第76話 商館の窓辺
南部の商人たちは、大陸全土に
彼らはたくましくもあり、強い。
沖には五隻の軍船が、川の流れに沿うように、一列に並んでいる。
軍船には五本の帆柱が立ち並び、両舷には砲門を格納するハッチがいくつも確認できた。
交易都市、その大河の船着場は、近年、稀に見ない賑わいを見せている。
南北から、荷船がひっきりなしに行き交う。それは、まるで、南部と北部の意地の張り合いのようだった。
そして、今まさに、桟橋に停泊しようと、荷船が、深く船体を沈ませ、帆先にくくりつけられた赤い旗を風になびかせ進んでいる。
「あれは何かしら?」
俺は、商館の窓辺から見下ろし、今日も、そこから、船を指差す。
「船ね」
「ふねーっ」
クララはドヤ顔で胸をはり、チビは白銀の尾を激しく振る。
「じゃ、あれは?」
「小さい船よ!」
「ふねーっ!」
クララは、当然とばかりに胸をはり、チビは大喜びだ。
何が嬉しいんだ? コイツ……。
「じゃ、あれは?」
「ち、小さい船よ!」
「ふねーっ!!」
クララは、何故か言葉に詰まるが、強気に胸をはり、仰け反る。そのまま、ブリッジする勢いだが、身体がブルブルして、目に涙を溜めている。
馬鹿だなコイツ……。
チビは、ランランと目を輝かせて、俺を見ているが……だめだ、子守は、飽きた……。
窓にのの字を書いてみる。
これが、大人の仕草というものだ、学べ、ガキ共と自分に感動していると、
船着場が一段と騒がしくなる。
桟橋に着いた、南部の荷船の準備が整ったようだ。
そこに、アリのように人が群がる。ここ、数日続く見飽きた光景が、また、はじまる。
相変わらず、沖の軍船は、等間隔に停泊したまま動きは無い。
五本の帆柱と、それを支えるロープが織りなす海賊船のような姿は、俺の興味をそそるが、
「あれじゃ、飾りね」
と動く気配のない船に思わず不満を漏らしてしまう。
「散歩に行くわよ」
もう我慢ならんと呟いた一言に、
「行く行くっ!!」
チビは大喜びで白銀の尾をフリフリし、両手を上げて、ヤッホー、ヤッター! 散歩だワンと飛び跳ね、豊かな胸を大きく揺らす。
その、ケモ耳、ロリ巨乳ぷりは、益々、破壊力を増していた。
ああ、もお、抱きしめたい!
「ソフィ、外に出たらダメよ」
めっ! とクララは、ご立腹な様子だが、相変わらず仰け反ったままで、両腕を回しバランスを取るのに必死になっている。
いいぞ! 頑張れ!! イェーイ、レッツ、リンボー!!
それを、横目に、俺は、腕の中のチビのモフモフを楽しむ。
彼女は、早く散歩に行きたいらしく、ムムムーッともがくが、ギュギュギューッとして逃すまいと力を込める。
「あなた達は、外に出ない方が良いじゃない?」
シルフィードが忠告してくる。
「そ……」
クララは、ついに倒れたようで、後頭部を抱え床に伏す。
彼女達は、難民が広めた噂を気にしているらしい。
「いつまでも部屋の中じゃ、腐っちゃうわ」
チビを腕から解き放つ。
「ご主人、散歩に連れてってっっ」
チビは、白銀の尾をブンブンと振る。
情けないことに、もう三日も南部の商館から出ていないのだ。
くそっ!
ホントに腐っちゃうぞ!
ホントだぞ!!
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