暗殺拳はチートに含まれますか?
渡葉たびびと
"プロトタイプ"
Battle1 あなたはゲーマーですか? いいえ、暗殺者です
1-1
夜中に自分の部屋でこっそりパンチを撃った事はある?
じゃあ、それを実際の相手に当てた事は?
戦うというのは、とても気持ちの良いものだ。
思うがままに体を動かして、本気でぶつかり合う。きっと終われば河原に寝転んで、互いに友情が芽生えたりもするだろう。実に清々しい。
自分は身体が小さいから向かないって?
なら、大柄な身体を選べばいい。
力が弱いから勝てそうにない?
では、腕力の強い設定にすればいい。
あんなに素早く動いたりできない?
じゃあ、念じるだけで瞬間移動できる技を使おう。
痛いのは嫌だ? 怪我するのが恐い?
心配はいらない。
——それらが全て解決するような世界が、ここにあるのだから。
* * *
闘技場に二人の戦士が降り立った。
一方の鋭一は全身をぴったりと包むジャージ風の衣装を身にまとっている。こちらはカンフー映画のようだ。
いや、ここでの鋭一は、鋭一ではない。アバター「A1」はこのVR空間「プラネット」で戦う、鋭一の分身である。
目の前に広がるのは赤茶けた土の荒野と、それを円形に区切っただけの闘技場。遠く地平線のあたりには土に埋まったビルやタワーがいくつも顔を出している。
A1の見る景色は現実世界でゴーグルを装着する鋭一の視界にそのまま広がり、周囲の風の音、砂埃が巻き上がる音、距離をおいて向かい合う対戦相手の息遣いまでも聞こえてくるようだった。
戦いの前の緊張感がびりびりと肌を焦がす。ゴーグルの下の、鋭一の口元がわずかに緩む。この感じは、嫌いではない。
すぐに、目の前の空間に文字が浮かび上がった。それは戦いの始まりを告げる合図である。
[SUDDEN DEATH 1on1]
向かい合う両者が同時に息を吸い込み。
[READY]
やはり同時に、構えを取る。
ガンマンは右手をだらりと下げ、左手を腰元へ。A1は両肘をぐっと後方へ引き、不自然なほど前傾した奇妙な構え。
そして……
[FIGHT!!]
そこからは、様々な事が起こった。
ガンマンがだらりと下げていた右手を瞬時に跳ね上げる。
A1が地を蹴る。
ガンマンの右手は上半身のボロ布の中へ。同時に、右足を一歩踏み出している。
A1は一度前方へ踏み込んでから、短めに一歩下がって相手との距離を測る。
両者の一挙手一投足が、瞬きひとつ許されない重要な出来事の連続だった。
一瞬でもどちらかの集中が途切れた時、その瞬間には勝負がついてしまうだろう。勝負は一撃なのだから。
A1は上半身の構えを維持したまま、巧みな足運びで間合いを維持する。両肘を引いたまま前傾姿勢での移動。
ガンマンが短く前に出た。A1は相手の要望を受け入れるかのように、さらに一歩踏み出して間合いを詰めてやる。ここが勝負所だ。
自らの身体が風を切る音を聞きながら、鋭一の耳は、そこに混ざる違う音を聞き取った。敵の呼吸音の変化。そして衣擦れの音。
――来る。
それに合わせて、鋭一は瞬きをひとつした。
瞬間、閃光。
視界を光に覆われたガンマンの体がわずかに硬直する。
攻撃動作を阻害されたガンマンは一瞬だけ動きを鈍らせたが、そのまま強引に攻撃を放った。上半身にまとったボロ布から、唐突に長い腕が飛び出す。
どこから現れるかわからない、超高速の貫手。見た目のガンマンスタイルはこの貫手を早撃ちに見立ててのものだろう。
ガンマンの狙いは前傾したA1の最もわかりやすい的……即ち顔面。
その貫手は本来の腕のリーチを超えてなお伸びた。文字通り、アバターの腕が長く伸びている。相手のリーチの外から不意を突く。確実に先手を取れる技として昇華された、見事な突きだった——のだろう。
その先手が「打たされた」ものでさえなかったならば。
絶好の間合い、絶好の的、絶好のタイミング。
それら全て、鋭一が用意したものだ。
そしてその「絶好」は、突然の閃光によって僅かに狂った。
必殺の貫手はA1の顔の真横を通り過ぎて行った。頬を撫でる風圧を感じながら踏み込み、相手の至近にまで迫る。A1は思わず犬歯を剥きだして笑った。この瞬間は、最高だ。
本気で攻撃しようと、殺気とともに向かってくる相手。
自分の持てる感覚と技術をフルに使ってそれを捌き、
そしてこちらの攻撃を……叩き込む!
