第57話 太陽の巫女
「ええっと…その太陽の巫女というのは何なのでしょうか」
俺は動揺を悟らせないようにお爺さんに質問する。この太陽の巫女というのがガーネットのことである可能性は大いにある。情報を聞き出さなければ。お爺さんの手で立ち上がったガーネットも俺のやや後ろで一緒に話を聞いている。
「なんだ知らんのか。カタログにも書いてあったが、このオークションのボスが聖国から盗んできた人間のことだ。聖国で育てられ、その体には太陽の力を宿す。要は人間兵器だな」
「人間兵器…ですか」
オークションのボスとはドドガのことか。聖国という国は聞いたことがないが、ドドガがそこからガーネットを誘拐してきてあの隠れ家に幽閉していたとするなら辻褄は合うのか。
そしてそこから逃げ出して倒れていたところを白竜の民に掴まり、生贄になりかけていたところで俺と出会った。
ガーネットが人間兵器。たしかにあの火力はそう評価されて然るべきものだった。俺がガーネットから分離して空に放ち、常雨の村に青空を戻したあの火球も正に太陽と呼ぶにふさわしい一撃だったしな。
お爺さんの解説はまだ続く。
「そうだ。こやつは国家間の戦力バランスを崩すほどの可能性を秘めておる。実は今回のオークションにおける私の目的が、何を隠そうこの太陽の巫女でな。帝国の女帝の手の者もこれを狙っているであろうが、私が勝ち取ってみせるよ。楽しみで仕方ない」
異世界から俺たちクラスメイトを召喚し、自国の戦力増強に充てようとしていた女帝カーラ。そんな彼女も狙うほどの存在なのか、太陽の巫女というのは。というかそんなことまで知っているこのお爺さんは一体何者なんだ。
この話を聞いてガーネットはどう反応したのだろうと彼女の方を見ると、呼吸を荒げて取り乱していた。自分が兵器として利用される存在だと知ったら、誰でもこうなるだろう。
俺はお爺さんとの会話を急いで終えることにする。
「それは面白い話を聞かせていただきました。ではこの子の体調が優れないようですので、この辺で」
「そうか。楽しいオークションにしよう」
お爺さんは酒が回っているのもあってか、特に不審がる様子もなくこの場を後にした。彼の従者の青年は俺たちを一瞥してから、お爺さんの後を追っていった。彼には怪しまれただろうか。
「大丈夫か。ガーネット」
「私が…兵器…」
俺はいまだに取り乱している様子の彼女を落ち着かせるよう試みる。”分離”の甲斐もあって暴発の危険性はなさそうだが、一向に落ち着きそうにない。
そんな時、周囲を物色しながら俺たちの会話を聞いていたらしいメアがガーネットに話しかけに来た。
「ガーネット。そんな気にすることないのです。メアたち竜人も空島の支配者にこき使われて傭兵兵器なんて言われているのです。でも他の人間が何と言おうと、メアはメアなのです。だから気にする必要ないのです」
竜人たちにそんな事情があったのか。先ほど俺に聞かれたくないと言った話がおそらくこれのことなのだろう。空島の王の空を飛ぶ力について言及して、嫌悪感を示していたからな。
その言いたくない話をしてまで語り掛けてくれたメアを前にして、ガーネットはようやく冷静になった。
「あの…ありがとう」
「全然いいのです!」
「俺からもありがとうメア。ガーネットのために言いたくないことまで言ってくれて」
「フールが気にすることはないのです。メアはやりたいようにやっただけなのです」
メアがいてくれて本当に助かった。ガーネットのために自分の心を犠牲にしてくれた彼女に報いるためにも、彼女の知り合いを含んだこの船に囚われている奴隷たちを解放しなければな。
おそらくあのお爺さんの話からして、ガーネットが聖国で育てられた人間兵器の太陽の巫女という存在であることは確定だろう。もっと詳しいガーネットの素性は聖国で調べればいい。
あとこの船でやるべきことは、奴隷の解放、選ばれし者についての調査、葵と楠木さんの捜索の3つだ。昼間に自爆人間たちを処理をしているときに3人にも手伝ってもらって町の中は探してみたが、結局葵たちは見当たらなかった。
港で自爆騒動が起きて多くのやじうまが集まっていたから、葵たちも顔くらい出すと思ったんだが。おそらくあのウエストタウンにはいないのだろう。
考えられるのは怪鳥なりをテイムしてすでにこの船に潜入しているか、あまり考えたくはないがすでに一ノ瀬に捕まってしまったかか。あの2人が町までの道中で野垂れ死ぬとも考えにくいしな。
「じゃあ今からはリーメルの帰りを待って、全員で商品がある部屋まで忍び込み奴隷を解放することを試みる。それからそのどさくさに乗じて幹部を捕らえて、選ばれし者について聞く」
「フールの友達は探さないの」
「おそらくこの奴隷解放は終盤でバレて騒動になるので、そのときに会場中の人に俺たちの姿がバレるだろう。そうなったら俺の友達の方から俺に気づいて寄ってくるはずだ」
「最後だけ作戦が雑すぎるのです!」
そうは言われても、これが一番効率良さそうだし。船中を歩いて葵たちを探すのは現実的ではないしな。
「ただいま」
「あ、リーメル。おかえり」
そうこうしていたらリーメルが帰ってきた。早速これから彼女の案内でオークション船の深部への潜入を開始する。
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