第89話 合流

 俺が紛争地帯から空島に戻ってきて新技の確認をしていると、遠方でガーネットが巨大な鎧騎士に襲われているのが見えた。飛んでいくのでは到底間に合わないので、とっさに俺はリベリオンを投擲するという判断をしてその鎧騎士を討伐することに成功した。

 俺の膂力も強化してある上に、初速には”ベクトル付与”で速度を重ねているので、相当な速度と威力を持った一撃だっただろう。


 リベリオンを投げた後は急いで飛んで現地に駆けつけた。だがそのときにはすでに一ノ瀬は撤退した後だった。


 「あ、フール。今イチノセたちはそこから飛び降りて…」


 ガーネットに言われた方向を見下ろすがすでに影も形も見当たらない。どうやら逃げ切られてしまったようだな。


 「すまねえ。逃がしちまった」


 「失敗してごめんなさい」


 「いや、一ノ瀬の戦力が想定以上だった。まずは二人が無事でよかったよ」


 ロズリッダもガーネットも計画の失敗を申し訳なさそうにしているが、逃げられるのも仕方ないだろう。


 そもそも俺は一ノ瀬が葵と2人で、パレッドにバレないようにこっそりと逃げていると思ってガーネットたちを送り出した。この戦力で足りると判断した。


 だが実際には一ノ瀬はパレッドを味方につけ神聖騎士団の護衛を連れ、竜人たちを何十人も操り、おまけに謎の鎧騎士を3体も用意していた。これだけの敵を相手に2人と1匹では完全に戦力が足りていない。これは俺の作戦ミスだろう。


 ガーネットによると、一ノ瀬は魔法陣が描かれた紙からこの鎧騎士3体と、さらには喋る巨大なモーニングスターを召喚したようだ。十中八九、女帝カーラの召喚魔法によるものだろう。魔法陣があれば女帝以外にも発動はできるということを知れたのは収穫か。これからは警戒しておこう。


 倒れた鎧騎士には中身がなく、ナッカのゴーレムとも仕組みが違うようだ。ゲームでいうところの魔物という存在だろうか。動く鎧や武器なんかはそれに当てはまる気がする。


 しかし魔物とは一般的には魔族や魔王といった存在が使役するものだと思う。女帝はその魔王討伐のために俺たちクラスメイトを召喚したといっていたので、女帝が魔物をしえきしているとなると話が食い違う気がする。


 帝国にもまだ俺が知らない事情があるのだろう。早く帝国に行って葵や他のクラスメイトの安否を確認したいな。


 「イチノセを追うのか?」


 「いや、やめておこう。葵は命までは取られないと思うけど、ナッカたちは命の危機だから」


 「ナッカが危ないの!?」


 「だからまずはこの空島のことを片付けよう。ガウ!おいで」


 俺は神聖騎士団の相手をしていたガウを呼び寄せた。神聖騎士団もその後を追いかけてくる。さらには一ノ瀬に操られた竜人たちもまた、一ノ瀬が撤退した今でも俺たちを狙って迫ってくる。


 「おい、こいつらの相手はどうすんだ」


 「迫ってきてるよ」


 戦闘態勢を取らない俺に困惑するガーネットとロズリッダの肩を掴み、さらには膝でガウに触れる。そして俺は”座標付与”でこの場から脱出した。


 「え!?何が起きたの?」


 「テレポートの魔法だよ」


 「こんな便利な魔法も持ってたんだな」


 「まあね」


 「フールっていろいろできるんだねぇ」


 俺の”座標付与”は座標の設定に時間がかかるという難点があった。それゆえに戦闘でのとっさの回避などに応用できなかった。


 そこで俺はあらかじめいくつかの座標を設定してテンプレートとして保管しておくことで、瞬時に”座標付与”を発動できるように改良した。細かい移動はできないが、ザックリとその場から移動したいときには有効だろう。先ほどのパレッドの戦いで大気圧変化攻撃から逃げれなかったことを反省して編み出した。


 あといつの間にか自分以外にも”座標付与”をできるようになっていた。対象に触れたうえに、俺自身も一緒に飛ばないといけないという制約はあるが、かなり便利な能力だと思う。


 こうして戦場から脱出した俺たちは、そのまま空を飛んでパレッドの元を目指す。その間に二人には今の状況を説明する。


 パレッドが現れて一度俺がやられたこと、ガーネットとナッカの力を借りて今からリベンジすることと。


 「私がいたら足手まといになるんじゃ…」


 「大丈夫。俺がメインで戦うから、ガーネットは自分ができることをしてくれればいいよ」


 ガーネットは自信がないようだが、やってもらわなければ困る。確実な勝利のためには俺の一人の力だけでは足りない。


 「じゃあ俺はリーメル達のとこの応援に向かえばいいんだな」


 「そういうことになるな。その横腹の怪我もリーメルの魔法剣で治してもらってくれ」


 ロズリッダは横腹から軽傷とは言い難い量の出血をしていた。一ノ瀬の率いていた戦力がかなりのものだったことが伺える。


 戦闘音が聞こえてきた。進行方向の空島はボロボロになり、その上で1体のゴーレムがパレッドと戦っている。ナッカが中に入っているのか。おそらくあれなら先ほど俺がやられた大気圧変化の影響を減らすことができる。


 島では岩石が飛び交い、巨大な土の手足がうねり、衝撃波がしばしば発生している。一般人が迷い込んだら即座にミンチになりそうな、地獄のような空間だ。


 「じゃあそっちは任せた」


 「ああ」


 ロズリッダはガウにまたがり、共に奥の居住区を目指す。俺とガーネットはナッカの横に降り立った。ガーネットにも俺と同じように体内への付与強化を行い、大気圧対策をしてある。ナッカにもかけておこう。


 「ごめん、お待たせ!」


 「ようやく来たの?待ちくたびれたわよ」


 ナッカは平然を装った返答をしているが、かなり無理をしていたようだ。ゴーレムの装甲もベコベコで、中のナッカも呼吸を荒げている。スーツを修復する暇もないほどの激しい戦いだったのだな。


 戦場の小島を見渡すと至る所に戦闘不能になった神聖騎士団が、ナッカが地面から生やした土の手に捕まっていた。この人質によってパレッドが島をナッカごと落とすという手段を取るのを防いでいるのか。


 パレッドが俺たちの前に降りてきた。


 「驚いた。あれだけのダメージからもう復帰したのか」


 「とどめを刺されなかったおかげでなんとかな」


 パレッドはあれで俺を倒したと思っていたようで驚いた様子だ。


 だが焦っている様子はない。こちらに権能持ちが3人揃ってもまだ勝機があるのか。

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