2-3
「ホンっっっっトすみません!」
「……ごめんなさい」
鋭一は頭を下げ、葵はいつもの無表情で謝罪の言葉を口にした。
ゲーム中に興が乗り過ぎたがゆえに現実でも横に飛び、窓ガラスを破って外に飛び出した——。葵の行動は今をもって信じられない。まず、窓を体当たりで突き破れるような女子高生がどれだけいるというのか。
しかし信じ難くとも、現に部屋の窓には大穴が空いているのだ。事情を話すと受付のお姉さんは店長を呼んでくれた。彼も常連の鋭一の事はよく知っていた。
「鋭一くん、女の子の前でカッコつけたいのはわかるけど、ハッスルするのはVRの中だけにしてくんないかなあ」
「い、いやそういうワケじゃないんですけど! まあ、すみません……」
怒っている様子はないようで内心ほっとした。
当の葵は、直立の姿勢で硬直したまま「幽霊」になっている。あまり人と関わらずに生きてきた彼女には、こういう時どうしたら良いかわからなかったのだ。
「しかし学生さん相手にあんま言いたくはないけど……これ流石に弁償なしってワケにはいかないなあ」
「えっ。マジですか」
「そんなに取るつもりはないけど。鋭一くん、プロなんだし稼いでるんじゃないの?」
「いやあ正直、そんなには。特に今は手持ちが……」
鋭一は曖昧に笑ってうつむいた。確かに彼はサドンデスの王者として、公式から賞金も得ているプロゲーマーである。
プラネットは近年話題のeスポーツの中でも競技性が高いと評判であり、トップレベルの公式戦は興行化もされている。強いプレイヤーにはプロスポーツ選手のようにスポンサーがつく事も珍しくない。鋭一もとある実業家とスポンサー契約を結んでいる。
が、マイナージャンルであるサドンデスは賞金がそこまで高くはない。そして鋭一は現在、よりゲームに集中できる環境を求め一人暮らしをしている。先日までは貯金もしていたが、そのお金は念願の自前のVRセットを購入するのに使ってしまった。決して余裕のある生活ではないのだ。
「うーーん……わ、わかりました。少し待ってもらえますか?」
「何? 金のアテでもあるの?」
「ちょっとスポンサーに相談してみます」
「へえ。カッコいい事言いやがって」
本当なら葵にも金を出して欲しいところだが、それを理由に彼女がゲームをやめてしまったりしたら、あまりにも勿体ない。
鋭一は腹を決め、スポンサーに頼ってみる事にした。あまり積極的に頼りたい相手ではないのだが……親などにはとても言えないし、金のアテというともう他にない。彼はスマホを取り出し、しぶしぶ電話をかけた。
そして、待つこと十数分。
電話で鋭一から事情を聞いた「スポンサー」は、わざわざ店にまで直接やってきた。
「よっ、鋭ちゃん。この高貴なるお嬢様がわざわざ出向いてやったわよ。どしたの? ウワサの葵ちゃんとヨロシクやってたんじゃなかったの?」
鋭一は露骨に苦い顔をした。店長は少々驚いた顔をした。
驚くのも無理はない。スポンサー……鋭一の競技活動に金を出している実業家という肩書で現れたのは、一見どこにでもいるような女子高生だった。
* * *
親がベンチャー企業の社長であり、本人も実業家として知られる彼女は、鋭一と同じクラスに通う現役女子高生社長である。
社長令嬢を自称しお嬢様ぶろうとするところがあるが、実際の見た目や雰囲気はいわゆる「今どきの女子高生」に極めて近い。
明るい色に染めた髪、着崩した制服、そして親しみの持てるカラッとした笑顔は、確かにスポンサーとして紹介されても信じがたいかもしれない。まず令嬢を名乗るにはあまりにもスカートが短すぎるだろう……と鋭一は思う。
「いやあ鋭ちゃん。給料を前借りとは、偉くなったもんだねえ?」
「ぐうう、返す言葉もねえ。助かったよ社長」
