第100話 情報

「昨日の活躍には感謝するが、不遜な態度は、感心せんぞ」

 バーナード団長が、アンジェラを睨む。


 当のアンジェラは、俺の方へ視線を送る。

 俺は、プイッと横を向いて返した。


「バーナードは控えなさい、アンジェラさん、だったかしら、素性は、聞いているわ」

「姫様に、話したのっ」

 とアンジェラは、俺に文句を言う。でも、レティーシアとは初対面では無い、交易都市で会っているぞ!

 そもそも、彼女に義理立てする理由が無い。


「昨日の事は、感謝するわ、それで、帝国の方が、私に何の用かしら」

 レティーシアの意地悪な表情。


「これを機に、姫様と仲良くなれたらと」

 アンジェラは、人指しを立てながらあっけらかんと言ってのけた。


「それは、無理ね、早々に街を離れた方が良いわ」

 レティーシアのつれない返事に、バーナード団長は深く頷く。

 セシリアは飽きたのだろう上体を揺らしながら、落ち着きがない。


「それは、残念ね……」

 アンジェラは、何処からとも無く指揮棒を取り出した。


 瞬間!


 アンジェラの首元から金属の輝き。

 鋭いナイフ、そのやいばが、羽交い締めの要領で、突きつけられていた。

 遅れて来た風が吹き抜ける。

「きゃっ」

 勢いに負けセシリアがひっくり返った。


 バーナード団長が剣を構えレティーシアを庇うように立つ。


「このような場での魔法は無粋でしてよ、お客様」

 メアリーの乱れたメイド服を重力が整えていく。


「あたしを客人と呼んでくるのか? なら礼儀がなって無い、お前の雇い主の底が知れる」

 指揮棒の先が揺れた。


 気配が増えた、双剣使いゲールの刃がメアリーを狙うも、ジャンヌが動きすかさず弾き返す。


 ちっ、残り二人のアンジェラの子分は気配を殺して何処かに潜んでるのか?


 チビが俺の背後にきた。

 セシリアは、起き上がり剣を抜いた。


「だから、それが無粋だと……」

 メアリーは、ナイフを握る力を強めた。

「やめなさい!」

 俺の声が響く。


「あら、この失礼なメイドのご主人は、エルフのお嬢ちゃんなの」

「それが無礼だと……」

「メアリー、もう、いいから」

 彼女の手からナイフが、フッと消える。


「ご主人様、あの者は信用出来ません」

 メアリーが、耳打ちをする。


 最初から信用はしていないが、そう悪い奴とも思えない。

「お互い落ち着きましょう。うちのメイドが失礼したわね」

 俺の横で、メアリーがアンジェラに向けあっかんべーをしているので、

「もう、いい加減にしなさいっ!」

 と彼女の頭を叩いた。


「元から、あたしは何もする気は無いわ」

 アンジェラの指揮棒の先には、光り輝く透き通った地図が浮かんでいた。


「いいわ、聞いてあげる、バーナード、セシリア、下がりなさい」

 レティーシアは、ゆっくりと立ち上がり、そして、

「ソフィアも、それで、いいかしら?」

 と俺を見た。


「私は、これでも、結構な物知りなのよ」

 アンジェラは、俺の答えを待たずに、宙に浮かぶ地図を見ながら語り始めた。


 彼女は帝国軍の配置を一通り語り終わると、バーナード団長が声を上げた。

「本隊は、交易都市に向け進軍を開始していると? 湿原地帯の軍は、王都にまだ本隊がいると見せる為の偽装、しかし、王都を空にすれば、補給路の確保が困難になるのでは?」


「その答えは、言えないわ……、それよりも、あたしの言い分が正しいか、そこのエルフに検証してもらったら?」

 アンジェラの物言いに興奮したメアリーを片手で抑え、ヘルメスの杖を取り出す。


「ソフィア、お願い」

 レティーシアも同意見のようだ。


 杖を地面に刺し、意識を集中させる。

 広域索敵の開始、湿原地帯には軍、様々な魔法を既に展開しているようで、すぐにでも戦闘できる状態で待機している。

 そこより東は、索敵阻害で見ることは出来ないが、南方には帝国軍の塊を感知出来た。


「王都が空かどうかは、分からなかったわ」

 俺は、索敵の結果を述べた。


「まぁ、良いわ……、教国が帝国を援助するそうよ。つまり南部に展開する帝国軍は、直接、教国から補給を受ける事ができるのよ」

 つまりアンジェラは、帝国にとって王都の戦略的重要性は無くなったと……、それよりも、交通の要所である交易都市を手中に収める方が重要だと言っていた。


「では、一旦、交易都市に戻りましょう」

 バーナード団長の提案に、

「いいえ、このまま、湿原を落とし、南部に進軍する方が良いわ」

 と否定した。


 わざわざ、街のそばで戦う必要無いからな。


「もう一つ、情報があるのよ」

 アンジェラは地図を消して、レティーシアの方へ歩み寄る。

「王の居場所に興味無いかしら?」

 意外な事に、レティーシアは、その言葉に動揺は見せない。

「王は、死んだと北の魔女様に聞きました」

「姫様、それは本当ですか?」

 代わりに驚いたのはバーナード団長だ。


 いや、俺もビックリだ!

 北の魔女って、あの、魔女さまーーだろうか?


「死体は見てないのだろう?」

 レティーシアは、ゆっくりと頷いた。


「ここから北東の山、その洞穴に、王は囚われている、あんたらはそこに行くべきだ」

 アンジェラは、羊皮紙に場所を記した。

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