A1は腕を折りたたんだ状態から肩と肘の力を爆発させ、掌打を繰り出した。不自然な姿勢から放ったとは思えない速度の掌は、相手の心臓の位置を的確に狙い撃つ。クリーンヒットの重さを腕に感じる。ガンマンが驚愕に目を見開く。
一撃。
鋭一はゴーグルで見る視界の端に表示されたゲージ……敵のHPが1から0になるのを見た。
それを以て再び、上空に文字が現れる。
[FINISH!!]
それと同時に、ガンマンの身体は派手に爆発した。
決着である。
[WINNER A1]
表示された勝者の名前を確認し、鋭一は髪を揺らす爆風に目を細めた。
* * *
「くっそー。私の早撃ちと<伸縮腕>の相性は良いと思ったんだけどなあ」
「いや、実際強いですよそれ。だから<フラッシュ>のタイミングはミスれないんだ」
「A1さんは誘いこみのテクが上手すぎるって。スキルも地力があって初めて活きる、かあ。別の構成も試してみようかな」
「マジすか、貪欲だなあ」
「当たり前じゃない。次こそぶっ殺してやりますから。おやすみなさい」
「ははっ。こっちこそ殺します。おやすみなさい」
試合後の雑談を音声チャットでひととおり楽しんだ後、鋭一はゴーグルを脱ぎ、心地よい疲労感とともに現実世界のソファに倒れ込んだ。
満足げに息を吐く。あの荒野の闘技場が、彼を最も満たしてくれる場所だ。
プラネット(Pla-net)は、「荒廃した未来の地球」という設定のVR空間である。
人類はとうに滅亡したが、そこにコールドスリープから目覚めた過去人——
そこでの戦いにおいて、鋭一はかなりの強さであると自負している。特に一撃で勝負の決まる特殊ルール……互いのHPが1で戦闘開始するサドンデス・ルールではもう随分負けていない。初撃を当てる事にかけて、彼の右に出る
アバター名「A1」……
初撃という一点に限れば、デュエル・ルールのトップランカーすらも凌駕している自信が鋭一にはある。この仮想空間を支配する、あの化物どもを。
彼らは本当に凄い。感動的なまでの素晴らしい戦いをする。戦いの鬼とでも言うべき、圧倒的な技術と精神。正直言って憧れている……あまり戦いたくはないが。
鋭一は寝返りをうちながら先の戦いを反芻する。
戦うというのは本来、大変な快楽の伴う行為だ。持てる力を尽くし、互いの全霊をぶつけ合い……敵を倒す。そこには根源的な興奮と悦びがある。
もちろん日常でそれは許されない。だがVRでなら、できる。
目の前に倒すべき敵、倒してもいい敵がいる。
それは全力で「ぶっ殺し」ても構わない相手だ。
ここには痛みも怪我もない。
ここでなら、人はどこまでも獰猛になれる。電気のヒモに対してシャドーボクシングするくらいの気軽さで、人を殴れる時代がやってきた。
”プラネット”は、戦いのメリットだけを人々に与えたのだ。
右手を握り、開く。自然とその手は掌底の形を作っていた。クリーンヒットの感触はまだ残っている。勝利の感触が。鋭一は戦うのが好きだ。勝つのはもっと好きだ。
体がうずく。今日はもう満足したと思っていたが、そんな事はなかったようだ。
時計を見る。……すでに深夜1時を回っている。
明日は火曜日、つまり平日だ。
高校が始まるのが8時半なので、
今から寝ても睡眠時間は7時間を切っているので、
常識的に考えればここで寝ないと明日に色々な支障が出るので、
でも手にはまだ掌打の感触が残っているので……。
——「迷ってるその時間でもう一試合できる」。
鋭一はこの界隈に伝わる迷言を思い出した。
なんとも都合の良い言葉だが、つい身を委ねたくなってしまう。
