第116話 帝都への帰還
地上に降りたのは俺、アザレア、リーメル、ガウ、そして騎士団が100人だ。騎士団はいつの間にか200人にまで増えており、半数を紛争地帯に残して他はこちらに連れてきた。
俺たちが降り立った地は一面に草原が広がっており、魔獣などもいない平穏な場所のようだ。さっそくアザレアが指示出しを始めた。
「ではまずは騎士団を二つに分ける。80名はここに残り、周囲の農地や奴隷の調査を行ってもらう。地図によればこの辺りが帝国の大農園のはずだ。ロズリッダたちが到着するまで丸1日はかかるだろうから、今日中に調査を終え、明日の朝から空中要塞のゴーレム兵たちを下ろして奴隷解放をするつもりだ」
俺たちはこれから革命軍のパワーアップのために帝国の農地を奪う。スラム街に召喚魔法陣を通して大量に捨てる程食料がある国なので、多少農地を奪ったところで国民が餓死するようなことはないだろう。
この農地を奪うのはロズリッダの重力魔法でだ。ロズリッダが来る前に奴隷解放と農地の奪取をしても、それを奪って逃げる手段がない。それだとそのうつ他から軍隊の応援が来てしまうだろう。
なので今はまだゴーレム兵たちは上空で待機させ、作戦決行のタイミングまで隠密で準備を進めるのだ。
「そして残り20人は私たちについてきてもらう。こちらはフールの友人たちの調査および奪還のため、帝都へ向かう」
騎士団はさっと二つに分かれると、80人方は四方に散開していった。遠くに町っぽいのが4つあるので、それぞれ調査に向かったのだろう。
「じゃあ行こう。こっちはできるだけ早い方がいい」
「そうだね」
リーメルが言う通り、こちらは葵や他のクラスメイトの安否が分からないのでできるだけスピード勝負だ。農地の解放作戦が終わるまでクラスメイトたちを救出し、ここまで戻ってきたい。ガウも帝国に戻ってきたと分かっているの、「ガウ!」と気合の入った声をあげた。
俺は”空壁”を発動するとそこに全員を乗せ、アザレアに方角を聞いて出発した。人に見られると厄介なので、高度も上げていく。さっき空中要塞から降りたばかりだってのに、また空に逆戻りだ。空壁を箱状にして自分たちを包み、気圧の変化の影響を受けにくくしつつ、ゆっくりと上昇する。
「凄いですね、フールさん。一人で飛べるってのは聞いていましたが、こんな20人以上を連れて飛べるなんて」
「さっきは100人連れて要塞から降りてましたしね」
近くに立った騎士団の女性の2人が声をかけてきた。
「ありがとう。ごめんだけど、スラムの時にいたっけ」
「私たちはスラムの作戦が終わった後に、騎士団に入ったんですよ。初めましてですね。フールさんたちがオークションの調査に向かった後に、サフランさんが見込みがありそうな女子を厳選して魔素トレをして」
二人とも見覚えがなかったが、どうやら最近騎士団になったばかりだったようだ。
「そうだったんだ…それは大変だったね」
「なんなんだ?その魔素トレというのは」
アザレアが質問をしてきたので、俺はそれについて答える。俺自身もすっかり忘れていたが、そういえばそんな無茶苦茶なことしてたなと思い出した。
魔素トレとは、奴隷施設で魔素中毒になった後に復帰したリーメルが闘気を纏えることになっていたのを見たサフランが編み出したトレーニングで、人体に害であり魔法の素でもある魔素をわざと体内にいれて無理やり闘気に目覚めさせるというものだ。失敗したら死ぬ可能性もある荒業である。
「お前たちはそんな愚かなことをしてたのか…」
アザレアが呆れて驚いている。これが普通の反応だよな。
やっぱりサフランは真面目でしっかり者そうにみえて、実はぶっとんだヤバい奴なのかもしれない。スラムでは数十人だった騎士団がいつの間にか200人ほどに増えていたのはたしかに助かったが。
「しかし本当にその方法で、そう簡単にいくものなのか。魔素を中和する魔法というがそもそも私は聞いたことすらないし。サフランは何か無茶をしてるんじゃないか」
「そうなのかな」
俺は疑問に思いながら周りの騎士団を見回した。
「魔素トレの時も、戦場での治療の時もサフランさんはいつも普通ですけどね」
他の騎士団の人が会話に入ってきた。
俺はリーメルとアイコンタクトを取ったが、彼女は首をかしげるだけだ。サフランと付き合いの長いリーメルから見て、サフランは無茶をしてるようには見えないということだろうか。
だがサフランのことだから、何か禁忌の魔法みたいなのをこっそり使ってても不思議ではない。次に会ったら念のために問い詰めておくことにしよう。
そんな不穏な空気が残る会話をしばらくしているうちに、俺たちは帝国の帝都近くの上空まで辿り着いた。眼下に城が見える。
俺たちクラスメイトが召喚され、葵や楠木さんと訓練をし、俺がスラムまで飛ばされた場所。
とうとうここまで戻ってきたか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます