A6-2
──さて。大きなホテルのお楽しみといえば、もう一つある。
広大な空間を湯気が満たす。
ところどころで水音が
そして、何よりも。
湯気の
「~~~♪」
上機嫌に鼻歌を歌いつつ、
サラリと流れる長い
男子ならずともゴクリと
が、彼女にとって興味深いのは、自身の肉体などではない。
珠姫は湯けむりの中で目を細め、左右に目を配った。
「ほうほう、こいつは絶景ですな~~……ってか」
彼女は
珠姫は目を光らせると、最初の
細身ながらも健康的な
「やあやあお姉さん、いい
「……おっと!?」
するりと手を
その女性は、昼はお団子にしていた
アバター「ソウジャン」を
「……ちっ。そう簡単にはチェックさせてもらえませんか」
「なになに『モスト』の社長さん。社長なんてやってると、女子高生でもエロ
「あははは。そうかもしんないですねー。いやー美人美人。今度ウチの広告でモデルやってみません?」
「……お断りしとくわ」
「ちぇー」
珠姫の会社「モストカンパニー」はプラネット上で独自スキルの
美羽に軽くあしらわれた珠姫は、次のターゲットを探し始める。するとすぐに……今日の、本命を見つけた。
「もっと……もっと強く、
目の前の鏡に集中し、
よって不幸にも、女社長の
「アイドルさん、
「わひゃあ!?」
おお、VR技術が発展するほどの時代になってなお、ここまで古典的なスキンシップをする女子がここにいた!
珠姫によって背後から胸をわし
「ななな何すんのよ!?」
「ほうほう。葵ちゃんよりはあるかな~?」
「えっ。ほ、ホント……? じゃない。余計なお世話よ!」
「おお。ご飯の時は心配だったけど、ちゃんと元気じゃん」
アカリは
「うーん睨んでても
じろじろとアカリの全身を
「
「いや~でも可愛いのはホントよ? うちで広告モデルやってよ~。アイドルだったらグラビアのひとつくらい、いいじゃない、ねえ?」
「グラビアだったら自分でやりなさいよ、よっぽど向いてるわよ!? 何その胸! 私は……う、
そうだ。今はとにかく戦いのこと、明日のことを考えなくてはいけないのだ。アカリは珠姫から目をそらす。
そして、そこで見た。
大きな
あの、小さな頭は……?
「──葵ちゃん!?」
アカリはすぐに動いた。湯舟に近づく。やはり葵だ。完全に
アカリは葵の細い
「ぷは」
様子を
「葵ちゃん?
「うん」
が。葵は、あっさりと返事した。
目も開いている。どうやら意識もはっきりしている。苦しそうですらない。
「大きいお
「……でも! あんな遊び方、危険でしょ!?」
「むう。わたし、あと五分くらいなら、大丈夫なのに……」
「ご、五分!? い……いやとにかく、一回休も?」
葵はまったく平気そうだったが、アカリに引きずられて風呂を上がることになった。
「……やっぱり、なんだかんだ、いい子なんだよなぁ」
その要素を見送りつつ、珠姫はこぼした。
アカリは
***
「
鋭一は男女の風呂の入り口で待ちぼうけをくらっていた。風呂から出たら
まあ、女の子のお風呂は長いというし。そのあたりはカノジョができたばかりの鋭一に
そうして鋭一がスポーツドリンクを飲みながら立っていると……
「おや、これは鋭一くんではないかね」
彼に話しかける影があった。鋭一は声のしたほうを向く。
そして開いた口が
その人物は、ゴーグルとシュノーケルで顔を隠していたのだ!
今日戦った相手のアバターが、ちょうどそんな感じだった。
ただし首から下は異なる。ホテルの
「も、
「ピンポーン」
「だ、男女どっちの風呂に入ったんだ……?」
「さあねー。あ、ハダカとか想像しちゃイヤよ?」
百道は両手で自らの体を抱きかかえるような仕草をする。この人物は顔を
「しねーよ!」
「ハッハッハ。ま、君は勝ち残ったんだ。楽しみたまえよ」
不審者は鋭一を
「はー。俺は俺で楽しむって……。もちろん、勝ちにいった上でな」
鋭一は、かつて百道に語ったことを思い出す。
──『勝負だけど、遊びだ。楽しい楽しい、遊びだよ』
この気持ちは忘れないようにしたい。それを思い出させてくれる意味で、百道はありがたい存在といえるだろう。
「うーん。葵もこないし、やっぱ寝るかな……?」
物思いにふけりつつ、鋭一は待ち時間に区切りをつけようとした。その時だった。
「──あ。A1、さん」
自分の名前を呼ぶ声がした。しっとりと濡れた長い髪はいつものツインテールではなくポニーテールに
「……アカリ」
いつも強気な少女は湯上がりだからか、どこかやわらかい表情で
パジャマ代わりと思われるピンクの部屋着。下半身はショートパンツの形で、ギリギリまで生足が見えている。
「そっか、ここにいたんだ。ちょうど良かったわ。あの……さあ」
「へ? な……何?」
少し考えるような
「ちょっと話したいこと、あるんだけど。……いい?」
が、アカリの目線は鋭一を
「は……話? えっと、俺は葵を待ってて……」
「葵ちゃんは、ちょっとお風呂で休んでるから。今のうちに……ね?」
アカリは一歩近づき、鋭一の腕をぐいと摑んだ。風呂上がりのアカリの体温が感じられる。
いったいどういうことだ? この
どこか混乱した頭で、鋭一は手を引かれるままにアカリに連れ去られるしかなかった。
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