A7-2
赤茶けた大地に向かい合う、黒猫と格闘家。
山本のアバターは、当然本職での試合時の「山本道則」そのもの。上下とも道着を身につけ、黒帯を締めたスキンヘッドの
[READY]
両者が構える。アオイは両手を下げたまま視線を相手に。山本は両の
それまでも二人の間に流れていた
風が
そのまま、いくらかの時が流れた。観客の中には、数分が過ぎたのではないかと時計を
何人かが
一人。二人。三人。その時。
[FIGHT!!]
山本の周囲をただよい、彼に
しかし、どちらもまだ動かない。アオイは完全な不動。山本は小刻みに左右に動き、様子をうかがっている。
「いきなり
「山本か……あのおっさんはマジで恐いので
「頼むから解説をしてくれ」
「つまりだな。恐さも武器、って事だよ。経験値も違うし、どうしたって相手は
「それは安田君だからじゃないの……?」
「相手のコンディションを
「それ、成果はどうだったのさ」
「……
安田の経験はともかくとして、彼の言う事は実際、山本もある程度意識してやっている。ナメられたら終わり、というやつである。
しかし、この相手はどうだろう。目の前のアオイという少女はまるで心乱れる様子もなく、自然な構えのまま動かない。
「こいつは……油断ならんな」
ならば、山本としても不用意には動けない。彼の経験してきた
一度主導権を
だが。選手
アオイの口元が、少し、ほんの少しだけ、
「……そうか。あんな恐ぇー
自分の試合を前に
「いいよ、やっちまえ。──
瞬間。アオイが加速した。
──
静から動へ。自らの殺気を解放して彼女は真正面から山本を
「な…………ッ」
山本に
が……しかし。
そこを、アオイは狙って突く事ができる。
山本は
しかし……そこにはアオイの
なので山本は、身を引きながらアオイの膝を額で受け止めた。可能な限り
そして──
そのまま力を
しかしアオイは背中から倒れ込みながら……
片手落ちとなった山本の投げから、アオイは身をひねって
両者、再びスタンディングポジション。
山本は
彼が最も
「……おい、何だ今のは。お前は……お前みたいなのは、こっちにも居なかったぞ……!」
「あなたは」
アオイは
「とっても強い」
「ああ、お前もな」
山本は歯を
いつぶりだろうか? 戦いの最中に笑うなど。
「まったく……なあ、本当に。居るもんだな」
戦闘中に語り合う
「まだ、見た事もない技を使う奴が!」
山本が、動いた。
自ら前に出ながら、右のジャブ。アオイは最小限の動きで体をずらし
山本の右拳は、彼女の
アオイは摑んだ手を引いて相手の頭を下げ、そこへ逆の手で、
「うん。これで……届く」
アオイは目を突きにいった手で、山本の頭部を摑んだ。必殺の形だ。
「……やってみろ」
山本が
アオイは動じず、言葉を返す事もなかった。返事は、技で返した。
神速の膝蹴りが山本の
そのままアオイは残った足で地を蹴り、山本を仰向けに倒そうとする。首と腕を
首、肩、膝、投げの四つの
「ぬ…………おおッ!!」
首にダメージはある。だが折られては、いない!
右肩は、もう助かるまい。関節を
そして膝と、投げ。これは難しい動きではない。山本は背中から落ちないよう体を横向きに
二人の体が、地に落ちる。
アオイは地面に膝を突き立てる形。山本は余った左手で受け身。
山本のHPは八割近くが
だが、生き残った。
必殺が、必殺でなくなった。
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