第46話 傭兵団
草原に身を潜め、隙のない陣を張り、傭兵達は、獲物の到着を、待っていた。
人攫いの為だ。
人攫いなど、本来、傭兵の仕事ではない。
彼らは、国境を越え戦場を渡り歩き、命を奪い合い、報酬を得る。
つまり、戦争という舞台で、
「己の命を担保に、その売買をする」
それが、彼らの、本業であり、生業だ。
己の命を大切にし、弱い物から、財や命を奪う盗賊とは違う……、
しかし、どちらも、
「生きる」という本能と、それに付随する欲望を満たす為、 他者の命を奪うことは躊躇しない……。
ただ、その覚悟が違うだけだ。
大所帯の傭兵団“紅い槍”は、帝国と教国の長年に渡る戦争が、突然の和平で終結し、
路頭に迷っていた。
「帝国が王都を陥落させた」
この一報に、彼らは歓喜し、
新たな舞台を求め王都西部辺境に来た。
西部辺境伯の手腕に傭兵団の
彼は、王国の姫を追う帝国軍を殲滅した辺境伯の手際の良さ、 噂では、姫が従える魔法使いが殲滅したらしいが、これは嘘だ……と、王国奪還後の地位、 恐らく、王は帝国に討ち取られている、さもなければ、姫を追うのに主力を使う訳がない。
帝国が公表しない理由、それは、辺境伯を恐れているのだろう……、に大いに期待していた。
どうせなら、でかい勝ち馬に乗る、つもりだった。
この話が持ち掛けられる前までは……
人を攫うだけで、大金貨五十枚という過剰な報酬に、最初は、もちろん、相手をしなかった。
大将首でも、大金貨十枚だ。
とても信用できる報酬額ではない。
しかし、彼らは、前金として、大金貨五枚を支払った。
大金貨五枚だ!
そんな大金を払って、俺達を嵌めても、彼らは得る利益は無いだろう。
依頼の影には、有力な貴族がいるに違いない。
戦後を見据えた政争の類いか……。
「生きる」だけでも、さらには「欲望」を満たす為にも、カネはいる。
十分な報酬だ。
野郎共も、満足する筈だ。
馬車を襲い、人を攫うだけ、それでも、かなりの強者が護衛に付いているらしいが、問題ない!
戦場では、帝国の強兵と、時には、人外と呼ばれる猛者とも戦い、生き延び、勝ち負けを繰り返してきたからだ。
傭兵団の頭は、腰に差す剣を抜き、その輝く美しさに頷き、それを鞘に収めた。
馬に乗った斥候が戻ってきた。
どうやら、目的の馬車は、そろそろらしい。
皆の気を引き締めるため、腕で合図を送る。
獲物のお嬢ちゃんには、手を出すなと言われている。斥候の報告によれば、それ以外にも、女がいたそうだ。
にやけた斥候の顔を思い出した。
久しぶりに今夜は、楽しめそうだ。
息を殺し、身を潜め、
馬車を襲うにしては、行き過ぎた布陣だと思い出し、満足の笑みを浮かべた。
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