第59話 奴隷の解放
俺たちは会議をした大広間から通路に出て、階段を使って上の階に向かう。
「それで何なの。いい考えってのは」
「下にあった保管部屋の上の階から入るんだよ。そこまで警戒されていたらまた別の方法を考えないといけないけど」
俺は歩きながらガーネットの質問に答える。あの保管部屋の左右には部屋はなかったので、正面から突入できないとなると上か下からの侵入が選択肢に上がる。もし保管部屋の中にも見張りがいる場合、部屋の下から侵入したらすぐにバレてしまうかかもしれないので、上から入ることにした。
「保管部屋の上はこの辺り」
リーメルが教えてくれた。俺たちより先に一度一人で潜入しているため、この船内の構造に詳しいのだろう。
幸いなことに保管部屋の上までは見張りは来ていないようだった。ただ通行人は多くいるので、俺たちは無人の空き部屋に忍び込んで作戦を決行することにする。
「じゃあメアが床を叩き割るのです!」
「やめろバカ!そんなことしたら敵に気づかれるだろ」
部屋に入るなり、かかと落としをするため足を振り上げたメア。そんな彼女を俺たちは慌てて取り押さえる。なんて脳筋なんだ。
「うう…バカって言われたのです」
「今のはバカって言われても仕方ないよ。大人しくしててね」
メアがガーネットに諭されている。ガーネットの方が年下だろうに。
下の保管部屋に囚われている奴隷たちが怪我をしても困るから、もっとスマートにやるべきだろう。メアの知り合いも下にいるはずだが、竜人は丈夫なので怪我の配慮などしていないのだろうか。
「さて。じゃあ俺の魔法で穴を開けるよ」
俺は気を取り直して床に手をつけ、”形状付与”での開通を試みる。もしドドガが健在ならこの船を錬金魔法で硬化したりもできたのだろうが、今の船は魔法で強化されていないただの船だ。俺の付与魔法でも簡単に穴を開けることができた。
「思っていたよりも床が分厚かったが、問題なかったな」
「じゃあ私から行く」
リーメルが先に穴に入り、保管部屋内部の偵察をしてくれるようだ。少し待つとリーメルが戻ってきて穴からヒョコっと顔を出した。
「近くには誰もいなかった。大丈夫」
「ありがとう。じゃあ俺たちも下に行こうか」
俺たちもリーメルの後に続いて下の階へ降りる。下の保管部屋には様々な宝物の類が台座の上に丁寧に置かれていた。まるで博物館の様だ。ガラスの箱には入っておらず、のざらしの状態ではあるが。
「高性能そうな義手、古いコンパス、指輪、刀。いろんなものがあるな」
俺が特に気になったのは抜刀できないように鎖でグルグル巻きにされた刀だ。傍には”ハングドマン”の所有物と書かれたメモが添えられている。
なんだか不思議な力を放っている気がするな。盗んでいこうか。
俺がその刀に触れようとしたところで、遠くからガーネットに声をかけられた。
「フール。奴隷は向こうに捕まってるみたいだよ」
「ああ、今行くよ」
盗みよりまずは奴隷の解放だな。宝物とかを盗んで革命軍の活動に利用したいが、それは後のお楽しみとしよう。
俺はリーメルを引き連れてガーネットの元へ向かう。メアは自分の知り合いを真っ先に探すために、一足先に駆けていってしまった。
ガーネットに案内された先では数百人の奴隷がいた。大きな奴隷にまとめていれられている奴隷もいれば、個室の牢屋に隔離されている奴隷もいる。オークションにおける価値によって対応が違うのだろうか。
だがこんな大掛かりなオークションの商品ともあって、どの奴隷も丁重には扱われているようで安心だ。
もしかしたら葵や楠木さんがここに捕まっているかもという想像もしたが、部屋の奥までズラッと牢屋が配置されているため、すぐには確かめられない。
「ああ、ついに俺ら売られちまうのか」
目の前の大部屋牢屋に入った一人の青年が呟いた。よく見てみると、どの奴隷も恐怖で震えているようだ。俺たちをオークションのスタッフだと思っているのだろう。
「大丈夫だよ。私たちはここに捕らえられたみんなを助けに来た革命軍だから」
そんなガーネットが彼らを安心させるために声をかけた。奴隷たちの目に光が戻ってくる。
「ほんとに。ほんとに俺らを助けてくれるのか」
「余計な問答をしても時間がもったいないな。早速解放するとしよう」
ちんたらしていたらスタッフが入ってきてしまうかもしれないので、俺はすぐに奴隷を解放することにした。檻に手を触れて”形状付与”で扉を破壊していく。
「檻が…壊れた!」
「逃走まで手助けするから檻から出て静かに待っててくれ」
檻からゾロゾロと奴隷たちが出てくる。みんな涙を流しながら感謝の言葉を述べてくれる。
まだまだ檻はあるのでどんどん壊していこう。ガーネットとリーメルも手伝ってくれる。ガーネットは炎で檻を溶かしているようだ。まだ若干火力が高いが、奴隷を燃やさない程度のコントロールはできるようだ。
リーメルは檻を破壊せずに普通に鍵を開けて奴隷を解放している。
「なんなのその鍵は。マスターキー?」
「さっき向こうの方で盗んできた。先端が変形してどんな鍵でも開けれるらしい」
こいつはまたしれっと盗みを働いていたのか。回復魔法の魔法剣をルギンのアジトから盗んだ時と同じだな。
まあその鍵のおかげで奴隷の解放が捗っているし、悪人からの盗みなので特に咎めたりはしないが。
俺たちは順調に檻から奴隷を解放していき、ついに保管部屋の最奥の壁の近くまで来た。
葵と楠木さんは奴隷として捕らえられているわけでもなかったようだな。一体どこにいったのだろうか。
メアは目当ての知り合いを解放して何やら会話をしているようだ。相手も女性の竜人だ。
壁の奥には水槽があり、その中には鎖で拘束された金髪の人魚がいた。あれが”太陽の巫女”のガーネットの代わりにこのオークションの目玉になったという女性だろう。一目見てみたかった念願の女人魚だ。
だがその美しい人魚より気になるものを俺は見つけてしまった。人魚の水槽の遠く横の壁際に不自然に置かれた石像。
それは女性の形をしていた。俺は気のせいかもと思いつつも、その石像に近づいて確認する。
「これは…楠木さん?」
その石像は俺のクラスメイトである楠木さんにそっくりだった。
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