第60話 最悪の再会
楠木さんによく似た石像。嫌な予感しかしない。白竜の民の村で石化病なんて奇病を見たところだしな。
だが石化病は体が黒い石になるのに対して、この楠木さんの像は普通の灰色の石像だ。石化病ではないさそうだな。
俺は念のために自分に”状態異常耐性付与”をかけてから、意を決して石像に触れる。ぎょっとした。石とは思えない生暖かさがあったのだ。
「生きてる…のか」
これは石化した楠木さんだ。そう確信した。
「そいつの知り合いか」
ふいに声が掛けられた。声のする方には人魚の入った水槽がある。どうやらあの金髪の人魚が声をおかけてきたようだ。彼女はサメの人魚だった。上半身はやや筋肉質で、口調からしても男勝りな性格であることが伺えた。
水槽の底と首輪が鎖で繋がれており、水中から喋っているようだが、声は不思議とよく聞こえた。
「そうだけど。あなたはこの石像について何か知ってるんですか」
石像に触れてもいないのに「そいつ」と人のような扱いをしている。石像の近くに捕らえられているし彼女は何か知っているのだろう。そう思って俺は質問をした。
「見てたぜ。女が魔法で石に変えられるところをな」
俺の質問に対して人魚は不遜な態度で答えた。捕まっているのにこの態度でいられるとはなかなか豪胆な人だな。
俺は再び石像に触れて”分離”を試してみる。楠木さんにかけられた魔法効果を解除できないかと思っての試みだったが失敗に終わった。普通の魔法とは何か仕組みが違うのだろうか。
「これをやったのはどんな人間だった?」
俺は人魚にさらに質問をする。
「そうだなぁ。俺より若干濃い金髪の男だったかな。顔立ちはお前にちょっと似てた気がするぜ」
やはり犯人は一ノ瀬か。葵はどうなったのだろうか。
「他に女性は?」
「いたぜ。黒髪のが」
一ノ瀬と楠木さんと葵が3人共ここにいたのは確定か。
しかしなぜ一ノ瀬がこんなところにいたのだろうか。もし一ノ瀬がオークションの客なのだとしても、この商品の保管室は盗賊のスタッフしか入れないはずだ。そんなところに葵と楠木さんを連れて侵入したとは思えない。
なにか魔眼の力で盗賊を欺いて堂々と侵入したといったところか。ウエストタウンで人間を操って自爆までさせていたのだ。幻覚のような効果を使えても不思議ではない。
いや、今はそんなことを考察している場合ではないな。
兎にも角にもまずは一ノ瀬を探し出す。そうすれば葵の場所も楠木さんを元に戻す方法も分かるのだ。まだ船にいるといいんだが。
俺は慌てて保管部屋の出入り口に駆けそうになる。それをリーメルが止めた。
「ちょっと待ってフール。落ち着いて。解放した奴隷を放置していくのはまずい」
「そ、そうだな。ここまでやったんだから最後までやらないと」
牢屋だけ破壊して放置したら、盗賊に見つかったときに厄介なことになるだろう。彼らも一緒に上に連れて行くのがベストだな。
あと楠木さんの石像も放置しておくわけにはいかないだろう。持って行かないと。
「じゃあ解放した奴隷を全員俺の近くに集めてくれ。俺の魔法で脱出するから」
「分かった」
リーメルが奴隷たちがいる方へ走っていった。
脱出の方法は至って簡単。奴隷を近くに集めて、俺やリーメルたちを含めて全員を”空壁”のドームで覆う。そして”形状付与”で船の壁に穴を開けて海に逃げ出すという作戦だ。
これで彼らも一緒に脱出してから、俺は再び船内で一ノ瀬を探そう。
「おいフールっての。逃げ出すんなら俺のこの鎖もさっきの魔法で壊してほしいんだが。自分で壊そうとすると爆破するらしいんだ」
人魚にお願いされた。そういえば解放する前に喋り込んじゃったな。あれだけ質問したのに放置して一ノ瀬探しに行こうとして申し訳なかった。
「今からやるよ。えっと、ちなみに名前は」
「ロズリッダだ」
俺は楠木さんをマジックポーチに入れながらロズリッダの名前を聞き出した。しかしここで問題が生じた。楠木さんがマジックポーチに入りきらない。
「あれ、おかしいな」
このマジックポーチの容量はロッカー1個分くらいだったはずだ。楠木さんくらいなら入ると思うのだが。俺はマジックポーチの中を調べて、楠木さんが入らなかった理由を突き止めた。白竜の民から貰った竜魔鉱石が邪魔をしていたのだ。俺はその石をポーチから取り出した。
「こいつ!かさばって邪魔なんだけど」
「なんてこと言うの!白竜の民の人たちがくれた物なのに」
いつの間に近くにきていたガーネットに怒られてしまった。今の今まで牢屋を破壊して回っていたようだ。
「ごめんなさい。ちょっと持っててくれる。楠木さんを入れるから」
俺は竜魔鉱石をガーネットに預けてマジックポーチに楠木さんを入れる。ロズリッダを長々と待たせてしまって申し訳ない。
俺は楠木さんをしまうとようやくロズリッダの元へ向かう。
「いやーお待たせしました。今すぐ解放しますんで…」
しかしその時だった。突如船が大きく揺れ、轟音と共に壁に大穴が開いた。巨大な氷塊で貫かれたようだ。
「なんだっ!?」
氷山に当たったとか、そういう事故ではないことはすぐに分かった。氷塊と穴の間から入り込んでくる海水。それと共に何十人もの人間が入ってきたのだ。これは襲撃だ。
その襲撃者たちを見てロズリッダが呟いた。
「あの紋章は…ルスキュール海賊団か」
どうやら海賊団の襲撃が来てしまったようだ。
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