第57話 絡まる人々

 アンジェラは、肉を飲み込んだ。


「あら、久し振りね、エルフのお姫様」

 微笑をたたえる彼女は、やはり地味だが愛嬌があり、よく見れば美人かもしれない。


 食べる? と仲間の男達に串を、甲斐甲斐しく勧め、


 イージスの盾を背負うゴリさんは、ちょーだいと手を伸ばし、


 あーげるっと、アンジェラは串を手渡した。




 そんな中、一番、頭の切れそうな、双剣は、


「姉さん!」

 と叫び、アンジェラの肩を揺さぶり、耳打ちをした。


「ダメでしょ、エルフなんて言ったらっ!」

 こらっ! と諌める内緒話は、丸聞こえだ。


「知り合いか?」

 ジークフリードの声には警戒の色がある。


 もちろん、俺には、彼が知らない、知り合いなど、いる筈が無い。


 いるとすれば……


 側にいるエドワードは、腰の剣に手をかけ、抜刀する寸前になった。


 彼らの知らない、俺の知り合い……


 それは、城下町で、俺と引き分けた奴等ぐらいだろう。


 アンジェラの「エルフのお姫様」発言を発端として場は緊張した。


 そんな彼女のおつむは、ちょっとあれだが、魔法は、とても厄介で、嫌な思い出しかない。


 アンジェラが、魔力を練り始めた。


 俺は慌てて、屋台から無造作に串をガハッと掴み、その内の一本を上手に彼女の口へと放り込む。


「おひばーばばし!」

 アンジェラの厄介な魔法を妨害した。


 彼女は、もぐもぐと俺を睨む。


 ふふんだ!


 腰を手をやり、してやったりの笑みで彼女を睨み返す。


 ジークフリードは、律儀にカネを投げ払っていた。


 流石、リーダー、僕らの財布、頼りになる男だ!


 店の親父はカンカンに怒っているようだが、エドワードは、さらにカネを握らせ黙らせた。


 流石だ!


 俺は、掴んだ串を華麗な手つきで両手に広げ、彼女と対峙する


 あの時とは違う、俺には彼女の魔力の流れが手に取るように分かる。


「ばるわら!(やるわね!)」

 もぐもぐしながら、アンジェラは喋る。


「だから、姉さん、飲み込んでから!」

 双剣は、必死だ!


 彼女はごくんと飲み込み、俺は、串をすかさず放り込む。


「おひばばば!」

 口から串が突き出したまま、詠唱をもぐもぐとしくじった。


「ばんねんならばいっ!(観念しなさいっ!)」

 口の中に肉汁が広がる、表面はパリッと歯応えがあり、中は柔らかくジューシーだ。


 俺も、どうやらアンジェラに串を放り込まれたようだ。


 やるな! アンジェラ!


 それにしても、


 この肉……美味い……


 味付けは、塩と胡椒で簡単に仕上げてあり、そこが、たまらなく美味い!


 素材を活かした良い仕事だぜ、親父!


 屋台へと振り返り、グッジョブと腕を突き出した。


 エドワードは軽く、俺の頭を叩き、ジークフリードは、俺とアンジェラの間に割って入った。


 イージスの盾を背負うゴリさんは、ジークフリードと向かい合う形、アンジェラをかばうように移動する。


 均整な引き締まった贅肉の無い、美しい身体を持つ黄金髪の青年、ジークフリードと、


 太い腕と厚い胸板が目立つ、がっしりとした大男のゴリさんが、見つめ合い、火花を散らし語りあった。


 膠着状態になり、嫉妬したエドワードが、ジークフリードの加勢に入り、所有権を主張する。


 彼は、きっと、ジークは俺の物だ! と言いたいのだろう……、ぐへへ……。


 アンジェラは、興味深そうに串を眺め、それを口に運び、もぐもぐしている。


 喧嘩だ! 喧嘩だ! と野次馬が集まり出した。


 祭りが好きそうな騒がしい男達に混じって、その連れだろうか、婦女子の姿もチラホラと見える。


 この町の人たち、いや、ここが、港に近いからだろうか、こういうのが、好物らしい。


「兄ちゃん、早くやれ!」

「でかい方に、俺は賭けるぜ」

「いや、俺は、色男の方だ」

「いやいや、黒髪の方が好みだ」

「ご主人、頑張れっっ」


 とか騒がしい。チビは、あとで説教だな……。


 チビが屋台にカネを払い、串を買い、クララと一緒に食べ始めた。


 クララは、食べ慣れていないようで、串を真っ直ぐに口に運ぶので、最初の一口、二口は上手く食べれたのだが、三口目になると、串の先が喉に当ったようで、何やら首を傾げ、試行錯誤している。


 チビは、クララの肩を叩き、串を横にして食えと、自ら手本を見せ、彼女もようやく、疑問が解けたようだった。


 そんな中、膠着を破ったのは、双剣使いだった。


「俺たちは、ここでやり合う気は無え、あんたらもそうだろ? ジークの旦那!」


 双剣は、野次馬達に視線を向けた。


 ジークフリードは、彼の言を察して、エドワードの剣の柄に触れ、彼の戦意を鎮めた。


「ねぇ、あなた、この騒ぎ、どうする気?」

 シルフィードが、いつの間にか側に来ていた。


 その隣には、どうするの? という目でレティーシアが俺を見つめ首を傾げている。


 で、どうすんだ? と俺はエドワードを見た。


 エドワードは、もちろん、ジークフリードを見つめた。


「そうだな、ここで、やり合うのは、無しだな」

 ジークフリードは、わざとらしい笑顔を作る。


「流石! ジークの旦那だぜ!」

 双剣使いは嬉しそうだ。


「親父、タレを五本、焼いて!」

 アンジェラの屋台に注文する声が割り込んできた。


 彼女は、ちゃっかり移動していたのだ!


 油断ならない奴。


「姉さん!」

 場を白けさせたアンジェラに、双剣は、掴みかかる勢いだ。


 ガチャ、


 重い音が、俺のすぐ後ろで聞こえた。


 振り返ると、大剣の男がいた、以前、俺の腕を斬った奴。


「あなた、影がうすいわね」

 悔しいので嫌味を言った。


 くそっ、こいつの気配は、今の俺でも掴めなかった。


 あの時も、突然、現れ、斬られてしまった。


 気持ち悪い奴だ……。


「俺は禿げてねぇ」

 大剣の言葉で、頭に皆の注目が集まる。


 野次馬達の声が聞こえた。


「あいつ、やべぇな」

「ああ、やべぇな……」

「やべぇな……」


 大剣の額は、かなり広かったのだ。


「あと少しね」

 すかさず、俺は追い討ちかける。


 大剣は、涙目になり、ワナワナと震え、


「禿げてねぇ……」

 小さな声で呟いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます