第102話 パレッドとの決着

 まずはパレッドが衝撃波を発生させる空気の塊の攻撃を連発してきた。俺はそれを回避せず正面から”空壁”でなんとか耐えようとする。


 だが空気を伝わる衝撃波を”空壁”で完全にガードすることはできない。”空壁”をすり抜けた衝撃波が俺まで届き、タイヤで殴られたような衝撃を受ける。


 「どうした。逃げ回らなくていいのか」


 俺はこの場から逃げれない。次の攻撃の準備をしているからだ。


 パレッドの意識が完全に俺に向いている。そのパレッドの肩に、先ほど俺がパレッドをけん制するために放り投げたリベリオンが突き刺さった。


 「ぐぅ!何!?」


 「”引力付与”で俺の元に引き寄せたんだが、たまたま直線上にお前がいたみたいだな」


 「このガキが…」


 パレッドは斥力でリベリオンを抜いたので、俺はそれをすぐに手元に回収する。俺もそれなりにダメージを受けたが、パレッドにはそれ以上のダメージを与えることができた。いいスタートダッシュを切れたな。


 空島での長い戦いで疲労しているというのに、魔力はさえわたっている。


 落下する空島の方はというと、黒竜の姿のまま自我を取り戻したメアが島を下から支えている。ナッカの錬金魔法での軽量化や空気抵抗増加も相まって、空島は徐々に落下速度を落としている。


 「向こうの島はもう大丈夫そうだな。お前の悪あがきも無駄だったわけだ」


 「勝利を確信するのはまだ早いぞ。俺を倒すまではまだどう転ぶか分からんからな」


 パレッドの言う通りだ。俺がここで負ければ、同志たちの士気も下がり、敗北すればまた支配に逆戻りだ。俺がここで勝たなければ。


 次の攻撃は2人ほぼ同時だった。お互い引力を操作して急接近してのシンプルなパンチ。お互いの重い拳が顔面にめり込み、両者後方に吹き飛ばされる。


 脳が揺れる。飛行が安定せずにふらついてしまう。早く決着をつけないと。


 と、同じことをパレッドも思ったのか、奴は早速決着をつけようとしてきた。再び先ほどの重力砲攻撃を用意している。弱っているのか先ほどよりは小さいが、必殺の威力を誇っているだろう。


 「泣いても笑ってもこれで最後だ!お前も出し切れよ」


 パレッドが重力砲を発射した。また俺の背後には島がある。回避はできず撃ち合うしかない。


 俺はリベリオンの炎を解放してパレッドに向けて、全力の”ベクトル付与”で放出した。


 俺とパレッドの間でお互いの攻撃が衝突しせめぎ合っている。


 威力はほぼ互角。といいたいところだが、俺の方が押されてきている。パレッドの重力砲によって俺の炎が削られて威力を落としているのだ。


 衝突点がジリジリと俺の方に近づいてくる。


 これは負けるか。


 そう諦めかけたところに、俺の両脇を二つの光が横切った。一つは巨大な火球。そしてもう一つは巨大なレーザー。ガーネットとメアの援護だ。


 二人の攻撃はパレッドに直撃した。いや、斥力バリアで防がれてはいる。だが隙はできた。


 俺はこの隙を見逃がさずに、炎に全力の魔力を乗せた。


 「いけーーーーー!!」


 「なっ!ぐわーーーー!」


 この炎はパレッドの重力砲を逆に飲み込み、そしてその奥のパレッドまで一気に飲み込んでしまった。


 炎が過ぎたあとから黒焦げになったパレッドが現れ、下にまだかすかに浮いていた小さい浮遊石まで落下した。


 「勝ったのか…」


 俺は満身創痍のパレッド元まで飛行する。バリアを越えて肉体の奥深くまで火傷したパレッドに、もう戦うだけの力は残っていなさそうだ。


 「俺の負けか。ズルいぞお前、権能持ちをこんなに抱えて…」


 「そうだな」


 パレッドがかなり苦しそうに悪態をついてきた。声を出すのもしんどそうだ。彼の言うことは最もで、仲間がいなければ俺はパレッドに勝てなかっただろう。それほどにギリギリの戦いだった。


 「だがこの事件でお前たちは確実に聖教に目を付けられる。そうなったらもう終わりだ。神聖騎士団の他の近衛がお前たちを逃がさない」


 「まさか全員覚醒者とか言わないよね?」


 パレッドは何も答えずに、ただニッとほほ笑んだ。嫌な予感がする。そういえばこいつ近衛第6席って言ってたんだよな。上の5人も覚醒者である可能性は高いだろう。


 そしてパレッドは別の話をしだした。


 「俺はもう死ぬが、最後に神への恩は返さないとなぁ」


 パレッドの声に再び力がこもっている。こいつはまだ諦めていない。まだ何かをするつもりだ。


 次の瞬間、後ろの空島が大きな音を立てだした。振り向いてみると、メアやナッカがいまだに奮闘しているというのに、空島の落下が加速していた。


 「今回は痛み分けにしようぜ」


 パレッドが俺に一矢報いようとしている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る