第73話 帝国の先兵

 青空を駆ける流星は、一筋の赤い残像を残しながら、猛スピードで東を目指していた。

 投擲とうてき者が意図してない魔力がエンチャントされた小石は、空気との摩擦によって、すり減ること無く、更にスピードを上げ突き進み、ある場所に、轟音を轟かせ着弾した。

 そこには、兵士達の驚愕の悲鳴と「敵襲!」という声が響いている。


 小石は王城の外壁を突き破り、謁見の間の壮麗な扉を粉々に破壊したのだった。


 謁見の間を守る兵士数人が犠牲になり、生き残った者は、「上級魔法でもビクともしなかった扉が……」と我を失い呆然としている。


 その参事の中、玉座の方から、太い笑い声が響く。


「カニング、貴様が下らん策をろうしている間に、この有様だぞ」


「そうですね、閣下。王城には、対策を講じておきましょう、しかし、閣下も私も、この程度では、傷を負わないのでは?」

 痩せた男は、興味無さそうに、破壊された扉の方を眺めている。彼にとって、この攻撃の戦略的意図は皆無で無駄だと思えたからだ。


「ふん、貴様は、だからつまらんのだ! 面白い宣戦布告ではないか!」

 逆に、レイダーは、興奮が収まらない様子だ。


「はぁ〜、そうですか……閣下の物好きにも困ったものです。そういえば、そろそろ、我々の先兵が交易都市に着く頃です。彼らは手厚く歓迎して頂きたいものですね……、それでは、閣下、いろいろと私は忙しいので失礼しますよ」

 と言い、カニングは敬礼し広間から出て行く。


「ふん、やな奴だな……」

 レイダーは、出て行くカニングの背を睨み、

「俺は、面倒は嫌いだが、たしかに、奴の言う通り、これは、戦争だからな……」

 前屈みになり、獰猛な歯をみせた。




 船着場で彼方へと投げた石がしでかした惨事を知らない俺は、呆れた顔で、川辺の切り株に腰掛けていた。


 広場を飛び出したユニコーンと騎士達は、町の対岸にある浅瀬の側にいた。そこで、騎士達から、この場所を教わった。


 そして、この有様だ……


「男性は行けない」という言葉で、あらかた理解はしていたが……


 目の前の浅瀬では、ユニコーンのユニ子達が、少女達の恥ずかしがる悲鳴を聴きながら楽しそうに水浴びをしている。


 かなりエッチな光景だ!


 だって、ほら、鎧を脱ぎ、水に濡れた衣服が、若い張りのある肌に張り付いた様子は、とっても、けしからんし、

 俺の高性能エルフガンは、その衣服の先も射抜いている、実に、けしからんではないか!


 俺に気づいた、一頭のユニ子が、側によって来た。


 挨拶に来るとは、中々、可愛い奴ではないか、よし、撫でてやろうと立ち上がると、明らかに俺の胸を見てため息を吐き、川へと帰っていった。


 ぐぬぬ、何しに来やがったぁ〜、バカァ〜!


 くそ、やっぱり、ユニ子達は、変態のバカ馬だ!


 走ることしか能が無いくせに、身体的特徴で差別するな、バカ!


「あら、ソフィアさん、いらしてたんですか」

 俺に気付いたセシリアが、ですかぁ〜と胸を寄せ挨拶をする。


 くっきりと表れた深い谷間に理性が落ちそうになるが、しっかりと踏み止まる。


 俺だって腕を寄せれば深い谷間ぐらい出来るんだぞ!


 平静を装いながら、疑問を口にした。


「こんなに、女の子、いたかしら?」


 確か、俺と出会った頃は、騎士には、セシリアぐらいしか女性はいなかった。


「そ、それはですね……騎士の数よりユニコーンさん達が多かったので、いろいろあって……」

 セシリアは、モジモジと身をよじらせ困っている。


 いろいろあったのだろう……よしよし、お兄さんは、汝の全てを許そう!


「もう、いいわ、何となくわかったから、で、広場で勢いがあったのも、これが原因なのね」

「まぁ、私達も、少しはユニコーンさんを操れるように、なったんですけどぉ」

 セシリアは、濡れた衣服が張り付いたおっぱいの前で手を組み、お互いの指先を回している。


 うんうん、多少、操れなくても、お兄さんは、汝の全てを許すぞ!


「もう、何も言わなくていいわ」

「ごめんなさい」

 ペコリと頭を下げると彼女は浅瀬へと戻っていった。


 なんて事だ!


 俺は、天を仰いだ。


 セシリア達に罪は無いが……


 ユニコーンを戦力に計算して大丈夫なのか?


 頭を抱えながら、切り株に腰を下ろすと、離れた場所に居るバーナード団長達が騒ぎ始めたのが聞こえた。


 何事かと、周囲を探ると、大河に掛かる橋の方に、大勢の気配を感知した。


 その気配は、隙間なく東へと続いている。


 慌てて、【フライ】で上空に舞い上がり、肉眼で確認した。


 東へと広がる緑豊かな草原に、無数の黒い点が連なり、地平線まで続いている。


 その黒点は、東から此方に向かってくる人々で、年齢も性別も様々、荷馬車に家財道具らしき物を積んでいる者も多数、混じっていた。


 これは、東から流入してくる難民だ!


 先頭は、既に、橋の検閲所に達しており、そこに配置された兵士との押し問答も始まっていた。


 検閲所から、伝令が馬にまたがり町へと駆ける。


 俺も急いで商館に戻ることにした。


 難民は、町の食糧を食らい尽くす。


 これでは、帝国が攻めてくる前に町が崩壊してしまう。


 帝国は、最も厄介で凶悪な先兵を差し向けて来たのだ!

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