とはいえその財力と手腕は本物である。彼女は到着するなり財布から数万円をポンと出し、さらには修理業者の手配まで代行して店長を納得させた。あっという間にその場を解決してしまったのだ。
それから今は窓が割れたのとは別の個室を確保し、葵と三人でそこに入って話している。
「まったく、ただでさえ遅刻常習犯なのに器物損壊とか。キミが素行不良だとスポンサーまで叩かれんのよ?」
「す、すんません……。だが『スポンサーに相談してみます』って言った時の俺はなかなかカッコよかったかもしれん」
「調子乗ってんなこの野郎。愛しの葵ちゃんにイイトコ見せられて満足かい?」
「だからそういうんじゃねえって」
なお珠姫は鋭一と同じクラス……つまり、彼が葵に連れ去られるのをしっかり目撃している。「お前ゲームだけが取り柄じゃなかったのかよ」「通報不可避」などと
「つーか女の子にかまけられてちゃ出資者としては困るんですけど。いいかげんデュエルで勝てるアバターは組めたのかな、一発屋くん?」
「なっ……。いいじゃんか、サドンデスじゃ負けてねーし」
「賞金額が違うのよ。勿体ないじゃない、鋭ちゃん本気出したら多分あたしより強いんだから。ちゃんと勝ったら給料はずむよ?」
珠姫は蠱惑的に脚を組み替え、親指と人差し指で¥マークを作ってウインクした。さりげなく相手を褒める事も忘れない。自分の雇っている選手には気持ちよく働いて貰おうという意識があるのだ。
だがそれでも、鋭一の答えは歯切れが悪い。
「いや、でも俺は……」
「おやおや口ごたえする? いったい誰のおかげでVRセット買えたんだっけ~?」
「ぬうう言い返せないメッチャ悔しい。これが金の力か」
「はっはっは。一般庶民はおとなしく言う事を聞きたまえよ」
言いながら彼女は手持ちのビニール袋をあさり、本日のおやつを取り出すとバリバリと包装を破った。コンビニで売っているメロンパンだ。中にはホイップクリームが入っており素晴らしい。
「……ときに社長、そのおやつは?」
「? こないだ出たやつだよ。コンビニで買った」
「100円のだよな」
「うん。うまいよコンビニパン」
令嬢らしからぬおやつだが、彼女がおいしそうにパンを頬張るので鋭一はそれ以上突っ込むのはやめておいた。実際あのパンはうまい。
珠姫はペットボトルの紅茶を飲み一息つくと、鋭一の隣で「幽霊」になったままの葵に視線を移した。
「……で、鋭ちゃんの説明によれば、この子がガラスぶち割ったって?」
葵は黙ったままピクリと反応した。初対面相手で緊張していたりするのだろうか? だが、鋭一相手にはそんな事はなかったはずだ。何しろ初対面から眼球を潰されかけた。どうしたのだろうと鋭一が思っていると、葵は肘をつついて小声で話しかけてきた。
「鋭一」
「どした?」
「この人は、お金持ち」
「まあ、そうだよ」
「……なんてこった」
鋭一は一瞬耳を疑った。葵は普段通りのローテンションな口調で、確かに「なんてこった」と言った。
彼女は椅子からスッと立ち上がると、戦闘時の流麗な体捌きからは信じられないほど固い動きで、ギクシャクと珠姫に近づいた。
「お? なになに? 初めまして、最上珠姫です。隣のクラスだよ」
「……葵、です」
葵は口をぱくぱくさせながら自己紹介すると、スカートのポケットに手を突っ込んで掌大の物体を取り出し、おずおずと珠姫に渡した。
「あげ、ます」
若干割れた、袋入りの
「……えっ?」
それを見て珠姫は小さく噴き出し、それから派手に笑い出した。
「あははははは! えっ。ちょ? 何? どういう事これ鋭ちゃん解説して!」
「え? いや、これは俺にもわからん……葵、どうした?」
珠姫は何かがツボにハマったらしく笑いが止まらなくなっている。
