Round6 俺たちに敵なんていない
A6-1
「…………わあ」
そびえ立つ真っ白なビルを前に、
ビルといっても、オフィスビルのような無機質なものではない。
何しろここは……人をもてなすために作られた、ホテルなのだから。
「こんなの用意するとは、なんつーか、
大会は本戦の一回戦が終了した。残りの準決勝と決勝は、翌日の日曜に行われる。
そこで
夜にはディナービュッフェもあるようだし、大浴場で
「すごい」
葵が
「ほんとに、鋭一とお
「あっ、そこに反応してたのか……!」
鋭一は
「よかったねえ葵ちゃん。これで一晩中、鋭ちゃんと
「──おわあ!?」
真後ろに知った顔がいた。
「準決勝に出る選手は個室もらえるんだってよ~? これはもしかすると、もしかするかもね?」
「葵に余計なこと、
「あはははは、
「へ、ヘンなことって……?」
「おっと、
「あ、ああ」
珠姫は人差し指を
「お泊まり、お泊まり……」
「葵、中に入ろうぜ。中はもっと、楽しいからさ」
そわそわと体を
「うん!」
葵はぴょんと
「はあー。ラブラブなこって」
さらにその後ろから、珠姫がついていった。
***
夕食のビュッフェは、
広大なホールのあちこちに設置された料理置き場には色とりどりの皿が並べられ、各所から湯気が立ったり、良い
もはやちょっとした遊園地とでも呼ぶことができそうだった。
「う、うおおお……!」
これには流石に、鋭一もテンションが上がる。何しろ
定番のローストビーフを中心に、目に入ったところから料理を確保していく。プロゲーマーとしての視野の広さと反射神経を最大限に利用し、
「やべ、食べきれるかな……でも、ここで
欲望のままに鋭一は動いた。
「よし、このくらいか……?」
カニを発見しては確保し、スシを発見しては摑み、座席に戻ろうと鋭一はあたりを見渡した。そして気が付いた。
「あれ? 葵どこいった?」
そう思った矢先。
「「「お……おおおおお!?」」」
そこにいたのは──
両手と頭の上に料理が
「あちゃー……そりゃ、そうなるかー……!」
鋭一は額に手を当てようとした。だが彼も両手で皿を
以前の、VR個室のドリンクバーを思い出す。
ホテルの従業員や周囲の大会関係者たちは、
「なるほど……元から動けるタイプか」
「ほう、あの子は……黒字の匂いがするな」
青年実業家としての顔も持つ金谷がメガネを光らせる。
葵はくるくる回りながらホール内を進み、自分の座るテーブルを目指した。
その
「……おわッ!? こ、こえー! こえーわ!」
かわされた側は、
「なんだ!?
「……むー?」
大慌てする安田。何か断られたようだが、意味がわからないので葵は首を
「……何
そこへ、割って入る者があった。
「あ……あかりちゃんだ」
片手で皿を持った
「葵ちゃん。それ、初見だとマジびっくりするからさあ……。やめなって」
「う、うん」
彼女は葵を制止した。どうにか騒ぎがおさまり、鋭一もホッとする。アカリがいてくれて良かった。
その後、鋭一、葵、珠姫、アカリの四人でテーブルを囲んで座る。なぜかアカリは
「あかりちゃん、少ない……?」
ようやく落ち着いて食べ始めた
アカリの皿はサラダと魚料理中心で、明らかに量も少なかった。何というか……もう少しビュッフェを楽しんでもいいんじゃないかなあ、と鋭一などは思ってしまうが。
「私の理想のアイドルは細身だからね。体型はキープしなきゃ」
彼女は自信ありげに言った。試合直後の様子からすると、
「……ごちそうさま」
少ないだけに当然、食べ終わるのも早い。彼女は早々に席を立った。
「じゃ。私はこれで」
「え、何だ。もう行くの?」
鋭一が思わず聞く。
アカリは、少し
だが結局彼女は、
「うん。食べ終わったらもう……用は、ないし」
それだけ言い残し去っていく。
「…………?」
後ろ姿を見送りつつ、葵は不思議そうに首を傾けていた。
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