第110話 要塞を浮かべよう
要塞へはロズリッダが俺とナッカも浮遊させて運んでくれた。アジトをここまで運んできたことで、権能の練度が上がっているようだ。
「もうこんな安定して空を飛べるんだ」
「そりゃあ、この1日不眠でずっと飛び回ってたからな」
「行きは私やサフランを何度も落としそうになって、かなり緊張したのよ」
そんな会話をしながら俺たちは移動要塞に着いた。紛争地帯の戦いのために、ナッカがサフランやゴーレムスーツ兵たちをアジトから運んできたあの小さな町だ。
「それでナッカはここでやってみたいことがあるんだよね」
俺は早速本題に入った。おそらくナッカの権能だけではできず、俺やロズリッダの権能の助けがいる改造をこの要塞に施したいというのは想像できる。
「私の権能で作ったもの、ゴーレムスーツやこの要塞なんかは、一度作ってしまえば私が離れてもそのまま残り続けるわよね。でもロズリッダの浮遊の権能は、ロズリッダが離れると解除されちゃうの」
「つまり離れなくても解除されないように、どうにかしたいってことか」
「話が早いな。俺がもっと権能の力を引き出さればいいんだが、帝国に行くまでに間に合いそうもないし、フールの力を借りようと思ってな」
話を詳しく聞いてみたところ、彼女たちはアジトはアジトで海の上空などに留めておいて、帝国へ向かうメンバーはこの移動要塞に乗せて運ぶつもりのようだ。アジトには生産を担当する非戦闘員も多くいるので、アジトを帝国領内に持っていくのは止めておいた方がいいと、俺も思う。
だがこれには問題がある。アジトを浮遊させておくとなると必然的にロズリッダがアジトで留守番をすることになるわけだが、そうすると移動要塞を浮遊移動させることができない。
浮遊しての移動を諦めて、ナッカの錬成で船として海を移動するという手段もあるらしいが、できるのなら空を飛ぶ選択肢も欲しいということで俺に相談を持ち掛けたのだ。
「俺の付与でロズリッダの魔法を島に付与すればいいってことだよな」
「そう。できそう?」
俺はまずロズリッダに、その辺に落ちている岩を浮遊させてもらい、それを付与で独立させれないか試みてみる。
「ロズリッダ。解除してみて」
「おう」と言いロズリッダが魔法の制御を解除するも、岩を浮かび続けている。
「あ、成功したじゃない」
ナッカが感嘆の声をあげたが、残念ながら岩はすぐに地面に落ちてしまった。ズシンと大きな音を立てながら地面にめり込んだ。
「落ちちまったな。無理そうか」
「うーん。一瞬だけなら付与できるんだけど、ただの岩じゃすぐに魔法が抜けてっちゃうみたいだね」
「それなら魔石とかはどう」
ナッカがコートの内ポケットをゴソゴソと漁り、団子程のサイズの魔石を取り出した。
「いいアイデアだと思うけど…なんでこんなのを常備してるの」
「最近は戦闘ばかりやってたけど、私の本来の役割はアジトでの生産業務の責任者だからね。いろいろと小道具とかは常備してるのよ」
「じゃあ次はその魔石をさっきの岩に埋め込んで、浮遊するか試してみようぜ」
ロズリッダの提案の元、ナッカが錬成で岩に魔石を埋め込んだ。それをロズリッダが浮遊させ、俺はその魔力を魔石に独立させれないか試してみる。リーメルの魔法剣に、サフランの回復魔法を入れるのと同じ要領だ。
ズシン。また岩が浮遊をやめて地面に落ちた。失敗だ。
「ダメね。さっきよりは長く浮いてたんだけど。そもそも並みの魔石じゃあチャージの容量なんてたかが知れてるし」
「やっぱ俺が権能を鍛えるしかないか」
「うーん。まだ策はあるんだけど…」
俺は背負っていた神器リベリオンを手に持って説明をはじめた。
「これは白竜の村でもらった特別な鉱石から作った武器で、中にガーネットの炎とアザレアに付与されていた無限の魔力のコピーを封じてある。これならロズリッダの浮遊の力の一部を入れて、移動要塞を浮かべるのに利用できるかもしれない」
ナッカが目を輝かせながらリベリオンに触れている。
「この鉱石にそこまでの力があったのね。でもそれをやるとこのリベリオンを手放すことになるでしょ。それはいいの」
「できれば手放したくないけど。最悪俺の武器用と浮遊石用で二つに分けるか。他の神器があればいいんだけど…」
魔法のチャージが必要な魔法剣と違い、ルスキュールの使っていた氷の神器は半永久的に魔法を放ち続けるようだった。その性質があれば、俺のリベリオンの代わりに浮遊の魔力の器になりえると思うのだが。
ここで俺はロズリッダが黙り込んで何やら考え込んでいることに気づいた。
「どうしたのロズリッダ。何か考え事?」
「そうか思い出したぜ、神器っての。そういえば空島で俺とリーメルが戦った相手が神器ってのを持ってたんだ」
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