第58話 オークションの裏側へ潜入

 「何かあった?」


 「いや、もう解決したよ。それよりリーメルの方はどうだったの」


 リーメルはガーネットの様子に違和感を覚えたようだが、それよりも報告を優先してもらおう。ガーネットはメアのおかげでもう大丈夫そうだからな。


 「商品の保管場所は分かった。でもその近くで今から会議があるらしくて人が集まってて、中までは行けなかった」


 「奴隷たちの居場所が分かれば上出来だ。じゃあ全員で忍び込もうか」


 リーメルに案内してもらって俺もついていくのはもちろん、捕らえられた奴隷に用があるメアもついていきたいだろう。そうするとガーネットが一人になってしまうので、全員で行った方が安全だ。


 「問題はどうやって隠密するかか」


 「それならいい物を持ってきた」


 リーメルが人数分の袖のないレザーアーマーとバンダナを袋から取り出した。リーメルはすでに着替えているようだ。


 「これは?」


 「スタッフの制服。これがあれば侵入しても怪しまれない」


 これはありがたいな。これを着て変装すれば物陰に隠れたり天井に張り付いたりといった隠密行動をせずとも船の奥まで入ることができる。


 俺たちはコートを脱いで制服の上からレザーアーマーを着て、頭にバンダナを巻き付けた。脱いだコートは俺のマジックポーチに入れておく。仮面はゲストだけでなくスタッフも全員着けているようなのでそのままだ。これならバレる心配はないだろう。


 「ちょっと小さいのです」


 メアがぼやいた。身長がほぼ同じの俺が普通に着れたのだから、メアも大丈夫だと思うのだが。


 あ、どうやら胸元がきついようだ。それを見てリーメルとガーネットは自分の胸元を暗い顔で見下ろしている。俺はこの話題に触れない方が良さそうだな。


 「はい。気合入れて」


 「いたたた!痛いのです」


 リーメルがメアのレザーアーマーを無理やり締め付けて着させた。何か怨念のようなものが込められている気がしたが、気のせいだろうか。


 「よ、よし。じゃあ行こうか」


 全員の着替えがようやく終わり、俺たちは船の奥へと侵入した。リーメルの先導の元、通路を歩いていく。下手に走るとかえって怪しまれてしまうので、堂々と歩いた方がいいのだとか。


 「おいお前ら。何をしてる」


 ふいに背後から声を掛けられた。振り向くとスタッフの男が立っていた。もしや俺たちが侵入者だとバレたのだろうか。戦闘は避けられないか。リーメルはすでに剣の柄に手をかけている。


 しかしこれは杞憂に終わった。


 「もうすぐ最終会議が始まるころだろ。急いでいくぞ」


 どうやら会議に遅れないように忠告してくれただけのようだ。俺たちが侵入者であることには気づかれていないようだな。


 俺たちはスタッフのおじさんの後ろを走って一緒に大広間まで行くことになった。俺たちが大広間に着いてすぐに会議が始まった。広間の前方に設置された台の上に立つ茶髪ショートヘアの女性が話し出す。


 「皆ごくろう。気づいているものもいるだろうが、まだドドガさんが到着していない。よって今回のオークションでは、この盗賊団のナンバー2である私が引き続き総指揮を執ることにする」


 どうやらあの女性は幹部のようだな。しかもドドガの次に偉いナンバー2だ。あいつならドドガの言っていた”選ばれし者”について聞かされているかもしれない。


 「ドドガさんは恐らく担当していた太陽の巫女の件で問題が生じたのだろう。よって今回のオークションの目玉であった太陽の巫女も到着していない。なので今回の目玉は人魚族の娘にすることにする。客への連絡も忘れぬようにな」


 人魚の女の子まで捕らえられているのか。やはり可憐な感じの美女だったりするのだろうか。これは是非とも会ってみたい。


 「そして承知だと思うが、絶対にドドガさんがいないことを客に悟らせないこと。すでに酒を飲んでいるバカは特に口を滑らせないよう気を付けろ。私からは以上だ。ドドガさんがいないが、このオークションやり切るぞ!」


 盗賊たちが大きな声で「おおっ!」と返事をした。随分と気合が入っているな。というかスタッフなのに酒を飲んでるやつもいるのか。さすがは盗賊クオリティだ。


 女幹部の話が終わり、盗賊たちは全員ゾロゾロと持ち場へと散っていく。


 「なんでドドガさんがいないことを客に知られちゃダメなの」


 リーメルが先ほどのおじさんに質問をしている。あまり危険なことはしないでほしいのだが。


 「そりゃあおめえ、このオークションのセキュリティはドドガさんの魔法頼りだからな。見たことあるだろ、船の内部が変形して不届きな客を殺したの。あれはおっかねえ」


 そうか。ドドガの錬金魔法による変形能力のおかげでこの船は最高のセキュリティを誇っていたんだ。あいつはスラムで自分の魔力を込めた物体に触れた物を探知していたので、おそらくこの船への侵入者なんかも手に取るように分かったのだろう。それだからここの盗賊は全員侵入者への警戒が緩かったのかもしれない。


 「ドドガさんがいないと暴動を起こす客が出てきちゃうかもしれないんだね」


 ガーネットまでおじさんと話し出した。自分たちが侵入者だってこと忘れてないだろうな。


 「そういうこった。おめえら間違っても客の前で口を滑らすなよ。ランさんに蹴り殺されちまうぞ。今は彼女を止めれるドドガさんがいねえんだからな」


 笑いながらおじさんは持ち場へと去っていった。ナンバー2の名前がランdということも知れたな。


 「さて。会議も終わったし、そろそろ暴れるのです」


 「まだ早い。リーメル、奴隷たちの保管場所は」


 「あそこ」


 リーメルが指し示した先には大きな扉があり、その前に屈強な2人の男が配備されていた。奴らを倒すのは訳ないが、それだと侵入がバレて乱戦になる。奴隷の安全が確保されていない段階でそれは避けたい。


 「あそこかぁ。でも大きな男の人が配備されてるけどどうするの。倒すの」


 ガーネットが心配そうにしている。彼女も乱戦を危惧しているのだろう。ガーネットの炎魔法もとい太陽魔法はこの船の中では高火力すぎるからな。足手まといになることが分かっているのだろう。


 「いや、俺にいい考えがある」


 

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