第78話 空島の悲劇
俺はメアから竜人族の詳しい話を聞くことにした。
「えっと。お姫様がオークション船に捕まっていたこととか、竜人の傭兵のこととか話を聞きたいんですけど」
「そうですね。こちらのサフランさんにも先ほど話したのですが、総司令官であるフールさんにも事情を話しておかないといけませんね」
総司令官って呼ばれ方はなんだか小恥ずかしいな。
メアが驚いた様子でターニャさんに質問する。
「フールたちに力を借りるのですか?」
「そうです。ドドガ盗賊団を壊滅させたこの方たちならきっと私たちの力になってくれます。ですよねサフランさん」
「任せてください。そのための革命軍です」
俺が知らないところで話が進んでいるようだ。俺も早く状況を理解しなければ。
「それで詳しい事情を聞きたいんですけど」
「そうでしたね。メアが話の腰を折ったせいで脱線しました」
「え!メアのせいなのです!?」
メアはターニャさんを様呼びしており叱られることもしばしばあるが、厳格な主従関係があるいうわけでもなさそうだな。冗談を言い合うこともあり、かなり親密そうに見える。
こうしてターニャさんはようやく話をしだした。
「まず最初に結論から。空島に住まう私たち竜人族はある人族の男に支配されています。フールさんたちにはその男の討伐の協力をお願いしたいのです」
「ある男…指導者っていうやつですか」
「ほう。もうその名前を知っているとは流石ですね。サフランさんに聞き及んでいた通り優秀な方のようです」
ついさっきそこの竜人の男性を尋問して聞き出した情報なのだが、これを言うとまた話がそれそうだから触れないでおこう。竜人の男性の方も特に言及するつもりはないようだし。
「その男の名前はパレッド。20年前に竜人の住む島を襲撃し、我ら竜人は奴の支配下におかれました。そしてその島を浮遊島にさせられ、逃げることもできずに捕らえられ続けているのです」
「浮遊島にさせられたって。空島は元々普通の島だったってことですか」
「そうです。パレッドはあなたと同じく”覚醒者”であり、重力を操ることできます。その力によって竜人の故郷は空島となりました」
また覚醒者か。なんでこんなに大きな面倒ごとに首を突っ込んでしまうのだろうか。
俺も”ベクトル付与”で物体を浮かばせることができるが、流石に島を丸ごと、しかも永続的になんて不可能だ。20年以上覚醒者であるということは、最近力を手に入れた俺とは熟練度も桁違いだろう。
「空島にて竜人を支配したパレッドは我らに傭兵稼業をさせるようになりました。その際地上に降りた竜人が逃げ出さないように、家族は空島に残すようにして」
「じゃあ傭兵たちは空島に人質がいるから傭兵なんてことをやらざるをえなかったと」
竜人が虐殺を楽しんでいるという噂は間違いだったっぽいな。中にはそういう変わり者も実際にいたのかもしれないが、大半の竜人は不本意だったのだろう。
空島とは竜人が住む楽園であるという話をどこかで聞いたが、まさか実際はこんな悲劇の島だったとは。
「竜人族は20年間ずっと耐えてきました。しかし2か月前に私が王族の生き残りであることがバレて処刑されることになったのです」
王族の生き残りということはターニャさんの父親である王様なんかはすでに殺されてしまっているのであろう。
「その処刑場で民たちが命がけの暴動を起こし、パレッドの結界を掻い潜って地上へ私を逃がしてくれました。しかし当の私は地上に降りた途端に盗賊団に捕まってしまいました」
「それで暴動を起こした人たちは…」
「竜人全体の1割が見せしめに殺されたのです」
答えたのはメアだ。下を見つめて唇を噛みしめながら声を絞り出している。貴重な労働力であるため皆殺しには合わなかったのか。しかし王族を守れずに生きながらえるなんて、それはそれで屈辱だろう。
「それでたくさんの竜人がまたパレッドの言いなりになったけど、メアと何人かの仲間は反乱の準備をすることにしたのです。それでまずメアは地上に降りたターニャ様を助ける任務をもらったのです」
「それで港町ウエストタウンで俺たちと出会ったのか。でもターニャさんが盗賊に捕まってオークション船に乗せられてるなんてよく調べたな」
「それはフードの占い師が教えてくれたのです!白いコートの3人組を助けて力を借りるといいってアドバイスもその人がくれたのです」
「占い師…」
メアがあの港でタイミングよく俺たちを自爆人間から救えたのは、占いによる助言を受けていたからだったのか。
サフランと目が合う。これはおそらくサフランや葵にも接触した占い師と同一人物なのではないだろうか。サフランも同じ考えに至ったようだが、これは今触れるべき話題ではないな。
「フールさんのおかげでこうして私はメアと再会することができました。図々しい願いであることは承知ですが、どうか空島の竜人を救う手助けもしてくださいませんか。今パレッドの抗わなければ、近い未来竜人族は絶滅してしまうのです」
ターニャさんが深々と頭を下げた。民のために頭を下げるとは、相当善良な王族なんだな。帝国のカーラや中央王国の国王は民がどうなろうと自分の頭を下げることはしないだろう。
頭を下げるターニャに合わせて竜人の青年も頭を下げた。その様子を見たメアが慌てて自分の頭も下げる。
「もちろんいいですよ。僕もちょうど空島に用があったところですし。というかサフランとはもう話がついてるんですよね」
ターニャさんは頭を上げると笑顔で答える。
「実はそうなんですけどね。形式的にフールさんにもお願いするのが筋かと思いまして」
サフランは俺がこう答えることが分かっていてあらかじめ話をつけていたのか。
頭を下げたままのメアが先ほどの謝罪をしてくる。
「フール。さっきはいきなり蹴ってごめんなさい」
「それは別にいいよ。俺が彼を尋問していたのは事実だし、仲間思いなのはいいことだ。そちらの方、先ほどは尋問してすみませんでした。えっと名前は…」
「アルトです。さっきのことは気にしないでください。戦場に立ち、負けた以上は何をされても文句は言えません。それに先ほどのあなたは私を傷つけるつもりはなかったのでしょう」
ただの脅しだったことはバレバレだったようだ。自分では尋問できていると思っていた手前、かなり恥ずかしいな。
「やっぱりフール様が困っている竜人を見捨てるわけがないですよね。じゃあ早速空島へ行きましょう!」
サフランの号令を機に俺たちは次の行動に移る。
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