大丈夫。あと一試合、あと一試合だけだから。
お決まりの常套句とともに勇敢なる
「あれ? 寝るんじゃなかったの?」
ログアウト前に雑談していた様子を見ていたのだろう。ロビーにいたプレイヤーからメッセージが入る。
鋭一は音声チャットをオンにして、アバターの人差し指を立てた。
「いいや、もう一戦だ」
……などという生活をしていれば、当然こうなる。
白い朝日に当てられて鋭一は目を覚ました。彼は寝ぼけ眼で起き上がると、卓上の時計を見て目をこすり、念のためスマホの時計も確認した。
どうやら、朝食の時間は消えた。
着替え、家を出て、大慌てで走った。現実の鋭一はA1より背が低く、手足も短いので走ってもなかなか進んでくれない。スタミナにも難があり、すぐに息が切れて胸が苦しくなる。
だが止まるわけにはいかない。遅刻なんて事になれば、また『社長』に何と言われるかわからない。
校門を駆け抜ける。階段を駆け上がる。チャイムが鳴り始める! いや、鳴り終わるまではセーフだ。教室のドアが見えた。ここで<ショートワープ>のスキルを発動すれば!
……だがもちろん、鋭一の肉体にそんな機能はない。そのまま無情にもチャイムは鳴り終わった。ああ、これだから現実ってやつは!
教室に駆け込んだ鋭一はちょっとした笑いものになった。今週だけでも二度目だ。さすがに恥ずかしい。
ホームルームを始めようとしていた担任の女性教師は眼鏡を冷たく光らせる。
「……平田」
「はい」
「5限、世界地図を使おうと思うんだけど」
「あの黒板くらいある、でかくて重いやつですか」
「そう。社会科準備室にあるから」
「1階の端っこにある、クソ遠い物置き部屋ですね?」
「物分かりが良くて助かる。任せたわ」
「まあ、そうなりますよね……」
社会科準備室までは結構な距離があり、罰として成立するくらいには面倒だ。
自業自得とはいえテンションが下がる。仕方ないのだ。全ては自分が勇敢なる
というわけで5限前の昼休み。鋭一はため息をついてだらだらと廊下を歩いた。
睡眠不足のためか、心なしか動きが鈍い気もする。
それでもなんとか、数分ほど歩いて彼は準備室にたどり着いた。
扉に手をかけて開く。
そしてそこで、上半身裸の女子生徒を見た。
* * *
涼しげで整った顔立ちは美人と呼んで差し支えのないもので、授業中に眺めて「可愛いなあ」と思ったという証言は男女問わず多い。
ところが、話したことがあるという生徒は同じクラスにも存在しない。「後で話しかけてみよう」と思っていても、休み時間になると存在を見失ってしまうというのだ。
教室の外を出歩いているのかもしれないが、席を立つところを見たという生徒もいない。それで次の授業が始まるといつのまにか、いつもの席にちょこんと座っているのだ。
そんな彼女だが、体育の授業になると意外にもスポーツ万能という一面を見せる。泳ぐのは水泳部より速く、ソフトボールではホームラン王である。
しかしホームベースを踏んだ彼女にハイタッチしようとしても、できない。気配もないままにチームのベンチに座っていたりする。
そして放課後になると休み時間同様、いつの間にかいなくなっている。
授業は間違いなく真面目に受けているようだ。なのに、存在を掴むことができない。学年でのあだ名は「幽霊」もしくは「忍者」である。もっとも、本人に面と向かってそれを言うことができた者は一人もいないが。
このように一色葵には謎が多い。なぜ気配がないのか? なぜ誰とも話さないのか? そもそも実在するのか?
しかし、平田鋭一にとって今最も重要な疑問は別にあった。
それは、なぜ目の前でその一色葵が着替えているのか? という事だ。
「……えっ」
突然の裸体を前に鋭一は息を詰まらせた。
カーテンの隙間から差し込む真昼の日差し。
普通の教室の半分もない広さの部屋。
その中央に浮かび上がる、小柄な白い背中。
背後の気配に気づいた少女がわずかにこちらを向く。おかっぱの黒髪、涼やかな目つき。間違いなく一色葵だ。
雑用で資料を取りにきたら、隣のクラスで評判の美少女が脱いでいた。事実を受け入れられずに頭の中が混乱するが、目の前の景色はVRではなかったし、その少女はアバターではなく現実のものだった。
彼女は下半身は制服のスカートだが、上半身は何も身に着けていなかった。
衣服どころか下着の紐すら存在しない全面肌色の背中は、それだけでも十分に「裸」を感じられるものだった。女の子のそんな姿など、もちろん見た事もない。
「ちが」
何が違うのかすら思いつかないまま、鋭一はとにかく脊髄反射で弁解の言葉を並べようとした。葵の身体が音もなくこちらを向いた。
そこからは、様々な事が起こった。
葵の無感情な瞳が鋭一を捉えた。
同時、床を滑るように細い脚が動き、つま先が鋭一のほうを向く。
そうしながら彼女の右腕はしなるように動き始めており、
白鳥の首のような白い腕が鋭一の顔面めがけて伸びる。
迫る彼女の手からは二本の指がスラリと突き出され、
二つの先端は鋭一の眼球を
ここで鋭一の反射神経が目を覚ました。
顔面を真横にスライドし、危険な二本指を視界からはずす。
ゾクリと背筋を悪寒が駆けた。
本能に訴えかける恐怖に対し、鋭一の体は自然といつもの構えをとっていた。
回避と攻撃は常に一体。斜め前に踏み込んだ鋭一は既に相手の目の前にいる。
——この距離ならば、心臓が狙える。
鋭一は無意識に任せたまま必殺の掌底を
ここで鋭一の理性が目を覚ました。
ここは学校で! 試合ではなく! 目の前にいるのは女子生徒!
鋭一は攻撃動作に必死でブレーキをかけた。
結果、必殺の掌底を寸止めする事に見事成功した。
左胸を狙った手のひらは、心臓の手前ギリギリで停止した。
本当に心臓に届く直前だった。危ないところだった。
……では、心臓の手前には何があるか? 女子生徒の。
鋭一は、今までに経験したことのない乳白色の手触りを味わっていた。
ああ、これが、噂に聞く、女性の胸についているという、あの。
―—然り。鋭一が初めて知る感触。素晴らしき柔らかさを備えたこの物質は、世間的に「おっぱい」と呼ばれているものである。葵のそれは、小柄な外見に反して十分なボリュームを備えていた。恐るべき事実だった。
掌をむずむずとした電流が走り、甘く痺れる。そういう<スキル>を使われたわけでもないのに! 鋭一の頬を汗が流れた。動きが完全に停止する。
だが止まったのは一人だった。
彼は天地が逆になる、という現象を、VR以外では初めて体験した。寸止めした右腕を取られ、捻られただけで鋭一の身体は逆さまになって宙に浮いていた。
「——えっ」
急な視界の回転。床と天井が逆になる。思わず声が漏れる。
そして背中から床に落とされると同時、自分を見下ろす少女の顔が目に入った。葵は倒された鋭一に馬乗りになり、完全に動きを封じていた。
全てが、瞬きひとつ許されない重要な出来事の連続だった。
鋭一は相手が裸である事も忘れて驚愕した。そのくらいの衝撃だった。
自分と変わらない背丈の少女に軽々と宙に浮かされ、投げられた。こんな事があるだろうか?
