第77話 メアの怒り

 「フール。いい人だと思ってたのに。同胞を傷つける奴は許さないのです!」


 半竜化したメアが怒りのままに突っ込んできた。竜人の青年が尋問されているのを見て、かなり怒っているようだ。


 一気に目の前まで距離を詰められ、格闘戦に持ち込まれてしまった。なんとか”ベクトル付与”によるオート操作で迎え撃つ。


 「落ち着いてよメア!別にあの人を傷つけるつもりはなかったんだって。ちょっと脅して情報を聞き出そうとしただけで…」


 「言い訳は聞きたくない!お前たち人族はメアたちを傷つけてばっか。もう許さない」


 なだめようとしたが聞く耳を持ってくれない。メアは両腕と両足だけでなく、尻尾も攻撃に混ぜてくる。このイレギュラーな戦闘はかなり厄介だが、オート運転ならメアの尻尾の動きを探知してそれに合わせた動きをしてくれるので何ら問題はない。


 俺はメアの尻尾攻撃を避けると、彼女の手首を掴みそのままひねって制圧した。攻撃ではなくあくまで俺の身を守るための護身術のような技で、メアは極力傷つけないようにした。


 「落ち着いてってば。そもそも元はといえば竜人族がこの紛争地帯の人々を虐殺するから革命軍が鎮圧するはめになってるんだろ」


 「うるさいうるさい!何も事情を知らないくせに。それも全部人族のせいなのです」


 メアが拘束されたまま地面に向かって口から火球を吐き出した。目の前で小爆発が起きる。半竜化しているため顔の目の前で爆破を受けてもメアは問題ないようだ。


 この不意の衝撃でうっかり手を緩めてしまい、メアが拘束から抜け出した。


 「竜人の力を思い知れ!」


 そして再び俺に向かって突っ込んできた。今度は純粋な格闘術だけでなく風の刃の魔法も混ぜてきているようだ。


 闘気も纏えて魔法も無詠唱で使えるとはかなり優秀だな。戦闘に秀でた竜人族の塔区政なのか、それともメアが特別なのだろうか。


 メアが本気を出して向かってくるなら、こちらも相応の力で迎え撃たなければならない。俺も死にたくはないからな。


 俺も”風刃”を周囲に発動してメアに立ち向かう。


 「両者そこまでです」


 そこに横から第三者による静止が入った。俺もメアも立ち止まり声の方を振り向くと、そこにはメアがオークション船から助け出した女性がいた。たしかターニャさんだったか。そしてその横にはサフランもいた。


 「ターニャ様。なんで止めるのです」


 「あなたには”石”の準備をお願いしていたはずですが。なぜ人族と戦っているのです」


 「ああ、いや、それは…だって…」


 メアがシュンとしてしまった。先ほどまでの勢いが嘘のようだ。そこへメアが俺を襲うきっかけたになった、俺が尋問をしていた竜人の青年がやってきてターニャさんに話しかけた。


 「姫様ご無事で何よりです。メアは尋問されていた私を助けるために戦ってくれたのです。あまり強く𠮟らないであげてください」


 「姫様?」


 突然男性の口から出てきた姫様というワードが気になってつい割って入ってしまった。


 「名前しか名乗っておりませんでしたね。改めまして、竜人の国の姫のターニャと言います。昨晩はメアを私の元で連れてきていただきありがとうございました。それなのにこのような無礼な態度をとってしまい申し訳ございません」


 ターニャさんはメアの横まで歩み寄ると、メアの後頭部に手を添えて頭を下げさせた。


 「いや、それはいいんだけど…」


 お姫様がオークション船に捕まっていて、それをメアは助け出そうとしていたわけか。これは相当な訳ありだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る