第56話 再会

 鳩は、空中で旋回し、港のそばに建つ立派な屋敷へと滑空していった。


 俺は、エドワード達を追い掛けながら、丘の上から石畳の坂道を下っていく。

 緩やかに曲がる道の両脇には立派な民家が連なっていた。


 前方の丁字路には、木々が見え、枝の隙間からは水路のせせらぎが見える。


 住宅街を抜け、そこを曲がり、大通りに出ると人混みに圧倒され、先頭を見失わないように必死に目を凝らし先頭を追いかける。


 物資の集まる交易都市と聞いていたが、馬車は少ない。


 代わりに、水路には荷物を山のように積んだ船が交通渋滞さながらに行き交う。


 このような光景を見ていると、どうしても、もっと傾けとか、それ、ぶつかれとか、いけない事を考えてしまう。


 そんな邪な考えとは裏腹に、先頭達は慣れたもので、無秩序な水路に負けず、悠々と船を操っている。


 とても残念だ。


 レティーシアに服の袖を引っ張られ、いかんいかんと、早足で急ぐ。


 エドワードとジークフリードは、仲良く肩を並べている。


 もちろん、後ろなんて振り返らない。


 二人だけの世界だ……。


 とても、微笑ましく思っていると、脇の水路の幅が広くなり、対岸には木箱が積まれた倉庫のような建物がちらほらと目立ち始めた。


 そこから道は水路から離れていく。


 荷船達の競演との別れを惜しんでいると、


 美味そうな香りに心を奪われた。


 それは、布製の屋根を持つ木造の建物からのようだった。


 通りに面して壁を持たない、それは、この世界での屋台と言っても良いだろう。


 いや、あれは屋台だ!


 フリフリドレスを着たチビが、ふらふらと屋台の方に歩こうとしている。


 クララは連れ戻そうとしているのか、ズリズリと引きずられていた。


 とても不憫ふびんだ。


 彼女の力では、とても無理だろう。


 何と言っても、チビは、一応フェンリルだし、俺でも、あいつには、物理的な力では到底及ばないのだから……。


 屋台には興味ないが、俺が行かなくては、収まるまい。


 屋台に興味を持たない俺は、チビを連れ戻すことにした。


 まったく、けしからん香りだ!


 すれ違う人は、串に刺された肉を頬張っている。


 なんて、下品な!


 買い食いで、しかも、歩き食いだ!


 はしたない!


 目の前には、はしたない肉が所狭しと並べられ、無残にも串刺しにされ焼かれていた。


 隣にやっとチビが来た。


 クララに掴まれたぐらいで、俺より到着が遅いとは情けない……情けないぞ!


 それよりも、


 一刻も早く、肉を助けなければ、

 あのままでは、あまりにも残酷だ!


 串刺しにされ、焼かれている肉は、その身から涙を滲ませ、たらし、その芳ばしい香りで、


 必死に、助けを求めている。



 助けて〜、助けて〜、


 早く助けて下さい、


 と叫んでいる。



 チビに手を差し出し、カネをせびる。


 心得たと、チビがガマ口の財布を開けるところで、


 肩を掴まれ割り込まれた。


「親父、これ頂戴、あっ、こっも!」

 華奢な黒髪の女性が、勢い良く注文していく。


「ちょっと、こっちが先よ」

 肩を掴み、彼女の顔を見た。

 地味だが整った顔立ちだ。

 見覚えが有るような、無いような……


「なによ、もたもたしてるからよ、こっちは、人を待たせてるの!」

 女は、カネを出しながら肉を頬張り始めた。


 この食い意地、どこかで……


 クララは、指差し口をパクパクしている。


 そうか、お前も肉を食いたいか、育ち盛りだからなっ!


「アンジェラ姉さん、寄り道はやめて下さい」

 腰に二本の剣を差した男だ。


 双剣使いのようだ。


 男と目が合った。


 あっ、こんにちは、と頭を下げる。


 後ろには、盾を背負った男、確か、ゴリさんだっけ……、


 あと大剣使いか……名前忘れたけど、確か、俺の腕を斬った奴だ……


、早く……」

 双剣使いが、食い意地の張った女を呼ぶ。


「あんた達の分もあるから……」

 アン姉さん、いや、アンジェラか……イージスの盾に最後、阻まれた、あの時のデバフ使い!


「ちょっと待ちなさいっ!」

 アンジェラの肩を掴む。


 そして、俺も、別の人から、肩を掴まれた。


「ソフィ、頼むから、知らないひとに絡まないでくれ」

 ジークフリードの呆れた声だ。


「あっ、あんまくなやら!」

 頼むから食いながら喋るな、アンジェラ!


「姉さん、飲み込んでから!」

 双剣使いが、アンジェラを諌めた。


 お前らも、大変だな……



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