第25話 スーパーノヴァ

「もう、後悔しても遅いわよ、エルフの小娘」

 シルフィードは、腕を組み睨みつけてくる。


「私の邪魔は、許さないわ、風のおば様」

 ババァは、引っ込んでろ!

 俺は、大精霊を睨み返し、隙をうかがう。


 壁の上で観戦していた者達は、騒然としていた。


「ソフィア殿は、何と戦っておるのじゃ」

 バーナード団長は、訓練場を覆う結果が震える度に絶句していた。


「あれは、まさか、大精霊様では……」

「セシリアといい勝負だ……」

「いや……、大精霊様の方がでかい」

「いやいや、セシリアの方が若さがある」

 騎士達も、勝負の行方に興味があるようで真剣に観戦している。形は、俺が一番のはずだ! きっと、需要はある大丈夫……。


 まあ、何にせよ、誰もが、目を離せないでいるようだ。


 それも、当然。


 訓練場の空中に、風を纏い浮遊する女性がいる。

 彼女からは、何者も逆らえない力を感じさせる何かがあった。


 そう、何かだ! 人の畏怖に直接訴える、何か……、絶対に敵わないと思わせる何かだ!


 それ故に、観戦者達は、その女性が大精霊であり、しかも、その中でもかなり高位だと確信した。


 決して、人では敵わない、超常の存在、それが、今、少女の目の前にいる。


 しかし、その銀髪の少女は、先程から雷に、何度も撃たれ、やや焦げている。


 いい、焼き具合だ。プスプスと煙も出ている。それは、生きているだけで称賛に値する状態だった。


 もはや、勝敗は決しているのではないか……皆、思考の過程はどうあれ、同じ結論に達していた。


 それでも、高位の大精霊とエルフの少女の睨み合いは続き、今度は少女の身体に異変が起きた。

 銀髪から赤い燐光を発し、身体が神秘的に輝きはじめたのだ。


「どちらにしても、ソフィア殿の胸では、勝ち目はあるまい」

「そうだな……」

 皆、声を揃え同意したのが風に乗って聞こえてくる。なんて、失礼な、奴らだ、ばかっ。


「どうやら、女としては、私の勝ちのようね」

 シルフィードは、組んだ腕で胸を持ち上げ、その大きさを強調した。


「大き過ぎて、品がないわ、おば様」

 嫌味を言いながら杖に魔力を込める、直接、魔力を放つ感覚、それが、もう少しで掴めそうだ。そして、俺は、貧乳ではない、ちょうど良い大きさ! ホントだぞ!


 シルフィードも両手を広げ、大気から力を集めはじめた。


「ガキの癖に、調子に乗らないで、全てを凍らす風、ボレアース・ウインド」

 大気中の水分が凍り、地面にも霜が降りる、全てのものは、その低音の風に温度を奪われ活動を停止していく、絶対零度の風、ボレアース・ウインドが発動した。


「おばさんの癖に、その程度の冷風で調子に乗らないでっ!」

 イフリートの加護を意識しながら、魔力を練っていく、ただ、純粋に熱を意識して、高熱を、形あるもの全ての存在を否定する炎……、光……、それは、超新星ペテルギウスの最後の閃光、それを、ここに、具現化する試み、さぁ、全てを破壊し、喰らい尽くせ!


超新星爆発スーパーノヴァエクスプロージョン!」


 絶対零度の風と、絶対超温の閃光のぶつかり合いが実現した、


 はずだった……。


「やめんかぁ〜」


 ズドーン、ズドーン、


 目の前が、真っ白になり、一瞬、気を失った、練っていた魔力も霧散した……、くそっ、油断していた、極大の雷撃を無防備に受けてしまうとは……。


 フラフラと、両膝を地面につける。

 もう、やだっ、疲れた。


 あと少しで、俺の最高傑作、超新星爆発スーパーノヴァエクスプロージョンが全てを焼き払ったというのに……。


「なにするのよ、ジジイ!」

 声を荒げたのは、シルフィード。彼女も地面に片膝をつき、プスプスと焦げている。ふふふ、さらに髪の毛はアフロ、お似合いだぜ、ざまぁみろっ!


