第93話 殲滅の光

 天上に炎を残し、敵地のど真ん中に降り立つ。

 周囲を取り囲む帝国兵から笑い声。


 雑魚のくせに、まだまだ余裕があるようだ。

 あるよな、こういう勘違い……。


 それにしても、のどかな風景だ。

 起伏の少ない大地、休耕地だろうか? 名も知らぬ草花が生えている。

 小さくて可愛い白い花、蝶が蜜を吸い羽を休めていた。


 自然は、いつも変わらない姿をしているのだろう……。


 だが、人には感情がある。

 俺にもだ。


 憐れみと報復、後悔と怒りが混ざり、説明できない感情が、俺を支配している。


 花を踏む潰すと、蝶が慌てて飛んだ。


 今はただ、帝国の奴らに、絶望を味合わせたい。


 ただ、それだけだ……。


 両手を上げ、天上の炎を呼び寄せる振りをした。


 流石に敵もざわつき、

「隙を与えるな! 突撃しろ!」

 一人の兵士が発した慌ただしい号令と共に、前方から数百人が一斉に突撃してくる。


 地響きと共に大地が揺れた。

 第一陣の兵達が突っ込んでくる。

 槍を水平に構え、地を這うような姿勢、何よりも速度が尋常でない。


 よく鍛えられた……と言ったところだ。


 数は一、二……、五人、意外に少ないが、接近戦なら妥当なのだろう。


 中々の迫力、こうゆうのが、こっちの軍隊のセオリーという訳か。

 面白い、口元が緩み残酷な笑みを湛えた。


 しばらく遊んでやる。


 炎を呼び集める構えを解き、代わりに杖を剣のように持ち重心を落とし、呼吸を一瞬で整える。


 思考が加速し、時の流れが緩やかになった。

 気付けば、敵はすぐそこ、しかし、冷静に見極める。


 五本並んだ槍の内、真ん中が僅かに速い。


 その槍先を杖で上から弾く。

 槍先が下がり足元の土をえぐる。

 一歩前へ、相手の槍に足を踏み出し、そのまま駆けて、残り四本の槍をやり過ごす。


 その際、槍に乗られた奴が言葉を発した。

「くそっ、こいつ……」

 それを無視して、そのまま槍を駆け上がり、そいつの顔をぐしゃりと踏みつける。


 残り四。


 残敵が対応する。

 中々、速くて良い動きをした。


 それは、厳しい訓練をしてきた者の動きであり、それを会得する精神力を感じさせた。


 くそっ!


 槍兵達は、勢いそのまま、土煙を上げながら切り返し、四本の槍が俺の背後を狙い襲い来る!


 背中を向けたまま、刹那で炎を杖にまとわせた。

 顔を踏み潰した槍兵の身体が細かく左右に揺れた。


 ちっ、根性の無い死体だ。


 槍の気配が間近に迫る。


 土台の槍兵が左に傾くが、俺は右に跳ぶ。


 逃すまいと、残敵四人の槍が一斉に加速するも、それらを難なくかわした。

 同時に、右手一本で杖を振う。

 勢いで身体が回転。

 視界の端に入った槍兵二人に、杖に纏わせた炎を放つ。


 炎が奴らを食い潰す。


 残敵は二、いや……。


 遠方より魔力の気配、水弾が放たれた様子。

 組織的な良い連携、帝国軍には団結力がある。


 ゲームで言えば、ギルド補正でステが上昇している状態なのかもしれない。


 だから、奴らの心は簡単に折れない。


 第一陣の生き残り二人は、予想通り、懲りずに向かってくる。


 水弾が着弾する前に、槍兵達を始末する事にした。

 まず、後ろ回し蹴りで一人を吹き飛ばし、最後の一人は、杖で殴り絶命させた。


 水弾はすぐそこ、しかし、身体を僅かに動かし躱すと、それは大地で弾け、水飛沫を上げる。


 更に、槍兵が増える。

 第二陣、第三陣と永遠に続いていた。


 分かっていたけどキリがない。


 面倒くさい!