鋭一は葵の顔を見た。心なしか表情が硬い。やはり明らかに緊張しているようだ。葵は両手でスカートの裾を握り、珠姫のほうを向いたまま答えた。
「お母さんが言ってた」
至極真面目な顔で、ぽつぽつと。
「お金持ちとは、仲良くしなさいって」
その答えに、珠姫は二度噴き出した。葵の顔に紅茶の水滴が飛んだが、彼女は身動きひとつしなかった。
珠姫はそんな葵に手招きし、自分の隣に座らせる。
「あはははは、何この子カワイイなあ。わかったわかった、この社長令嬢の高貴さが理解できるとは話のわかる子だ。コレはお近づきのしるしに貰っておくね」
「うん。それ美味しいから。わたし、好き」
おかっぱ頭を珠姫が撫でてやると、葵はいくらか緊張を解いたようだった。
「マジかよ……一瞬で懐柔しやがった。俺なんて会うたびに目ェ突かれんのに」
「はは、葵ちゃん取られて悔しいかい? 最近この子にプラネット教えてたんでしょ」
「そうだよ。つっても昨日からだけどさ」
「うーん、そうねえ」
珠姫は葵の頭を撫で続けながら椅子にもたれ、再び脚を組んだ。笑うのをやめ、目つきが経営者のそれに変わっている。
「ちょっと感心しないなあ、平田鋭一プロ? 遊ぶなとは言わないけどさ。君にはもっと、自分が勝つために時間を使って欲しいんだけど」
「急に正論がきたか」
「そらそうよ。いつまでも一つのスタイルに拘ってないで、もっと稼いで貰わないとね」
急に肩身が狭くなり、鋭一は居心地悪そうに顔をしかめた。
鋭一は確かな技量と実績を持っているが、デュエル・ルールへの挑戦には消極的だ。一応彼なりの理由もあるが……それを別にしても、ひとつの要素を突き詰めたサドンデスに比べると、デュエルの上位はとても難解な戦場だ。
そこで戦えそうな人材を見つけたからこそ、テンションが上がっていたところだったのに——
「ん? まてよ」
そこまで考えて、鋭一は思いついた。
「そうだ社長、葵のスポンサーについてやってくれよ。丁度、デュエルに挑戦してもらってたとこなんだ。滑り出しも好調だぜ?」
「へ? この子の?」
珠姫は頭を撫でる手を止め、横の葵に目をやった。
「鋭ちゃん、冗談で話そらそうとしても無駄だぜ。昨日始めた人間にスポンサーつけようなんてさ」
「いやいや、マジですごいんだって。将来、絶対稼げるからさ」
鋭一は思わず拳を握った。葵と初めて会った時の高揚感がフラッシュバックする。あの時感じた可能性は、今なお鋭一の中に根を張っている。
鋭一の眼に宿る本気を珠姫は汲み取った。どうやら冗談ではないらしい。だが、それをそのまま信じるかは別の問題だ。
珠姫は一応、本人にも話を振ってみた。
「ねえ葵ちゃん。あなた、強いの?」
すると、先ほどまで小動物のように頭を撫でられるに任せていた葵は、いつもの涼し気な無表情に戻り
「うん」
と短く返事した。そこにははっきりとした自信と自負が感じられた。あなたは強いのか? と聞かれて真顔でこんな返事のできる人間は、確かにそういない。
「うーん、なるほどねえ」
珠姫は脚を組み替え、顎に手を当てた。
「いやマジな話、鋭ちゃんの目から見て見込みアリなら信じてもいいかとは思うんだよ。でもね、流石にレベルCのプレイヤーに出せるお金はないわ」
「……そうか」
「とはいえ、この子が金の卵だとしたら逃がすのはイヤ。だから……葵ちゃん」
腕を伸ばし、葵の肩に手を回して引き寄せる。
そして彼女は、社長としての結論を伝えた。
「無敗のままレベルBまで上がってみ。そしたら考えたげる」
「……B?」
葵はぱちくりと瞬きをした。そもそもプレイヤーレベルの話など説明されていない。
「げっ。なかなかの無茶を」
鋭一がやや狼狽えた。
「何よ、平田プロが自信をもってご推薦のプレイヤーならできるでしょ?」
珠姫が挑発的なウインクをする。それを見て、鋭一も腹を決めたように笑みを作った。
