エピローグ「あなたを見ていたい」
見慣れた校舎。
聞き慣れたチャイムの音。
まもなく授業が始まるというのに、
案の定、
「おいおいだらしないぜ鋭ちゃん。素行には気をつけろって言ってるっしょ~?」
「なかなか
「もう何日か
「ああ、あれなあ……」
大会は、
だがここで運営最大の誤算が起きた。
「なのに、気が付いたらいないんだもんなあ……」
よりにもよってそのタイミングで、葵は
「この
後で聞くと、まず鋭一に優勝を伝えたくて、探していたのだという。彼女にとっては表彰よりもインタビューよりも……大事なことだったのだ。
「つーわけでそろそろ起きたまえよ
「それはそれとして、今は疲れてるんだよ……」
これだけ話しても結局、鋭一は起き上がらない。
珠姫から言われつつも、どうもしゃんとする気がしないのである。
「まったく、ゲームの時とは
「そうなのよ~、言ってやってよ。スポンサーとしてあたしも、困ってるんだから」
「ここまで来る必要、なかったかなあ……」
「まあ、鋭ちゃんの素行から学ぶことはないかもね~」
「一人暮らしって、ちゃんとできてるの……?」
「さあ、どうなんだろ。ロクなもん食ってないって
するとどうやら、話題が変わり始めた。
延々と続く話題に、
気になった鋭一はやむなく顔を上げる。
「おい、いつまでも好き勝手言ってんじゃ……?」
そこで鋭一は固まった。
「おっ。起きた」
珠姫が反応する。だがぶっちゃけ、今そちらはどうでも良い。
「な……なんで……?」
「ま、強くなるため……ってとこかな?」
「え? だってここ学校で、教室で、まだ朝だよな?」
「おや、
「ど、どういうこと……?」
すっかり目の覚めた鋭一はアカリに聞いた。彼女は
「今日から! こちらのクラスでお世話になります。天野アカリです。職業は、アイドルやってます。よろしくねー♪」
「………………えええええ?」
そんな話があるものか、と思った。
だが、あるのだった。
大会で葵が優勝し、アカリが準優勝した。
そこでアカリは鋭一からさらなるゲームスキルを学ぶため、彼の学校への転校を決意したのだ。
幸いにして彼女にも、鋭一のように一人暮らしをする程度の収入があったし……珠姫に相談したところ、あっという間に転校の手続きを整えてもらうことができた。
「──あかりちゃん!」
「お、葵ちゃん!」
鋭一が
「ほんとだった、あかりちゃん来た!」
「葵ちゃんには先にチャット入れといたもんねー。また遊ぼうね」
「うん!」
決勝で
この「また遊ぼう」には、二つの意味がある。それを二人はわかっている。
一つは──前のようにボーリングやプリクラで遊ぼう、ということ。
そしてもう一つは──この間のように全力で、殺し合おう、ということだ。
「ねえ、鋭一」
葵とひとしきり再会を喜んだアカリは、鋭一のほうへ向き直り、再び話しかけた。
「教えてあげようか。私がなんで、アンタ達のところへ通ってたか。で、この学校にまで……わざわざ来たか」
「え? な、何でだよ」
「ふふ」
アカリは、いつかのVRルームでの仕草と同じように人差し指を口元へ運び、声のトーンを落とした。
「尊敬するゲーマーを……もっと近くで見てたいからだよ、『A1さん』」
「……えっ?」
「はい。この話はおしまーい! 一回しか言いませんからね」
アカリはくるりと体を反転させ、鋭一に背を向けた。
鋭一は思わず顔を上げるが、サラリと揺れる髪に隠れて、彼女の表情はわからない。
「むー。あかりちゃん、また鋭一とお話してる。ずるい」
頰を膨らませた葵がこちらへ寄ってくる。
「あっ、ごめんごめん。取ったりしないってば」
アカリは葵の肩に手を回し、鋭一のほうへぐい、と引き寄せる。そしてウインクした。
「これからも、仲良くしてよね? もちろん、三人で」
***
アカリは思う。
──頂点とは、
それはそうだろう。並び立つ者がいないからこそのトップである。
自分が目指しているのは、そういうものだ。アイドルとしても、
だからそうなるよう努力してきた。
するとどうだろう。確かに彼女には実力が積みあがっていた。人気者にもなれた。
同時に、ファンは増えたが……友達はいなくなっていた。
当然のことではある。遊びを切り捨ててやってきたのだ。アカリ自身、遊ぶよりも自分を高めることに喜びを感じていた。
だが今、改めて考える。
──自分の理想とするヒロインには、友達がいないのか?
そんなことはない
アカリの考える「最高のヒロイン」である『
自分と、鋭一と、葵。ライバル意識や
だが……わかってみれば何のことはない。
仲間だ。これこそが──仲間じゃないか。
アカリは二人に見えないようにこっそり笑い……感謝した。
学校もプラネットも、これからまだまだ……楽しくなりそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます