第101話 封印付与
どうやらパレッド曰く、今のメアは権能に飲まれて自我を失っている状況らしい。
そのせいでメアは今もなお周囲にブレスをまき散らして暴れ狂っている。空島が落ちている緊急事態だというのに、またさらなる問題が発生したな。俺はメアのブレスから後方の島を死守しながら、次にとるべき行動を考える。
メアを放置して空島を見捨てるか。空島を見捨ててメアを助けるか。
いや、そんな消極的な考えではダメだな。
両方を助けるにはどうすればいいのか。
「フール…」
「どうすんの?」
俺の焦りを見透かしたガーネットとナッカが、後ろから心配そうに声をかけてくる。
「とりあえず二人は居住区の方に行って。ナッカの錬金で空気抵抗を増やしたりして、できるだけ落下速度を落とすんだ」
焼け石に水かもしれないが、何もやらないよりはマシだろう。
空島のあの落下速度からして、地上にはあと3分くらいで墜落してしまうだろうか。それまでにどうにか根本的な解決をしなければならない。
「分かったわ」
「…メアを助けてあげて」
「もちろん。そのために俺はここに残る」
空を飛べないナッカは必然的にこのままガーネットに抱えられて居住区に向かうことになる。この場に未練がありそうなガーネットが、悲痛そうな面持ちで最後に俺にお願いをしてから飛び去っていった。
メアは今はパレッドを狙って攻撃している。奴の重力変化のせいで飛行が上手くできずに難儀しているようだが。
もし俺が空島へ向かったらパレッドは追いかけてくるだろう。すると必然的にメアもついてくる。そうなれば暴れるメアによって空島はバラバラになり、地上に墜落する前に島の人間は全滅だ。その悲劇だけは起こしてはならない。
俺はメアの元へ飛び立った。
「お、フールは残ったか。空島は放置していて大丈夫なのか」
「大丈夫かメア」
俺はパレッドを無視してメアに話しかける。
黒竜になったメアは息を荒げて大変苦しそうにしている。権能に操られまいとメアが抗っているのだろうか。なんにしてもこのままでは力尽きてしまいそうだ。
「お前らまとめて倒して、俺の一人勝ちだ!グラビティ…おっとあぶねえ!」
グラビティコアで俺たちをまとめて引きずり込んで塵にしようとしたパレッドへ、俺はリベリオンを投げてけん制する。
そして俺はメアに声をかけた。
「大丈夫だよメア。今楽にしてあげるから」
「は?お前まさかその竜を殺すつもりか。仲間じゃなかったのか」
俺は魔力を込めたパンチをメアに叩きこむ。何度も何度も。
「ぐりゃぎゃああああ」
メアが苦しそうに声をあげるが、それでも俺はパンチを止めない。パレッドはその様子を少し離れた場所から見ている。俺の背後から攻撃してくるかもと警戒したが、想定外の俺の行動に警戒しているようだ。
こうして数発叩きこむと、黒竜の様子が変わった。
「痛い痛い!痛いのです。え、フール。なんでメアを殴るのです。ってこの姿は」
黒竜にメアの意識が戻った。声は念話のように頭に直接聞こえてくる。パレッドにも聞こえているようだ。
竜になった自分の姿や俺に殴られているという状況に戸惑っているメアに俺は手短に説明する。
「手荒なことしてごめん。今権能によって自我を失っていたメアに”封印付与”ってのを施して、権能の支配を弱めたんだ」
「そんなことができるのか…」
驚いたのはパレッドだ。本当に俺がメアを殺すつもりで殴っていると思っていたのだろうか。
「メアが権能を…あれ?そういえばみんなは?戦いはどうなったのです」
俺は落ちる空島を指しながらメアへの説明を続ける。
「居住区の島の落下が始まったんだ。あれを止めてきてほしい」
「あれを?無茶なのです」
「今のメアならきっとできるよ」
「…分かったのです」
真面目な俺の目を見て、メアは覚悟を決めてくれた。
メアは翼を大きくはためかせて体を島の方に向ける。
「俺はパレッドを倒す。皆を任せたよ」
「うん!武運を!」
メアが高速で島の方に飛び去って行く。それを追撃しようとするパレッドの前に俺は”座標付与”で割って入った。パレッドはターゲットをメアから俺に変えたようだ。
「この戦いもいよいよ佳境だな。まさかお前がここまでやれるとは期待以上だ。久しぶりに心躍る戦いができて感謝すらしている。だが部下もかなり失って後始末も大変そうだしな。いい加減ケリをつけよう」
「そうだな」
俺とパレッドの最後の戦いが始まった。
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