第86話 時間稼ぎ sideナッカ
フールと別れたナッカは、ターニャとアルトと共に竜人族の居住区へと向かっていた。支配者パレッドが住まう本島で起きる反乱に加勢してもらえるように、他の竜人族を説得するためだ。ターニャが地上に落ちて行方不明になったことに落胆してパレッドの支配を受け入れてしまったものも、ターニャの生存を知れば再び立ち上がるだろう。
本島での反乱にはフール、リーメル、メアが向かっているが、フールやナッカと同じ覚醒者であるパレッドがいる以上不利な戦いになると思われる。なのでまだ戦いに参加していない他の竜人の助けが必要なのだ。
「ナッカさんのこの魔法は便利なものですね。高速で進む船を作ってしまえるなんて」
「便利でいいでしょ」
ターニャに褒められて自慢げなナッカ。ナッカは錬金魔法で木から船を作りだし、パドルまでつけて川を走らせていた。魔法によってパドルを回すのもほぼ自動であり、楽に移動ができていた。
「これもパレッドと同じような力なんですか。一体権能とは何なのですか」
「私だって知りたいわよ。なんで私に急にこの力が目覚めたのかは分からないけど、でも今の私に必要な力なんだから、積極的に使っていくだけよ」
ナッカはアルトの質問にポジティブな返答をする。ナッカは自分の能力の正体への興味はさほどない。せっかく得た力なのだから有意義に使うだけだという楽観的なスタンスなのだ。
川を渡っていくつかの小島を経由していると、遠くに今までで一番大きな島が見えてきた。
「あれが竜人族の居住区です」
「パレッドが来てからこんな端においやられて悔しい限りです」
「でも今日でその支配ともおさらばよ。私たちが来たからね」
ターニャの言葉で竜人族を説得して本島に連れていく。そこでフールの魔法で強化すれば勝利は間違いないとナッカは確信していた。
島までつくと3人は船から降りた。ナッカの魔力供給がなくなった船は川の流れに従って、元来た道を戻っていく。ナッカたちはパドルの力で無理やり川を逆走してきていたのだ。
「ナッカさんのおかげで早く着きましたね」
「ん?あれは…」
アルトが川上の方から別の船が下ってきているのに気づいた。
「どうして二人がここに。それにメア、その目は…」
船に乗っていたのはリーメルとメアだった。二人はフールと別れた後、川の流れに従ってメアの風魔法で補助しつつ進んできたので、ナッカたちにすぐに追いつくことができた。
フールと一緒に行動していたはずの二人がここにいることもだが、ナッカはメアの目が気になった。メアの右目には深い切り傷が刻まれていたのだ。
「この目は自分でやったのです。これ以上パレッドの思い通りにさせないために。あとターニャ様たちにも謝らないと…」
「落ち着いてくださいメア。一体何があったのですか」
「私から説明する」
左目に涙を浮かべて動転するメアに代わってリーメルが状況の説明を買って出た。リーメルの白いコートの肩部分にも損傷があり血で赤黒く汚れている。何かが起きていることを3人はすぐに察して、リーメルの説明を黙って聞く。
リーメルの口からメアの魔眼のことと、それを利用したパレッドの奇襲のことが説明された。
「メアの魔眼が仕組まれたものだったとは…」
「ごめんなさい」
「大丈夫ですよメア。あなたも辛かったですね」
メアを慈悲深く抱きしめて慰めるターニャ。メアの目はリーメルの魔法剣で回復させて傷は塞がったが、目自体は失明してしまった。より高位の回復魔法なら戻せるかもしれないが、今できる処置はここまでだ。リーメルの肩は完治した。
「メアの魔眼はもうないとしても、すでに刺客は送り込まれてるのよね。フールが来てくれるまで
耐えなくちゃ」
ナッカは状況を把握して次の指示を出した。一行は走ってこの島にある竜人族の居住区を目指す。竜人族がいれば刺客が来てもターニャを守れるだろう。ターニャの身に危険が迫ってきているとなれば、反乱に参加しなかった竜人たちも戦いに参加してくるはずだ。
そのとき本島の方角から大量の浮遊石が飛来した。その上には何百人もの神聖騎士団が乗っている。
「あそこにいる白い髪を持つのが姫だ!捕らえなくていい!殺してしまえ!」
一斉にターニャ姫を襲いだした。
「ここは私が時間を稼ぐわ。みんなは竜人たちのところへ」
ナッカがこの場に残って戦うことを決意した。
「分かった。任せる」
リーメルは即答でナッカに任せる判断をした。
「大丈夫なのです?メアたちも残った方がいいんじゃ…」
「むしろいたら足手まといになる。私たちがいるとナッカが大技をつかえない」
「ではナッカさん、この場は任せました」
「こちらは俺たちにお任せください」
こうしてナッカは一人この場に取り残された。
「おいおい。お前一人でこれだけの数を止めれるわけねえだろ。行け!」
男の指示を受けて一部の神聖騎士団は浮遊石でターニャを追おうとする。だがその追跡は、地面から生えた土の触手によってはたき落とされてることで阻まれてしまった。
浮遊石を使って戦場を大回りで回り込もうとした部隊は、地面から巨大な土の弾丸を飛ばされて、浮遊石にごと騎士団員が地上に落ちていった。
「逆に聞くけどこんな有象無象の集まりで私に勝てると思ってるの?」
「…っ!全員でかかれ!」
ナッカの挑発を受けて、神聖騎士団はまずは全身全霊でナッカを倒すことにした。こいつを倒さなければ足場の悪い浮遊石ごと地上に叩き落とされると判断したのだ。
手練れが混ざっているが、自分の力があれば時間稼ぎくらいならなんとかなりそうだ。ここにいる神聖騎士団以外にも反対側から送り込まれた刺客もいるようだが、これはリーメルたちに任せて大丈夫だろう。ナッカはそう考えた。最悪フールが来るまで耐えるだけだと。
しかしそのおよそ1分後にこの場にやってきたのは、フールではなかった。
フールのように空を飛ぶその人物を騎士団員たちが「パレッドさん!」と呼び、士気を高めている。フールが敗れたのだとナッカは察した。
「お前らのボスなら俺に負けて地上に真っ逆さまだぞ」
パレッドの口からそう告げられ、額から冷や汗が出る。
だがナッカはここでフールを信じることにした。それくらいでフールは死なない。自分は自分ができることをやるまでだ。
そして次に自分の力を信じる。同じ覚醒者同士ならパレッドに食らいつけるはず。フールがいなくなっても自分が戦わなければならない。
ナッカとパレッドの戦いが始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます