第117話 城への潜入

 帝都は壁で囲まれていて、その中央にもう一つの壁とその内側に城がある作りになっている。俺たちは城の敷地に直接降りずに、まずは城下町に降りて情報収集をすることにした。町は何やら人々からは焦りのような感情がにじみ出ているのを感じる。この国で何かが起きているのは間違いないようだ。


 俺は諜報とか難しいのでガウと一緒にお留守番をしていた。

 そして再び町の隅に再集合をしてその報告を聞く。


 その結果、主にリーメルと騎士団員の活躍で、女帝はこの城にいないことが分かった。


 「魔王軍との戦いが本格的になってきていて、女帝は前線の基地にいるらしい。側近とかも全員前線に出てるって」


 「ほう。女帝はかなり豪胆な性格をしているのだな」


 リーメルの報告を聞いてアザレアは感想を呟いた。女帝カーラは俺たちクラスメイトのような召喚した兵隊に戦いを任せて、自分は安全地帯で戦果報告を待つという人間だと思っていたので、俺も女帝が前線近くに出ているというのには驚いた。


 俺たちは騎士団たちの報告も聞くことにする。


 「私たちは聖教について調べてきました…」


 その騎士団員は表情は曇らせながら報告を始めた。


 まずこの帝都でつい昨日、聖教によるクーデターが起きたらしい。100人以上の聖教徒が自爆魔法をして城壁に突入したんだとか。


 そこで女帝は聖教を弾圧する内容の法律を一夜にして複数制定した。


 翌日これに対してこの国の聖教のトップである司教が女帝と会談を設ける提案をしてきた。そして司教がその場で女帝を殺そうとして、女帝の側近によって返り討ちにあった。


 この場面は聖教の教徒かどうかに関わらず、多くの帝国民が目撃し、この話はすぐさま国中に知れ渡った。


 ”聖教が帝国を滅ぼそうとしている”と。


 こうしてこの国における聖教の影響力は格段に落ちることになった。


 「クーデターに女帝暗殺未遂だと。なんで聖教がそんなことをする必要があるんだ」


 「女帝の仕込みだと思う。一ノ瀬が操ってたんだろうな」


 アザレアの疑問に対して俺が答える。


 しかしなぜ魔王軍と戦う大変な時期に女帝はこんなことをしたのだろうか。魔王軍と戦うのに邪魔だったからとかだろうか。考えても今は分からない。


 リーメルが次の報告を始めた。


 「あと私は場内も見てきた。なんか黒髪で、フールに似た顔立ちの人がたくさんいたけど…」


 「俺のクラスメイトか!」


 俺はつい大きな声を出してしまった。女帝はいないがどうやら俺のクラスメイトはこの城に残っていたようだ。魔王軍と戦うために召喚されたので、てっきり今は女帝と共に前線にいるものだとばかり思っていた。


 「女帝や側近がいないなら今が連れ出すチャンスだよな。俺とリーメルで行ってくる。アザレアと騎士団とガウはここで待機」


 こうして俺はすぐさまリーメルと共に城に潜入することにした。葵はいないかもしれないが、他のクラスメイトをこんなところから助けてあげないと。


 リーメルに案内され、見張りがいない城壁のところから登って侵入する。空を飛ぶと目立つからな。この時久しぶりに”粘着性付与”が活きた。


 俺はリーメルの案内に従って城内を駆ける。念のために俺は探知で周囲に人がいないか探っているが、先導するリーメルも音や臭いで人の気配を探りながら進んでいるようだ。


 「この部屋」


 案内されたのは食堂だ。時間はすでに夕方。訓練が終わり、夕食の時間だったのか。


 そういえば俺は、女帝を襲って処刑されたヤバい奴ってみんなに認識されてるだろうけど、ここで急に入って大丈夫かな。あれは操られてただけなんだけど。


 まあいい。とりあえず入ってから弁明しよう。


 俺は意を決して食堂の扉を開けた。中では帝国の訓練着をした俺と同年代の日本人たちが食事をとっていた。


 だが俺が知っている人は一人もいない。


 「ん?誰?その顔もしかして日本人?」


 大半は談笑の騒ぎでまだ気づいていないが、黒髪ポニーテールの女の子が俺に気づき声をかけてくれた。


 「えっと俺はフール…じゃなくて。古谷っていいます。君たちも日本人なの?」


 「そうだよ。私は内田。ここに召喚された旭高校の生徒なの。君はどこ校なの?一人?私たちはかれこれ1週間はここにいるんだけど、君は最近来たの?私たち以外の日本人に会えるなんて、なんか感激だよ」


 やはり俺の自由ヶ峰高校の俺のクラスメイトではない。そして口ぶりからして、彼女たちは俺のクラスメイトと会っていない。


 「そういうことか…」


 「え?」


 俺はかつてスラム街にて、恵みの雨に混ざって俺のクラスメイトの制服が落ちてきたことを思い出していた。そのときにはすでにこの城から全員いなくなっていたのだろう。そして新しい高校生たちが召喚された。


 おそらく女帝は俺たち以外にも、この旭高校の生徒以外にも、何十人、何百人もの人間を召喚しているのだ。俺が思っていたよりも、女帝にとって俺たちの命は軽かった。替えが効く使い捨て兵器でしかなかった。


 俺は再びクラスメイトたちの安否が不安になり、頭の中がグワングワンと揺れる感覚に襲われた。 

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