Round5 様々なる強者たち

A5-1

 土曜日、大会・本戦一日目。

 前回と同じ会場の中央ステージには、この日の本戦にこまを進めた八名が集合していた。


 えいいちあおい、アカリ、ももやまもとみちのり、ソウジャン、Yamato、ドラゴンマン。いずれもここまで残るだけの、Bランクでもひとくせある強者たち。


 ステージをぐるりと囲む観客席からは、予選を上回るねつきよう的なかんせいが聞こえてくる。この時間も、大会のだいのひとつだ。きんちようかんに鋭一はごくりとつばむ。

 彼らはこれからランダムちゆうせんによって、対戦相手を決定するのだ。


「さあお待ちかね! みなさん、この瞬間が好きだろう? 私も好きだ。この中のだれと誰がぶつかるのか。想像するだけで熱くなる!」


 例によって、司会はかね。彼は客席をあおり、そしてたい上の八人をり返る。


「組み合わせは自動抽選によってランダムに決められます。選手諸君には、一人ずつこちらのボタンを押して頂きたい。結果は、上のディスプレイに表示されます」


 金谷の説明も話半分に、鋭一は舞台上を軽く見回してみた。百道に山本、ソウジャンもくせものだ。葵やアカリといった見知った相手にいきなり当たることもあり得る。


 誰と当たった場合のことも、ある程度脳内でシミュレーションはしてきた。どの相手になっても、戦えるはずだ。鋭一はひとり頷いた。いける。


「では、山本選手から順に……どうぞ」


 そして抽選が、始まった。


 八人は一人ずつ、だんじようのボタンを押していく。すると舞台上のきよだいスクリーンで文字がスロットのように回り……決定した試合順が、表示されていった。


 山本道則……第三試合。

 AKARI……第四試合。

 ソウジャン……第一試合。

 ドラゴンマン……第三試合。


[第三試合決定 山本道則 VS ドラゴンマン]


 百道……第二試合。

 Yamato……第四試合。


[第四試合決定 AKARI VS Yamato]


 ──次は、鋭一だ。


 緊張のおもちで前に出る。思えば、これほど大きな大会で勝ち残るのは初めてのことだ。流石はデュエル・ルール、規模がちがう。だが、あまりぎこちなくするのも良くない。後ろでは葵がそわそわと見守っている。彼女にまで緊張をでんさせたくはない。


 鋭一は腹を決めてボタンを押した。さあ、どうなる?


 A1……第二試合。


[第二試合決定 百道 VS A1]


「げっ……!」

「ほう」


 たがいに、思わず声が出た。鋭一は振り返る。サングラスで顔をかくしたなぞの人物は、今日も不敵に笑っている。


「こんなに早く、リベンジの機会がもらえるとはね」

「……させるかよ」


 鋭一もいて笑い返す。

 まったく、運が悪い。事前のシミュレーションをするにはしたが、その効果が最もうすい相手が百道だ。当日に何をしでかしてくるか、わからないからである。


 だが、ならば──実力で勝負するまでだ。鋭一は百道から目をらさなかった。


 ──一方。


「……むー?」


 葵はこてん、と首を真横にたおしてこんわくきわまっていた。

 ステージ上では金谷がしやべりだし、進行を再開している。


 皆が押したあのボタンを、自分は押さなくて良いのだという。ちょっと悲しい。

 大会のお楽しみをひとつうばわれたようで、少し残念だった。


 しかし……それはそうだ。彼女がクジを引くまでもなく、すべての組み合わせは決定していた。


 葵は、第一試合。


 しばらく首を倒していた彼女は、自分を見る視線に気が付いてぴくりと反応した。

 視線の主は、かみをお団子にまとめた少女である。彼女は葵をめるように観察し、ニヒヒと笑った。


「これはこれは……面白いトコを引けたね☆」


 軽いノリと裏腹に、そのたたずまいにいつさいすきがないことを、葵は読み取った。

 当然だ。ただの少女ではない。彼女はひとつの流派を背負い、門下生の上に立つ強者。


 ──[第一試合 アオイ VS ソウジャン]


***


「……さて。いよいよ本戦の幕開けとなります。最初の試合は『によどうはんだいVSうわさの『ゴースト・キャット』!」


 ステージ横のじつきよう席で、ゴールドラッシュこと金谷が勢いよく喋る。しゆさいしやである彼が司会や実況をする必要もないのだが、喋るのは彼のしゆのようなものだ。


 四試合同時進行だった予選と違い、今日の本戦からは一試合ずつ進行し、実況と解説もつく。まさにスポーツの大会のような盛り上がりだ。


「この組み合わせ、どう見ますか? 解説の『Z』選手」

「いーなー、二人ともかわいーなー。何で俺、一位なのに女っ気とかないんだろう」

やす


 を垂れるチャンピオンを、金谷はひとにらみでだまらせた。眼鏡のレンズがれいてつに光る。安田はせきばらいを一つし、


「──えー、まあ。アレです。『如意道』。VR上でかくとう流派作ろうってのは面白いよな。じゆうどうとか空手と違って、プラネットのための戦い方に特化してるし」

「なるほど」


「実際ホラ、あいつのしよう……八位のちようりゆうさいな。ウンザリするほど強いじゃん。もし、ソウジャンがあのレベルの使い手だとすると──そこらのBランクじゃ、さわらせてすら貰えないかもな」


 ステージ上、ソウジャンをあやつる中の人ことにつゆうたっぷりな表情で準備運動がてら両手をブラブラと振り、葵のほうを見る。つややかな黒髪をお団子にまとめ、スラリとした身体からだりよく的な女性。葵よりは少し年上だろうか。


「ふむふむ。この子が『ゴースト・キャット』ね……。とてもそんなキケンな子には見えないけど──」

「?」

「──ま、それは私も同じか」


 ぐい、とびをしてニッと笑う。まるで「自分もキケンだぞ」と示しているかのようなセリフだ。


 葵は聞こえているのかいないのか、じっと立って待つ。

 それから向かい合う二人は、大会スタッフからわたされたゴーグルをかぶった。


「……良かった。だいじようそうだな」


 選手ひかえしつのモニタで試合を見守る鋭一はあんした。葵に、予選の時のような緊張は見られない。ということは……後は、彼女の持つチカラを、存分に発揮してもらうだけだ。


 試合場にライトが当たる。二人のファイターがVR空間にダイブする。

 そして──いつものプラネットの大地に、「アオイ」と「ソウジャン」が降り立った。


 [DUEL RULE 1on1]

 [CHALLENGE TOURNAMENT 1ST ROUND]


 くろねこの少女アバター、アオイはすでに暗殺者の目になっていた。もうずいぶんとゲームにも慣れたのだろう。このメッセージが表示されたタイミングで、彼女は戦闘モードに入れるようになっていた。


 一方、チャイナドレスを身にまとったれいな女性アバター、ソウジャンはみをくずさない。あくまで自然体、いつもの表情。それもまた、彼女の熟練を表すものだった。このゲームにどっぷりかった覚醒者アウエイクにとって、戦いはもはや日常だ。


 [READY]


 両者は構えを取る。アオイは両手をだらりと下げ、目は相手をえる。ソウジャンは右半身を前に、ゆらりとうでを持ち上げる。


 わずかなせいじやく。客席のざわめきもここまでは聞こえない。その、いつしゆん後。


 [FIGHT!!]


 試合が、始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る