 杖を地面に刺し、棒高跳びの要領で一気に第二陣を飛び越えるも、杖は手放さない。

 空中で身体が大きく反る。空で燃え盛る炎が見えた。

 そのまま杖を振り下ろしを地面に叩きつける


 爆音!


 土煙が上がり、衝撃波が辺りを蹴散らす。

 第二陣、第三陣、更には背後から迫っていた敵全てを吹き飛ばした。

 着地した足元に大きくえぐれた大地が広がっていた。

 舞い上がった大量の土煙で辺りが夜のように暗くなる。


 数値上は、ドラゴンが放つかぎ爪の一撃と同等だったはず……。


 それでも、土煙の中、奴らは臆さず突っ込んでくる。


 よく鍛えられた兵士、団結力があり、きっと規律も厳しいのに違いない。


「大地よ、我の呼びかけに応じて、その身を震わせろ【アースクエイク】」

 中級広域魔法を唱え発動させる。

 なんたってMP残量二割だからな、詠唱で発動範囲を拡大させた。


 大地が揺れ深い亀裂が入り、兵達が飲み込まれていく。


 数千人単位の悲鳴、地獄絵図が地上に再現された。


 なのに、奴らは、俺に勝てると思っているらしい……。


「今だ! 魔法大隊、エルフを葬れ!」

 遠くの方から、帝国軍の司令官トレイニーの大声が響いてきた。

 前方、かなり奥の方に莫大な魔力が発生と共に、俺の頭上に幾重にも重なる多重魔法陣が展開。


 同時に、足元が淡く輝く。


「邪悪なエルフよ、滅びるが良い、喰らえ、軍式極地攻撃魔法【殲滅の光リヒトロフイー】」

 トレイニーの号令で奴らの魔法が発動した。


 頭上の魔法陣からまばゆい光が降り注ぐ。

 大地が重力から解き放たれ、浮かび上がる。


 一瞬で巨大な光の柱が誕生し、それは天にも達した。


「おろかな奴だ、地上の形あるもの全てを消滅させる光、古代竜エイシェントドラゴンですら触れただけで命を失う威力だ。これで勝敗は、決した」

 トレイニーの戯言が聞こえる……。


「残敵を掃討する! 陣形を整え次第、街に……」

 トレイニーは途中で言葉を失った。


殲滅の光リヒトロフイー】聞いたことない魔法だ。

 派手さは認めてやる、だが、


「ご生憎様、私は天上の存在なのよ」


 俺は、オンライン版、天上編のプレイヤーだ。

 地上の存在には驚異でも、この程度の魔法では、俺の防御力は突破出来ない。


 折りたたんだ炎の羽を広げ、銀髪に炎の燐光が宿る。

 そして、杖を振りかざす。


 それだけだ。


 天上で待機していた炎の眷属達が地上を目指す。


「馬鹿め、そんな炎では、我が帝国軍の多重障壁は破れまい」

 トレイニーの言葉には、まだ力が残っていた。


「破るのではない、燃やすのよ」

 炎は確かに障壁に阻まれた。

 でも、消えることはない。

 ゆっくりと障壁に練り込まれた魔力を燃やす。


 炎の眷属は、元々は街の炎、帝国軍が街を蹂躙する為に放った炎だ。


 その正体は【蹂躙の炎】。


 争いを産み命を奪う、その炎は、ゼウスを怒らせ、人に火を与えたプロメテウスを三万年の拷問刑に処したという。


 最悪の炎だ。


 爆裂的な勢いはないが、【蹂躙の炎】はゆっくりと確実に障壁を燃やしていく。


 ついには、多重障壁を食い破り、帝国軍の兵士達を燃やしはじめた。


 炎に込められた街の人々の怨念は、帝国兵を逃すまいと追い回す。


「邪魔よ」

 目についた兵士を杖で殴り飛ばす。


「蹂躙の開始よ、覚悟しなさい!」

 さて、トレイニーをブン殴りに行こうと歩き出す。

 立ち阻むものは、全て、叩き潰す!

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