旅立ちの物語
第27話 冒険者ギルド
母さん、今、僕は、憧れの場所の目の前にいます。
そうです、幼い頃から憧れていた職業、その職業には必須の場所です。
あぁ、なんて、見すぼらしいボロい建物なんだ!
お金の匂いをまったく感じさせない、質素なその建物は、いや、廃墟は、清貧、いやいや、貧乏という言葉こそ、相応しい……。
夢とは、儚いものですね……、母さん……。
ゴン、
エドワードが俺の頭を殴った。
「何、突っ立てる、行くぞ、田舎者」
「何よ、そこに、【冒険者ギルド】って書いてあるじゃない、あなた、字、読めるの?」
ちゃんと看板に書いてあるぞ、エドワード、お前、馬鹿なんじゃないのか?
「ちゃんと読め、慌て者!」
呆れ顔で彼は指摘した。
むむむ、
なになに、
「ぼ、う、け、ん、しゃ、ぎ、る、ど」
俺は、エドワードをキッと睨み、
「冒険者ギルドって書いてあるわよ!」
バーカ、バーカとエドワードの背中を強く叩く。
「よく見ろ、馬鹿者!」
また、馬鹿って言ったな、俺だって、気にしてるんだぞ!
「ソフィアさん、隣の看板」
テテテっとクララが、廃墟の、いや、冒険者ギルドの方に駆けて行く。
彼女の指差す看板には、
「移転しました」
と書かれていた。
二つを合わせると、
「冒険者ギルド移転しました」
「何よ、これ! 馬鹿にして!」
くそっ、燃やしてやる、杖はどこじゃ、杖は!
地を這う風がスカートを襲う、
「きゃっ」
その程度の風では、俺の絶対防御は崩れないぞ! いろいろ反省して、俺も女子力を高めるのに余念がない。
そして、なんで、エドワードが目を逸らしてるんだよ! 絶対、見えてない筈だろ!
それにしても、ピンポイントとはやってくれる。
「おばさん、何するのよ」
「ガキが、火遊びをしようとするからよ」
ジークフリードの腕に絡まりながら、ベーと舌を出しているのは、風の大精霊、シルフィードだ。
「だいだい、なんで、あなたまで来てるのよ!」
「私はジークと一心同体なの!」
「まぁまぁ、二人とも仲良くして」
仲裁に入ったのは、ハーレムリーダー気取りのジークフリードだ。
「何よ、女たらし、馬鹿っ!」
ポンコツな言語補正が憎らしい……。
「ご主人の早とちりっっ」
フェンリルの化身、チビが俺の頭をヨシヨシと撫でてきた。
おぉ、貴様、飼い主気取りとは、大層なご身分だなぁ。この、ケモ耳、ロリ巨乳の犬ころめっ!
「ソフィアと一緒にいると、にぎやかで飽きないわ」
うふふ、とレティーシア姫が笑っている。
当初、姫は、このパーティには、参加しない筈だった。
ニーベルン城は、安全だからだ。
だが、彼女は、辺境伯に参加を直訴した。
それが、辺境伯の親父を喜ばせたらしい……
こっちにも、人外が二人いるからな、エルフと大精霊、いや、フェンリルもいる、三人? そもそも、みんな、人間じゃない……、人外ってなんだ?
そして、辺境伯の出した条件は簡単だった。
姫としては、扱わない、
たった一つ、それだけだった。
簡単な条件だ!
あいつも、馬鹿なのか?
このメンバーで、身分にこだわるのは、エドワードぐらいだ。
ニーベルン城を出立してからは、彼も、そのようには、決して扱わなかった。
むしろ、それが、彼らしいとも言える。
一番、大変だったのは、近衛騎士団の連中だ。
彼らは、最後まで、姫と共に行くと主張していたらしい。
騎士団が動くと、ユニコーン三百頭も、おまけで付いてくる。
あいつら、最早、セシリア親衛隊だからな……、目立ってしょうがない。
危険が増すだけだ。
最後に姫が説得して、騎士団は渋々、ニーベルン城に残る事になった。
「ほら、置いていかれるぞ」
エドワードに、腕の裾を引っ張られ、皆の後を追いかける。
俺たちは、デューク男爵の治める、この町で、冒険者の登録をすることになっている。
冒険者の資格は、身分を隠すのに都合が良いらしい。
密かに王都の様子を探ってから、北部の軍と合流する。
これが、俺たちの旅の目的だ!
それにしても、帝国は【ホルス】という、立派な諜報機関があるらしいが、
「王国にそんなものはない」
ガハハと笑い、辺境伯は自慢していた。
あと、
「お前と、ジークで小国の一つ、二つは滅ぼせるぞ」
と物騒な事をほざき、
「俺の方が、強いがな」
と負け惜しみを言っていた。
ハゲルの癖に、生意気な辺境伯だ!
「いつまで、引っ張ってるのよ、服が伸びるわ」
我に返り、エドワードに注意する。
【リペア】で直らなかったどうすんだよ!
「す、すまん」
エドワードは、慌てて裾から手をはなす。
相変わらず、お前も、ポンコツだな。
「ソフィアは、本当に楽しそうね」
レティーシアと、俺との間に風が吹き抜けていく。
シルフィードの仕業だ。
その証拠に、あいつは、あかんべ〜をしている。
いちいち昭和臭いぞ! ばばあ!
レティーシアと肩を並べ、冒険者ギルドに向かった。
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