第90話 権能とは

 時は少しさかのぼり、浮遊石を使ってターニャさん達と共に空島を目指して上昇していたとき。俺はターニャさん達にとある質問をした。


 「この浮遊石同様に、空島もその支配者の能力によって浮いてるんですよね。反乱を起こしてそいつを倒しちゃったら、空島が落下するんじゃないですか」


 「たしかに。そうなると空島に残っている竜人たちもタダでは済まないんじゃ…」


 ナッカも俺の意見に賛同する。自分たちが助かるために戦っているのに、これでは勝っても負けても死ぬ未来しか待っていない気がするのだが。


 これにターニャさんは覚悟を決めたような真っすぐな目で答える。


 「おそらくその可能性は大いにあるでしょう。しかし空でパレッドを倒して、その支配を終えることができれば、残った地上の竜人が自由になるのです」


 「そこまでして…」


 竜人たちは全体の半数が死に絶えようとも、もう半分が自由になれるならいいという考えのようだ。空での戦いでパレッドを道連れに全滅したとしても、地上で傭兵をやっている、今サフランたちと戦っている人々は自由になれると。そんな判断をするまで竜人たちは疲弊しているのか。


 「姫が消息を絶って一度は反乱の意志が途絶えかけましたが、ターニャ様がいればもう一度竜人族も立ち上がって戦えるはずです」


 地上で傭兵として戦っていたアルトだが、ターニャの姿を見たことで共に戦場に行きたいと願い出たらしい。地上に残っていれば助かる可能性もあっただろうが、彼は同士のために空で戦うことを選んだようだ。


 「ふーむ。悪いけど島が落下しても俺の仲間は俺の魔法で助けるから、そこは恨まないでくださいね」


 竜人が仲間のために命を捨てる覚悟でいることは尊敬できるが、俺や俺の仲間もその道連れになるのはごめんだ。力は貸すが共に落ちて死ぬつもりはない。


 俺の冷たいとも思えるこの発言にもターニャさんは微笑んで返答する。


 「もちろんです。皆さんを道連れにするのは、私たちとしても不本意ですから。それに一応島が落ちても助かる希望はあるんですよ」


 「希望?」


 聞き返したリーメルの方を見てターニャさんは補足する。


 「竜化の権能【力の暴虐】。これを発現することができれば、落ちる空島を支えることができるはずです」


 「また権能ですか」


 「いろいろあるのね」


 俺の付与の権能の価値が薄れていくな。


 「この権能っていうのは結局何なの?」


 ガーネットがターニャさんに質問した。この権能を発現した者が、選ばれし者や覚醒者と呼ばれているということは今までに判明したが、肝心のその権能についてはまだ俺も知らなかった。ターニャさんならもっと詳しい情報を知っていそうだ。


 「権能とは、この世界ができたと同時に生まれた”世界を管理するための力”だと伝わっています。この力は過去から今に至るまでこの世界に脈々と受け継がれており、この権能に認められ器となることで力に目覚めるのです」


 「そうか。それで私は死んだドドガの後継者としてこの力に目覚めたのね」


 ドドガが死んだことで器を失った権能が次に選んだ器がナッカだったわけか。だとすると俺がこの力に目覚めた時にどこかで前任者が死んだのだろうか。


 「この権能は常に器に宿っているわけではなく、適任者がいない時代には存在しないこともあるので、ナッカさんもちゃんと権能に選ばれて覚醒者になったのでしょう」


 「覚醒する条件ってのは何なんだ」


 ロズリッダも権能が欲しいのかターニャさんに食い気味に質問をする。


 「まずは純粋な戦闘力もある程度は必要ですね。しかしそれよりも大事なのが強い想いです。ナッカさんも覚醒前に何か強い想いを抱いたのではないでしょうか。錬金魔法ですから、何かを作りたいと願ったとか」


 「どうだったかしら。でもたしかドドガに、『フールと共に平和な世界を作りたい』みたいなことを言った気がする」


 「おそらくそれですね。その想いに権能が答えてナッカさんに宿ったんです。つまりその力は自分で手に入れたものですからもっと誇ってもいいんですよ」


 ナッカが自分の手の平を見つめている。自分の権能へ思いをはせているのだろう。


 「フールさんもですよ」


 ふいにターニャさんに声をかけられて驚いた。


 俺も女帝や一ノ瀬に処刑されて感情が高ぶった。その気持ちに権能が反応して俺に宿ったということか。


 「竜化の権能は竜人族の王家の血筋の者に宿ったときに、さらなる真価を発揮します。それゆえにパレッドは王家の血筋を恐れていたのです。この力があればパレッドを倒すことも、空島の落下を止めることもできるはずです」


 ターニャさんの語尾が段々と弱弱しくなっていく。


 それはおそらくこの権能が発言する可能性が限りなく低いからだろう。現にこの20年間の支配で竜人族の誰も発現していないわけだ。特に王家の血筋であるターニャさんは、自分が発現できればと悔しい気持ちで一杯だろう。


 「ともかく今は目の前の敵に集中なのです!権能なんかに頼ってたら、勝てる戦いも勝てないのです」


 今まで黙っていたメアがターニャさんを励ますためか急に大きな声で檄を飛ばした。


 「権能なんかとはなんですかメア。権能を得る素質は全てに人間にあります。あなたが発現するかもしれないんだから、ちゃんと心の準備を…」


 「うえー、またターニャ様のお説教なのです。メアは自分の力で戦うからいらない。自分たちの力で玉砕覚悟で挑むだけなのです!」


 「こらメア!ターニャ様に向かってなんて態度を」


 ターニャさんのお説教を嫌そうにするメアに、それに対して怒るアルト。

 メアのおかげで竜人族組たちの雰囲気も少し和んだ。

 

 


 そして現在。俺、ナッカ、ガーネットの3人はパレッドと相対している。


 「覚醒者が3人か。これは分が悪いな」


 「そういう割にはまだ余裕そうね」


 ナッカも俺と同じ考えのようだ。パレッドにはまだ奥の手でもあるのだろうか。


 「竜化の権能持ちがいなければ負けないと思ってるのか。現れなくても俺たちで勝つけどな」


 「ほう、ここの連中は部外者にそこまで話したのか。随分と信頼されてるんだな。でも楽しませてもらうとしよう」


 こうしてパレッドとの再戦が始まった。


 

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