第88話 一ノ瀬との戦い② sideガーネット

 イチノセのが手をかざすと3体の巨大な鎧騎士がガーネットに襲い掛かった。


 鎧の隙間から中が見えるだ、どうやら中に人が入っているというわけでもないらしい。鎧が意思を持ったように動ているのだ。これもイチノセの魔眼の力で操っているのだろうか。


 「こんなもの!」


 ガーネットは3つの巨大な火球を作り出し、それで鎧騎士たちに向けて放つ。だが鎧騎士の盾によってその攻撃の軌道をそらされてしまった。


 「そんな…!」


 「このリビングアーマーも覚醒者が生み出したものなんだ。いかに太陽の権能といえど簡単には倒せないよ」


 余裕ぶるイチノセ。そんな彼の元にロズリッダが走り寄って奇襲をしかける。水魔法の勢いを利用したロズリッダの高速移動にイチノセは反応しきれていない。先ほどのガーネットが放った派手な火球には、ロズリッダから敵の注意を逸らすという意図もあり、ロズリッダはそのチャンスをしっかりと活かしてしてくれた。


 だがこのロズリッダの奇襲も失敗に終わる。


 「オイオイ。アブネエナ!」


 ロズリッダの横腹にイチノセが持つ巨大モーニングスターが命中した。槍でなんとかガードしたが、勢いを殺せずにロズリッダは横に吹き飛ばされた。


 「大丈夫!ロズリッダ」


 「俺の心配はいい。敵から目を逸らすな」


 驚くべきことにそのモーニングスターには目と口があり、自我を持って喋っている。


 「コイツガケガヲシタラ、オレガシュジンニケサレルンダ。カンベンシテクレヨナ」


 「ありがとうスター。助かったよ」


 ガーネットたちに文句を言ってくるモーニングスターと、それに礼を言うイチノセ。ガーネットもロズリッダも未知の生命体を前にして驚きを隠せない。


 「あんな生物は初めて見たな」


 「魔獣なのかな?」


 「シツレイナ!アンナゲヒンナデ、シャベレモシナイヤツラト、イッショニスルナヨ!」


 モーニングスターは怒りを露わにしながら2人に襲い掛かる。持ち手はイチノセが握ってはいるが、イチノセが振るわずともモーニングスター自身が勝手に攻撃をしている。


 「ある程度距離を取って、絶対に攻撃を喰らうなよ」


 ロズリッダが先ほどモーニングスターの攻撃を直撃した横腹を擦りながらガーネットに忠告してくる。動きのキレが落ちていることからも相当重い一撃だったようだ。


 モーニングスターだけに気を取られていてもダメだ。いつの間にか背後に鎧騎士たちが回り込んで斬りかかってきた。


 二人は攻撃を回避しながら作戦を練る。


 「私に考えがあるよ」


 「聞かせてみろ」


 ガーネットは端的に作戦を伝えると、ロズリッダはその作戦の採用を即決した。


 「いいな。やってみるぞ」


 「じゃあ任せたよ!」


 まずはロズリッダがイチノセに向かって突っ込んでいく。モーニングスターが縦横無尽に駆け回り、イチノセとロズリッダの間を完璧に守護している。


 「ゼッタイニココハ、トオサナイゼ」


 「端からお前らに用はねえよ!」


 ロズリッダはモーニングスターの射程のギリギリで進行方向を変えると、魔法で水の道を作ってその上を波乗りしてアオイの元に駆け寄った。


 「葵が目的か!?なにをするつもりだ」


 次の瞬間ロズリッダが自分とアオイの全身を巨大なボール状の水で覆った。


 「今だ!」


 ロズリッダの合図で、ガーネットがその体から極大の炎をまき散らす。イチノセが操る自爆人間の魔法とは比べ物にならない爆発が周囲を襲った。遠くで神聖騎士団たちと戦うガウの元までは届かないように威力を絞って。


 ガーネットは周囲に味方や守るべきものがいると高威力の技を出せない。それゆえにロズリッダに近くから離れてもらい、アオイを守ってもらうことで、この強力な周囲への無差別爆炎を放つことができた。


 後ろに立つ鎧騎士たちはその装甲を熱で溶かされて動かなくなった。しかしイチノセは多少の火傷を負ったもののまだ立っている。モーニングスターも健在なようだ。


 どうやらとっさに竜人たちを操作して即席の肉壁にしたようだ。


 「今のは痛かったよ。流石は太陽の巫女だ。僕も奥の手を出すとしようかな」


 イチノセがまたポケットから魔法陣が描かれた紙を取り出した。まだ残っていたのか。今度の魔法陣は先ほどのより大きくて嫌な予感がする。


 ロズリッダが発動を止めに入ろうするが、モーニングスターに阻まれてしまう。


 モーニングスターの意識がロズリッダに向かっているこの隙に、ガーネットは自分が炎でイチノセの妨害をしようとする。


 だがこのとき、後ろで活動停止したと思われた鎧騎士のうちの1体が再び動き出してガーネットに剣を振り下ろした。他の2体が爆炎からかばったことでこの1体は耐え残っていたようだ。


 3体とも倒したと油断していたガーネットは反応が遅れる。ガードも回避も間に合わない。ガーネットは次に来る痛みに備えてギュッと目をつぶった。


 しかしその斬撃がガーネットに届くことはなかった。その代わりに彼女の元に届いたのは鎧騎士が砕ける音だ。


 目を開けるとガーネットの目の前の地面には、フールの武器リベリオンが突き刺さっていた。ガーネットは驚いて腰が抜ける。


 遥か彼方にフールの姿が見える。どうやらあそこからリベリオンを投擲してガーネットを守ってくれたようだ。


 「オイオイ。アイツガレイノ、フルヤッテノジャネエカ」


 「しまった。僕としたことが油断していたね。どうやらとっくに時間切れだったみたいだ」


 そういうと一ノ瀬はガーネットたちに背を向けて走り出すと、地上に向かってダイブした。その去り際にモーニングスターがしなってアオイを回収していく。


 フールがガーネットたちの元に着くころには、イチノセたちの姿は見えなくなっていた。

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