「……いや、そうだな。できる。負けないよな、葵?」
葵にはBというのが何かわからなかったし、それがどのくらい難しい事なのかなど想像のしようもない。
だが、負けないよな? と聞かれれば。葵が戦闘に臨んで、それで負けるのかと問われたならば、答えは。
「うん。負けない」
やはり短い返答だった。一色葵にとって戦うとはそういう事だ。
* * *
プラネットに登録した人間が「ランキング戦」を戦う場合、一律「レベルC」というランクからのスタートとなる。
そして
レベルBに上がるには200Pが必要だ。通常、1勝すれば10Pが加算されるので無敗のままならば20連勝で上がれる事になるが、これがなかなか難しい。
レベルCのランキング戦は勝利すれば10Pもらえるが、敗北すれば5P奪われる。
負けるほど必要な試合数は多くなるし、いずれにしても最終的には勝ち越している必要がある。デュエル・ルールはプレイヤーの層も厚く、「脱初心者」程度ではそこまで届かない。
ゲームを初めて二日、ここまで葵は4連勝していた。無敗のままレベルBに到達するためには、あと16連勝する必要がある。
いくらなんでも大変なんじゃないかと鋭一は思った。デビュー時は天才と呼ばれた鋭一でも流石に無敗とはいかなかった。
だが……そんな心配を消し飛ばすかのように、見れば見る程、葵は圧倒的だった。
「なるほど……70Pか。ちょうど軌道に乗り始めたあたり、といったところだろう」
八戦目の相手は、今までに無くよく喋る男だった。道着を着た柔道家のアバターは腕を組んで語る。
「だがここから先の領域では、本能のままに戦っても通用せんぞ。技術が要る。<スキル>と既存の武道を組み合わせた独自の武術……我々『
男は腕を前に出して構えた。そしてそこで、
[FIGHT!!]
試合開始の合図があった。それと同時に、柔道家の腕が伸びた!
アオイの装束はノースリーブで袖は取れないが、襟首ならば掴むことができる。
「どうだ、<伸縮腕>ならばどの間合いでも必殺の投げが出せるのだ! 100Pの世界を知るが良——」
が、そこまでだった。
アオイは踏み込み、相手の長い腕をかわすと、その肘部分を両手で取った。そして回転して相手に背を向け……肘を極めながら、背負い投げを打った。
メキメキと柔道家の肘が悲鳴をあげる。そのまま彼の身体は宙に浮き……脳天から地面に叩きつけられた。
アオイは止めとばかりに接近し、逆さまの胴体に蹴りを叩きこむ。すると相手のHPバーは0になり……間髪入れず爆発した。
爆風に髪を揺らしながら、アオイは無表情に呟く。
「えっと、お話がむずかしくて……よくわからなかった」
[FINISH!!] [WINNER AOI]
――八連勝。80P。
「…………来たか」
十四人目の相手はコートと帽子を身に着けた長身の男だった。
アオイはその男の右手を注視した。
「俺は甘くない。一撃で決まるかもしれんが、悪く思わないで欲しい」
男の手には、ナイフが握られていた。
だがこれは反則ではないのだ。スキル<武具>を取得すれば、武器の持ち込みは許されている。
もちろんゲームバランスのために武器の種類はある程度制限されており、例えば銃は論外。刃物も殺傷能力が高いために射程距離に制限があり、人体を切断できるほどの切れ味だと、刃渡りの短いナイフ程度が限界である。
また<武具>はスキルの装備枠を大きめに圧迫するため、武器を持つと他のスキルはほとんど持つことができない。
だが裏を返せば……それだけのメリットが、武器にはあるという事でもある。それは、一度斬りつければKOもあり得る程の威力が簡単に出せるという点だ。
アオイは何も答えずいつも通り、冷静に両手を下げた構えをとる。
[FIGHT!!]
