第91話 パレッドとの再戦

 「覚醒者が3人いれば勝てるとでも?」


 パレッドが再び衝撃波の魔法を放ってきたので、俺たちは各々とっさに回避する。次の瞬間に俺たちが立っていた地面が衝撃波でえぐれる。


 パレッドはさらに畳みかけるように周囲の気圧を下げた。先ほど俺を戦闘不能にした気圧のリセットだけではなく、そこからさらに重力を操作して気圧を下げてきたのだ。俺の付与による肉体の強化をもってしても影響を相殺しきれないのは想定外だった。


 また体の内側からじわじわと攻撃される感覚が走る。立ち眩みと頭痛に、鼓膜にも違和感がある。ナッカのゴーレムスーツで守ってもらわなければ。


 「権能を覚醒しただけで強くなれると思ったら大間違いだぞ。結局どんな力も上手く使えなければ宝の持ち腐れだ」


 「こいつ、味方がいるにかかわらず…」


 ナッカが地面で苦しむ神聖騎士団たちを見て戦慄している。彼らは気圧変化の影響をもろに受けて苦しんでいる様子だ。


 「敵が来てるよ!」


 ガーネットの警告もむなしく、ナッカの前に高速移動してきたパレッドが重い蹴りを入れた。ナッカはゴーレムスーツの胸部をひしゃげさせながら後ろに飛んでこけた。


 「くっ!」


 「戦闘中によそ見して敵の心配とは、随分と優しいんだなぁ!」


 「ナッカ!ガーネットは援護を頼む」


 パレッドがナッカに追撃を入れるのを防ぐために俺は両者の間に割ってはいった。そしてパレッドでへの攻撃を試みる。


 だが俺のリベリオンの無数の刺突斬撃をパレッドは細かな重力操作で全て受け流している。俺の”ベクトル付与”と同じ使い方だが、俺のより練度が高い。


 「ナッカは俺とガーネットにも薄いゴーレムスーツを作ってくれ」


 俺はパレッドの相手をしながらナッカに指示を出す。起き上がったナッカが地面を操作すると俺とガーネットの元に土の塊が飛んでいき、鎧となって体を覆った。これで低気圧の影響を受けにくくなったうえに防御力もさらに上がった。


 そしてガーネットの手から巨大な火球が放たれた。パレッドの傍には味方の俺が立っているが、俺には”火炎耐性付与”とナッカの鎧がある。パレッドの方が受けるダメージは大きいはずだ。


 だが火球は俺たちの元へ届かずに空中で停止した。そしてガーネットの方へ戻っていく。ガーネットは一瞬戸惑ったものの、もう1発同じのを撃って相殺した。


 その現象に反応する間もなく、俺とナッカも後ろに落ちていく。ガーネットも「うわわー」と言いながら上方向に飛んで行ってしまった。


 「重力操作か」


 「ご名答。俺を中心にお前らは外に落ちて行っている」


 俺は”ベクトル付与”の飛行で、ナッカは錬金魔法で地面とゴーレムスーツを一体化させて落下を防いだ。ガーネットもすぐに自身の飛行能力で体勢を立て直して、頭が下を向ている。


 だが奴の仲間の神聖騎士団たちは、俺たちのように変化した重力に抗えずに横方向に落ちて行ってしまった。先ほど竜人族の遺体が俺の元に飛んできたのはこれだったようだな。


 「自分の仲間ごと…」


 「お前といい金髪の女といい、俺たち神聖騎士団を甘く見ているな。俺たちは任務の達成のためなら命を捨てる覚悟だ。お前たちはそういう相手と戦ってるんだよ」


 パレッドは部下の命を軽く見ているのではなく、部下の覚悟を重く見ているのか。宗教というのを甘く見ていたな。


 「といっても今回の場合は奴らは死なないけどな」


 「?」


 俺はパレッドの発言が引っかかって、パレッドを警戒しつつ落ちていった神聖騎士団を目で追う。

 パレッドの作った横向きの重力圏から抜けた後は、通常の重力に従って下に落ちていく神聖騎士団たち。しかし彼らは地上まで落ちていくことなかった。いつの間にかこの小島の下に集まっていた無数の浮遊石がキャッチしていたのだ。


 「これで思う存分戦えるな」


 「こいつ…戦いながら仲間のケアまで」


 ナッカが俺の様子で驚愕している。先ほどまでこの地に人質としてナッカが拘束していた神聖騎士団たちもパレッドによって逃がされてしまった。


 やはりパレッドは戦い慣れしていると再認識した。


 「分かったかフール。俺とお前の力の差が」


 「痛感したかな」


 だが負けるつもりはない。


 俺は”ベクトル付与”による飛行で再び距離を詰めようとするが、また重力を操作されて今度は地面にめり込んだ。今度は向きの操作だけでなく、加重されている。


 俺はすぐさま空間への”ベクトル付与”でこれを相殺してパレッドの突っ込む。 


 「これを受けて動けるのか。大したもんだな」


 俺の奮闘に驚いている様子のパレッド。

 だが俺はパレッドの魔法への対処に精一杯で、十分な追撃は入れられない。パレッドのへのリベリオンでの攻撃はいなされ、さらには反撃まで喰らってしまう。リベリオンも弾き飛ばされてしまった。


 俺が一手行動する間にパレッドは数手行動するのだ。これは権能の練度の差以外に判断の早さの差もあるな。


 だがその差は仲間の数で埋める。


 俺の攻撃をさらっと避けたパレッドが着地した地面がドロドロに変化して、パレッドの足を拘束した。ナッカの錬金魔法だ。


 さらにそこへ上からガーネットの火炎が着弾した。


 パレッドはとっさに重力で横方向に炎を吹き飛ばした。外向きの力でガードしていたようだが、無傷とはいかなかったようだ。


 「こいつら、ちょこざいな真似を…」


 2人が作ってくれたこの一瞬の隙を、俺は見逃さない。リベリオンは弾き飛ばされてしまったので、素手でパレッドに急接近する。


 「お前との差は仲間の差で埋める!」


 強化したパンチをやつの腹に炸裂させた。

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