第77話 扉

「通さないわよ」

 シルフィードが、扉の前で仁王立ち。


「ちょっと、どいてよ」

 どけ! おばさん!


「ダメよ、事情は知ってるでしょ」

 彼女の声は、まるで子供をあやすかのようだった。


 俺は、足を閉じ、前かがみでモジモジと

「でも、漏れちゃうっ」

 と言ってみる。


 流石の彼女も、美少女のモジモジ、上目遣いは耐えられないと見え、

 顔を赤くし、目をそらすと……、


 ほいっとコップを差し出してきた。

「ほらっ、これにしなさい!」

 ビシッと堂々と言い切る、彼女の姿にビックリだ!


 オドオドするならノーマルだろう。

 ニタニタならヘンタイだ。

 そして、この態度は、正にドエス、きっと彼女には眼鏡がよく似合うに違いない。


「えっ! ホントにいいの?」

 モジッとしながら、コクッと首を傾ける。


「早くしなさい、どうせ嘘でしょ」

 クソッ、コイツ! 後悔するなよ!

 俺が調教してやる!


 えい、ままよとスカートをまくり、パンツに手をかけたら扉の方が勝手に開いた。


 そこから覗くは、エドワード。


 よっ、久し振りと目で挨拶すると彼は真っ赤な顔で逃げるように扉を閉じた。


「なによ、馬鹿っ」

 ちっ、愛想ない奴。しかし、相変わらずポンコツな言語補正に失望し、パンツを脱ぐのは諦めた。


 命拾いしたな、シルフィード!


「当たり前じゃない、むしろ、エドワードの態度は紳士的よ」

 シルフィードは、腕を組みをして呆れている。

 その姿、眼鏡と指し棒があれば、ドエスな女教師そのもので、ゴクリと息を飲み込んだ。


 それにしても、確かに……、美少女がパンツを脱ごうとモジモジしている姿は、さぞかしエロかろう。


 ショックで、耳が熱くなる。

 もしかした、顔から火を吹いているかもしれない。


 あら、やだ、恥ずかしい!


「えぇ、やだっ」

 くそっ、あいつ、殺す!

 スカートの裾を抑えてへなりと床に座り込む。


 それでも、やっぱり、

「私は、外に出るわ、邪魔はさせない」

 ぶーぶーとシルフィードを睨み、魔力を練る。


 邪魔だ退け、建物ごと、ぶっ飛ばしてやる。


「あなたの為なんだけど……」

 気迫に負けた彼女が道を開けた。俺は立ち上がり、パンパンと服の埃を払い、彼女をぶーともうひと睨みしながら部屋を出る。


 エドワードの姿が見当たらない。

 あいつ、逃げやがった。


「もうっ、せっかく、一緒に行こうと思ったのに」

 ポンコツ補正は放っておいて、未だ、無一文、この国の通貨を持たない俺には、あいつは、良い財布になったに違いない。


 それにしても、アイテムボックスに有り余る魔石が換金できれば、全て解決だが、それは、中々、難しいらしい。

 この間の魔石も、まだ、全て換金出来てない。

 買い手を見つけるのも困難だが、値崩れせぬよう配慮するのも大変だと、似合わん髭をいじりながら、北部のカラムが偉そうに言っていた。

 その髭、いつか、むしってやる。

 その時は、イザベルも呼んでやろう。


 チビのガマ口財布は、クララが預かっている。

 そういえば、あいつ、最後の方は声を聞いてないけど、大丈夫か? まあ、いいか……。


 ぶらり、チビと久し振りに二人で散歩、金がなくとも、きっと楽しい。


 レティーシア、ジークフリードは、毎日、会議で忙しそうだ。


 会議、会議、会議、

「ホント、バカみたい」

 ぷーと頬が膨らんだ。


 階段を降り、商館の一階、荷捌き場に出た。

 テケテケと付いてきたチビが、ほへーと服の裾を掴んでくる。


 何やら、物騒な雰囲気が漂ってきた。


「よう、嬢ちゃん、部屋から出て良いのか」

 声の主、南部の軍服を着たおじさまに、俺は、尻を両手で抑え、警戒の色を隠さない。


 彼は、ニカッとしたダンディな女たらしの笑顔で、俺の肩に手を置いた。


 これも、セクハラだかんな、訴えてやる!


 足をジワリジワリと横に動かし、距離を取ろうとするが、

 おじさまったら、付いて来て逃してくれない、むむむっっ。


 彼の歯が、薄暗い荷捌き場でキラリと輝く。

 あら、やだ、コイツ、死にたいのね。


 ジークフリード以来の、おじさまのスキルに殺意を覚える。


「ねぇ、なんの騒ぎ?」

 荷捌き場では、難民であろう大勢の人々が、南部の軍人達、数人に詰め寄っている最中だった。


「嬢ちゃん、それ、聞いちゃう?」

 困った笑顔で頭をかく、おじさまに、


「あなたも働いたら?」

 ジト目で抗議し、すかさずお尻に伸びてきた、彼の手をパシと叩く。


「ひゃっ」

 くそっ、触られちゃった。

 ヤダもう、死んじゃえ!

 身をよじらせ、猛烈に抗議してやる。


 お前、もうそれ、犯罪だかんな!


「相変わらず、嬢ちゃんは甘い、甘い」

 また、コイツ、歯を輝かせやがった。


 キー! 女の敵は、ぶっ飛ばしてやるんだからねっ!


「ご主人、この人、殺っちゃって良いの?」

 チビに何故か、火がついている。

 結構、ガチな雰囲気だ。

 だが、所詮、ケモ耳で背の低い、ロリ巨乳。


 おじさまは、歯を輝かせ、ニッコリとチビに微笑んだ。


 チビは、チビの方で俺を盾にして、彼から逃げた。

 お前、ガチ前衛だろ? フェンリルだろ?


「ご主人、あの人、きもい」

 とボソリと呟いた。


 荷捌き場の騒ぎは収まる気配がない。


「俺たちは奴隷じゃない!」

 難民達が抗議する声、

 なぜか、それが、俺の胸をさす。

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