正体の掴めない謎の高揚感を鋭一は味わっていた。手のひらに残る感触。跨られた胴体に感じる体温。こんなにも温かい彼女の体の、瞳だけがあんなにも冷たい。
心臓が高鳴った。嬉しい、恐い、凄い。どれも正解で、どれも違う。
ただ、その全てが彼女の魅力だった。感動した、と言えば間違いないだろうか。どの方向に動いたのかは分からないが、心が動かされた事は確かだ。
「…………君は」
鋭一は葵を見上げ、言った。心臓の鼓動が速まるのを感じる。ツバを飲み、今しがたの応酬を反芻する。
鳥肌が立った。身体の芯が震え、口の中が乾く。
これは恐怖か、はたまた興奮か?
「…………あなたは」
一方の葵もまた鋭一を見つめ、ぽつりと呟いた。
裸身を見られたにも関わらず、表情にはひとかけらの羞恥も見えない。ただ黙って目の前の相手を興味深げに見下ろす。完全に不意をついた彼女の目潰しを、初見で見切ってみせた男を。
「「もしかして」」
そして、二人の言葉が重なった。
両者は目の前の驚くべき存在に対して、ある結論を出していた。
こんな事ができる人間が、そう居るはずがない。
ならばあなたは、君は、おそらく……。
二人は同時に、言葉を続けた。
「
「”裏”の人?」
——ん?
予想と違う単語に、鋭一は首をひねった。
見ると、相手の少女も不思議そうに首をひねっていた。
「……ちがった?」
葵はすっと立ち上がった。何か考えているようだ。
鋭一もまた倒された状態から上半身を起こし、目の前の少女の事を考えた。アウェイク、と聞いてピンときていない。あの明らかな戦闘用の動きが、ゲームと関係ない?
ドアの外で鋭一を倒した葵は、小首をかしげたまま部屋の中に戻ろうとしていた。
鋭一は焦った。高揚感が収まらない。
彼女はいったい何者なのか? 今聞いておかなければ、これきりで彼女は「幽霊」「忍者」に戻ってしまう。これほどの高揚を与えてくれた彼女という存在を失ってしまう。そんな気がした。
だが今、声をかけるのか? 相手はまだ裸なのだ。人に見られたらどうする。そもそも会話などしてくれるのか。常識で考えれば今はそのタイミングではない。でも、どうしても聞きたい事がある。
彼は思考を何度も往復させ、迷った末に……あの迷言を思い出した。
——「迷ってるその時間でもう一試合できる」。
彼女との第二ラウンドを始めるなら、今だ。
「ま……待って! い、一色さん……だよね?」
鋭一は思わず、葵を呼び止めていた。
葵は歩みを止め、わずかに振り返った。さすがに胸は右手で隠している。
「一色さんは、」
「葵」
最初に葵がした返事はそれだった。
「苗字は……あまり好きじゃない」
「え、でも」
「名前がいい」
そっけない口調だが、不満を口にするその声は少し子供っぽくも聞こえる。
鋭一は仕方なく呼びなおした。少し気恥ずかしい。
「わ……かったよ。葵、さん」
「うん」
葵は納得したように小さくうなずいた。心なしか、少し雰囲気がやわらかくなったように見えた。
鋭一は本題に入るべく再び口を開く。
「教えてくれ。今の、それは何ていう技なんだ? どうやって身に着けた? どうして君は、そんなに強い?」
「…………。」
「習ってるの? 何か武道とか……」
「武道じゃない」
彼女は抑揚のない声でぽつりと答えた。
短い言葉で声も小さかったが、確かな否定が伝わってきた。
鋭一は思わず息を止めた。変わらず平淡な口調だが、そこには何らかの感情がこもっているような気がしたからだ。
そして彼女は、こう続けた。どこか寂しさを感じさせる声だった。
「これは……人を殺すための技だから」
言いながら彼女は、自らの手を見つめていた。
己の存在を確かめるように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます