第99話 迷走

 丈が足首まである黒のロングスカート。

 白いエプロンはシンプルだが、肩のストラップにフリルが付いている。

 性的な魅力を抑え、脇役に徹する、質素な衣装。


 それがメイド服。


 メイド長、お転婆娘のメアリーは、栗毛の髪を後ろで一つに束ね、ホワイトブリムと呼ばれるレース付きのカチューシャで頭を飾る。

 二重の瞳、可愛らしい鼻と口、頬は薄っすらと赤い。

 化粧っ気の無い顔立ちは、知的な印象を与え、嫌味のない微笑みは優しさを感じさせる。

 小さな顔の輪郭に注目すれば、髪の毛から覗く耳に目がいき、そこから流れるようなうなじのラインと白い張りのあるみずみずしい肌が、若い女の魅力をかもし出す。


 胸元の白い地味なエプロンはフリルが付いたストラップを両肩に通し、ウエストの位置で蝶結びで固定されていた。


 それが、いけない……。


 寸法が丁度のエプロンは、柔らかな形の良い胸の膨らみと下半身の女性らしさを、どうしても強調してしまう。

 性的魅力を抑えた地味で清楚な仕事着、それゆえに、そこから覗く女の部分に想像が膨らむ。


 それがメイド服の魅力だ!


 そして、それを完璧に着こなすメアリーは紛う事なき最高の美少女メイドなのだ。


「ご主人様、何なりとお申し付けください」

 メアリーは、手を前で重ね、美しい姿勢で、礼儀正しく深々とお辞儀をし、俺に微笑みかけた。


 やべー、照れる!


「と、取り敢えずお茶でも……」

「かしこまりました」

 メアリーは、パン、パンと柏手を二回打つと、ティーセットが乗ったキャスター付きのワゴンが彼女の前に現れた。


 上品な慣れた手つきで、彼女は、皆に茶を配る。


「この方に、子育てを手伝って貰うのですね。それなら安心です」

 レティーシアも納得だ。


「メアリー、あなたに、お願いがあるの」

「何なりとお命じ下さい、ご主人様」

 彼女のぶれる事ない完璧な仕草、やっぱり、メイド最高だぜ!


 鑑賞用にと、こだわって完璧に育成した俺に感謝だ!


「この子を育てるの手伝って欲しいの」

「かしこまりましたご主人様」

 うんうん、やっぱり頼りになる。


「お嬢様のお世話を手伝うメアリーと申します、何なりとお申し付けください」

 メアリーは、フローラの傍らに立ち、彼女に挨拶をした。

 フローラも笑顔で気に入った様子。


 うんうん、これで、安心だね!


 フローラと一言、二言、会話をした後、メアリーは、その整った可愛らしい顔を俺に向け、

「ご主人様、お嬢様の育成方針ですが、前衛になさいますか? 後衛になさいますか?」

 と尋ねてきた。


 ……?!


「えっ!」

 レティーシアとバーナード団長は声を出し驚き、ジャンヌはうんうんと頷いている。


 もちろん、俺もビックリだよ!!


 あと、バーナード、お前、何か喋れよ!

 ついでに、セシリアお前もだ!

 お前ら、陰が薄いぞ!!


 それでも、呑気にお茶を飲んでるセシリアのプルンと揺れる、巨乳を見て、心を落ち着かせる。


「いや、そういう事じゃ無くて……」

「申し訳ありませんご主人様、そうですね、仰る通りです」

 メアリーは、思い直してくれたようで、一安心……、そうだよね、冗談だよね、やだなぁ、メイドジョークとか、俺、よく分かんないし……。


「まずは基本通り職業からですね。戦士職になさいますか? 魔法職になさいますか?」

 くそっ、お前もかよっ!


 このポンコツめっ!


「違うわよ! もう、ちょっとあっち行ってて!」

 ゔっ! レティーシアの視線が痛い、まるで瞳から光線を出しているようだ。


 メアリーとジャンヌ、チビは席を離れ、団子になって、何やら会議を始めたようで、ヒソヒソと声が聞こえる。

「ジャンヌ様はどう思われますか?」

「マスターは、基礎から鍛えるつもりに違いない、全てはそれからという事……」

「尻尾を生やそうよっ!」

 あーっ、ダメだな、みんなポンコツだ……、それから、チビ、尻尾は生やそうとしても、生えないぞ!


「大丈夫、大丈夫、わたしが普通の子に育てるから」

「えーーっ! 大丈夫なの?」

「だいじょーぶっ、よ!」

 レティーシアは信じられないっていう姿勢が崩れない。


 もしかして、俺、アホな奴になるのか?


 娘を最強に育てる、アホな奴……、それだけは、嫌だぁー!


「あらっ、楽しそうね」

 何処からとも無く、割って入って来たのは、アンジェラ姉さんだ。


 ガシッと彼女の腕を掴む。


 彼女なら、子育ての相談に乗ってくれるかもしれない……。


 彼女は、俺の手を引き離し、レティーシアの方へと歩み寄る。


 何だよ、バカッ、このいけず!


「レティーシア姫、あんたに話がある」

 アンジェラは、そういうと、俺たちの輪に加わり、適当な場所に座った。


 そういえば、話があるとか、無いとか、言ってたことを思い出した。

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