 でも、あれあれ? 雷撃は、シルフィードが放ってたんじゃ……。


「貴様ら、ワシの結界の中で、何するつもりじゃ!」

 いつの間にか、上空から、ハゲのジジイが、俺とシルフィードのおばちゃんを見下ろしていた。


「あんた誰よっ!」

 ジジイ、てめぇも一緒に丸焼きにしてやる。


「ワシの名は、トール、この城に加護を与えし者じゃ」

 トールって、あの雷神の……、燃やしがいがありそうだ。


 あと一発ぐらいなら、超新星爆発スーパーノヴァエクスプロージョンを放てるはず!


「や、め、ん、かぁ!」

「ぐげっ!」

 くそ、雷撃って、速いからきたない、この、ハゲ、降りてこい!


「そこの、エルフ、この城、いや、この辺り一帯を消し炭にするつもりか!」

「ここの結界は、丈夫だって、そこの、女たらしが言ってたわよ!」

 俺は、ジークフリードを指さした。お前、よく生きてたな、そういえば、チビは……。


「馬鹿者、耐えられるか!」

 ちっ、太陽の光を反射して、ジジイが眩しい、流石、雷神、いや、ハゲてるのか?


「トール、邪魔しないでよ」

「シルフィード嬢、お主も自重しろ」

「なによ、エロジジイ、いつも、女の尻ばっか追いかけてるくせにっ」

 プスプスと身体から音をだし、シルフィードは、トールのジイさんに悪態をついた。


「ねぇ、シルフィード、私のスカート、風でめくった?」

「小娘のスカートなんかに興味ないわ、私はジーク、一筋なのよ……、多分、あの、エロジジイじゃないの」

 ジーク、一筋? まさか、シルフィードは、ジークフリードに加護を与えてるのか……、それよりも、上空にいる、エロジジイだ!


「ねぇ、あんた、私のスカート、めくろうとした?」

 雷神トールは、キョロキョロと挙動不審になった。


 ほほう、すぐに返事はせんのか……。


「まぁ、二人とも、ほどほどにやりあえ、ワシは忙しい……、さらばじゃ」

 トールは、そう言うと、姿が掻き消えた。


 くそっ、逃げやがった……。


「あなたも、災難ね、ジジイは、城の何処にでもいるから、気をつけるのよ、疲れたから、私も消えるわ」

 じゃあねと、シルフィードも何処かへ消えていった。


「おい、大丈夫か?」

 ジークフリードが近づいてきた。


「そうね、私と手合わせする?」

 なんか、服もボロボロだ……、帰って寝よう。


「いや、遠慮させてもらおう、まだ死にたくないからな」

 彼は、きっぱりと断った。ちっ、命拾いしたな。


「じゃ、私、帰るわ、部屋までちゃんと連れてってね」

 かなりダメージを負ったので、ジークフリードの肩を借りた。かなり、悔しい。


 チビの奴は、訓練場の隅で震えていた。もはや、怯えるただのロリにしか見えない。


 犬は、雷が苦手だからな……。


 雷神トール、次は必ず倒す!


「しっかり、傷を治してくれ、三日後には、王都奪還に出発するぞ!」

「ジークフリード様、ソフィーには、ちょっと厳しいかもしれません!」


 おい、ジークフリード、てめぇ、人使い荒くねぇか?


 エドワードが考え直すように進言するが、ジークフリードは聞かなかった。


 エドワード、パンツの件は忘れてないからな!


 両側から、二人に支えられ部屋まで戻り、ぐっすりと眠り、次の日からは、来たるべき王都奪還に備える為、いろいろと準備に励んだ。

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