そして、試合が始まった。
「——後悔するなよ」
男が駆け寄り、凶刃が迫る。
普通、刃物相手だと警戒を強め、消極的に立ち回るプレイヤーが多い。拳も蹴りも、刃で受け止めれば逆にダメージを与えることができる。そうして相手を牽制し、攻撃を封じたまま一度でも致命傷を与えればそれで勝ち、というのがこの男の戦法である。
さあ、この冷たい白刃を恐れよ——。男は挨拶代わりのナイフを閃かせた。そしてそのまま、普通に腕を取られた。
「え」
やや間抜けな声が漏れた。ハードボイルドを演じていた化けの皮はあっさりと剥がれた。
牽制が前提の「挨拶代わり」の一撃は、つまりは精度を欠く半端な攻撃でしかなかった。特に……刃物を冷静に対処できる、葵のような人間にとっては。
ナイフは腕部の関節の動きによって振るわれる、いわば人体の延長である。ならば一色葵にとってそれは問題にならない。
相手の右腕を取ったアオイはそのまま頭部を掴み鳩尾にヒザ。平常通りに放たれた墨式『
男の爆発を見届けながら、アオイは少し申し訳なさそうに呟く。
「……一撃で決めてしまって、ごめんなさい」
[FINISH!!] [WINNER AOI]
――十四連勝。140P。
「やあ、アオイちゃんと言うのかな!? こんにちは! 今日はボクと遊んでほしいんだワン!」
二十人目の相手を見てアオイは驚き、動きを止めた。
相手のアバターは、狼男そのものだった。顔はオオカミで牙が生えており、筋骨隆々とした上半身はフサフサとした毛に覆われている。
「ワンちゃんだ」
「その通り! ボクはゆかいなワンちゃんなんだワン!」
狼男はコミカルな動きでポーズをとって見せた。顔はデフォルメされた狼なのだが、胴体は怪物らしくマッスルなのがなんともアンバランスだ。プラネットのアバターデザインはかなり自由度があり、獣人やロボットなども作る事は可能である。
「ちょっとかわいい」
「でしょ!? 楽しく遊ぼうよ! 今日もきっと……ワンダフルさ!」
体格に似合わぬ甲高い声で狼男がアピールすると同時。
[FIGHT!!]
試合開始の合図があった。
狼男はアオイに向かってまっすぐ、ドタドタと駆け出す。
「さあ、あっそびーーーーましょーーーーー!!」
「うん。たのしく遊ぶ」
アオイは小さく頷いた。
狼男はアオイに接近すると、腕を大きく広げてハグのような体勢をとった。
「やったー! アオイちゃんは可愛いなあ!」
そして、両腕を思い切り、振り下ろす。
「——食べちゃいたいくらい!!」
その獣の両手には、鋭い爪が光っていた。
アバターを作成する上で爪をデザインするだけなら、そこに殺傷力はない。だが……スキルとして<
「ワンワン! ワンワンワグヘヘヘヘヘァ!!」
獰猛な本性をあらわにした獣人は、牙をむき出して涎を飛ばし、舌をなめずった。両腕をそのまま振り抜く。
だがそこに手応えはなかった。アオイは鋭敏な反応で一歩引いていた。
一色葵は相手の「殺気」そのものを感じることができるのだ。相手の見た目や態度は全く問題にならない。
目の前には両腕をクロスさせた、隙だらけの対戦相手。アオイはここで殺気のアクセルを100まで踏んだ。右手の二本指を前に出す。超速の、目突き。
「ワンワ……ワゲヘアァァァ!?!」
指先が眼球に命中し、狼男の視界が赤く明滅する。獣人とて目の位置はヒトと変わらない!
アオイは相手に密着し首を腕で抱え込むとそのまま前方に飛び、勢いをつけて尻から着地した。狼男の首には当然、アオイの体重分の負荷がかかり……鈍い音が響いた。HPがゼロになり、遅れて、爆発。
アオイは快感に目を細めた。真に獣であったのは、果たしてどちらだろうか?
彼女は爆発跡に向かってぺこりとお辞儀し、言った。
「遊んでくれて、ありがとう」
[FINISH!!] [WINNER AOI]
[CONGRATULATIONS! NEXT LEVEL-B]
――二十連勝。200P!
「……どうしてくれんのよ。条件出したあたしがアホみたいじゃん」
「フフフ、実際アホだったという事だろう」
「ンだと一発屋このやろう。しかし、レベルCじゃ相手にもならない感じね」
「だろ?」
腕組みし、脚を組み替えながら珠姫が言うと、鋭一は自分のことのように得意げに答えた。
「ホント……凄ぇよ。これならAだって、狙えるさ」
鋭一は葵に向けてサムズアップした。
葵はそれに気付き、ゴーグルをつけたまま振り返ると見よう見まねで親指を立てた。
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