだ。


 伯爵も、自らの邸宅に誘ったが、もちろん、断り。

 北部都市国家群の商館は、暗いし狭いし、その上、なんか弱そうだし……あと、あの髭がどうしても許せない、あっ、カラムの事じゃなくて、彼が生やしている髭ね。

 その点は、イザベル、レティーシア、俺、女子三人の意見が一致し、北部はダメになった。


 早く、髭剃れよ、評判悪いぞ、カラム。


 まっ、いろいろあって、ここの世話になっているという事だ。


 会議に使用した大広間で、朝のお茶でくつろいでいると、扉の向こうから、ガチャガチャとやかましい音がする。


 懐かしい気配がする。


 昨晩遅くに、彼らが、交易都市の西に到着しているのだから、むしろ、遅いくらいだ。


「ソフィア殿、久し振りじゃな」


 扉が乱暴に開かれ、同時に、聞き覚えのある声が聞こえた。


 呼ばれた俺は席を立ち扉の方へと向かうと、後ろからエドワードもついて来た。


 ちっ、うざい奴だ。


 それにしても、目の前にいる爺さんの名前が……、え〜と、騎士団団長の……う〜ん……

「あら、久し振り、セシリアも元気だった」

 後から、入ってきた見覚えのある「おっぱい」にペコリとお辞儀をし誤魔化した。


 ナイスだ、俺!


 そして、相変わらず、けしからん、けしからんぞ!


 ちっ、そうか、これ、目当てか……


 後ろに振り向き、エドワードをギュッと睨みつける。


 おっぱい星人め、死ねっ!


 でも、セシリアが来たという事は、やっぱり、あの気配の塊は……、

 はぁ〜、何頭、プレボから引き出したんだっけ?


 レティーシアが、団長に気付き、

「バーナード、良く来てくれました」

 と嬉しそうに声を掛けた。


 バーナードは、即座にひざまずき、動かなくなった。


「団長、困るわ、以前のように接してくれて構わないわ」

 姫は席を外し立ち上がると側に行き、団長に手を差し出し、微笑んだ。


「王にひざまずくは騎士として、当然の……、おい、セシリア、なにを、突っ立っておる」

 バーナードは、出来るだけ姿勢を崩さないように、セシリアの頭に大きな腕を伸ばし、そのまま地面へと振り抜いた。


「きゃっ」と、セシリアは、小動物のような悲鳴を上げ、ドンという音と共に床に頭を打ち付けた。

 この場に、セシリア親衛隊の性獣ユニコーン達がいたら、きっと、バーナードの命は無かったに違いない。


 瞬殺だぜ、爺さん!


「姫様、セシリアの無礼、どうか、お許しを」

 バーナードは、セシリアを抑えたまま、自らも床に頭を付け、平伏した。


 てか、団長、お前、そこまで恐縮するなら、もっと丁寧に、扉を開けろよな……


 それと……


 セシリア……痙攣してないか、足がピクピクって……


 あっ!


 俺は、振り向き、エドワードの腹に素早く一撃を加え、奴の意識を飛ばすと同時に回復呪文も掛けてやる。


 意識だけを刈り取る完璧なコンボだ。


「おい、ソフィー、エドが何をしたというのだ!」

 ジーグフリードが慌てて駆けつけ、エドワードを抱きかかえる。


「何って、このスケベが、セシリアのパンツを見たからよ」

 そうだ、意識と共に、パンツも忘れてしまえエドワード!


「セシリアの……」

 ジーグフリードは、セシリアの方を凝視している。


「あ〜、このスケベ〜!」

 とりゃ〜っ、かかと落としをジーグフリードの脳天目掛けて落とすも、金髪のチート野郎は、両手をクロスさせ、それを防ぐ!


 やるな、性欲野郎!


 ジーグフリードは、エドワードを抱えながら、壁際へと距離を取った。


「ふー、ふー」

 毛を逆立て、呼吸を整えながら、金髪チートとの距離を詰める。


「ソフィア、やめなさいっ!」

「ふぎゃ?」

 レティーシアに、首元を掴まれ引き戻された。


「ふにゃ?」

 なんで、止めるんだ、レティーシア?


「もう、いいから、やめなさい」

 レティーシアは、俺を自由にすると、身を屈め、セシリアの服を整え、彼女のパンツを隠す。


「あと、バーナードも、もうやめて」

 さらに、彼女は、バーナードの肩に手を置き、ねっ、と念を押した。


「命拾いしたわね、ジーグフリード!」

 俺は、セシリアに回復呪文を掛けてやった。


「殺すつもりだったのか?」

 ブツブツと金髪チートは、何やら、呟いている。


「姫様がそこまでいうのなら……」

 バーナード団長は立ち上がり、


「いつも通りで、良いのよ、バーナード」

 とレティーシアは、テーブルの方へと、彼を招いた。


 皆がテーブルに付き、部屋に平穏が戻り、いつもの朝が戻ってきた。


「美味しいお茶ね」

 俺は、カップを手に取り、味と香り、そう、特に、香りを楽しんだ。


 良い香りだ。


 奥に座っていたイザベルが立ち上がり、扉の方へと向かう。


 朝から忙しい奴だ。


「ねぇ、あなた達!」

 扉に着くと、イザベルが何やら叫び始めた。


「何よ、うるさいわねっ!」

 誰も、返事しないので、代表して、俺が返事をする。


「ねぇ、どうするのよ?」

「何よ?」

 イザベルは、床を指差していた。


「はやく介抱してあげなさいっ!」

 彼女の足元には、ピクピクと痙攣しているセシリアがいた。


「セシリアなら大丈夫じゃ!」

 バーナードが太鼓判を押す。


「大丈夫って……」

 イザベルは、何やら絶句していた。


「彼も、ほっといて良いの……」

 彼女は、更に、わなわなと壁際に置いたエドワードを見つめている。


「エドワードなら、大丈夫よ!」

 回復呪文掛けたからな、奴が失ったのは、セシリアのパンツだけだ!


「えっ、えーー!」

 イザベルは、何を驚いているのだろうか?


 性癖は、あれだが、この世界では、戦力として、頼れるユニコーンが合流したのだ。


 今は、お茶を楽しもうではないか!


「イザベル、特に、用事が無いなら、早く、席に戻りなさい、彼らは、直ぐに、目を覚ますわ」

 俺は、イザベルを呼んでやる。


 平穏なんて、いつまで続くか分からないのだから……


「あなた達、いつも、こうなの?」


「そうよねっ」

 俺は、仲間達に、同意を求め、皆は、首を振って応えた。


 え〜〜!


 くっそ〜、裏切り者共め!


 そして、首を振ったチビは、おやつ抜きだからな!


 たがらな!

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