第74話 紛争地帯へ

 日が昇る前に俺たちは行動を開始した。2000もの軍勢となると国にバレたら軍隊が鎮圧に出るほどの戦力だ。できるだけバレないように迅速に移動するのが望ましいだろう。


 すでにゴーレム兵の大半は100体ずつに分けて紛争地帯に向かわせているようで、この町には新入りのゴーレム兵100体以外にもう100体しか残っていないようだ。この200体を引き連れて紛争地帯に向かう。


 少しでもバレる可能性を下げるために二手に分かれて進軍している。


 移動要塞は森に隠してきたが、侵入されて盗まれるような貴重品などもないし、ナッカでなければ動かせない。最悪奪われても作り直せばいいと考えているようだ。


 「慎重にことを進めてるようだけど、ここまで移動要塞なんかで移動してきてて道中ですでにバレてるんじゃないの」


 「田舎を通ってきましたから王都にまではまだバレてないでしょう。王都に報告しようとする村の人間がいても、馬での移動となるとまだ日数がかかりますし」


 「でもここからは王都圏に近くなって町も増えるからね。移動要塞は置いて隠密で走っていくわけよ」


 こうして俺たちは夜道を走って紛争地帯までたどり着いた。俺の付与で全員を強化しているため想定よりも早く到着したみたいだ。二手に分かれたもう片方を任せたリーメルたちもすでに到着しているようだ。


 ここは紛争地帯を囲む高さ20メートルの石壁から少し離れた場所に位置する森の端だ。ここに2000体のゴーレム兵が集結した。これからここにいる全員で紛争地帯に攻め込むのだ。


 「すごい人数。でもこんなの誰か指揮できるの」


 「私もそういった戦ごとには疎いので、数とゴーレムの性能で押すしかないでしょう」


 リーメルの質問にサフランが答える。ロズリッダは人魚族の国で兵士のようなことをしていたらしいが指揮はできないらしい。俺の付与もあるし、やはり数と質でなんとかゴリ押せばいいか。


 「では大まかな作戦を発表します」


 サフランの作戦は至極簡単だ。まずはナッカの錬金魔法で紛争地帯の壁を壊す。この壁のせいで中の人々は限られた食料や資源を奪いあうはめになっているわけなので、壁がなくなれば争いが減るという算段だ。


 「この壁は王の命令で宮廷魔術師が作ったものだ。それを壊すということは国への宣戦布告と取られてもおかしくないぞ」


 アザレアが忠告してきた。この壁は王国が作り、税の納めが悪い者たちなどを見せしめに閉じ込めてきた。それを解体するというのは国への叛意にほかならないと。


 「たしかにそうですね。しかもまだ中央王国と全面戦争をするには我々は準備がなさすぎる。無限の魔力なんてものまで持っているらしいですし」


 「なら…」


 「でもだからって紛争地帯の人々を放置するわけにもいきませんから」


 「そうね。まあ最悪フールがなんとかしてくれるでしょ」


 「なんだその投げやりな感じは。俺は正直ナッカの能力の方がチートだと思ってるんだからな。お前も頑張れよ」


 俺はナッカの大規模な魔法を見て抱いていた不満が漏れ出てしまった。


 俺たちの楽観的な態度を見て絶句気味のアザレア。


 「お前たちはまだ若いんだな。そんな楽観的でいたらいつかどこかで失敗するぞ。それに壁を壊した程度で争いがおさまるとも思えん。外に出たところで王国軍に鎮圧されるだけだ」


 「そうなるでしょうね。だから私はこの紛争地帯の人間は全て革命軍に入れるつもりですよ」


 この紛争地帯には国というものは存在せず、100人単位の部族のようなものが多数存在している。獣人であるリーメルの隠猫族の集団もこれにあたる。リーメルを助けて他は滅びてしまったが。


 サフランはこの紛争地帯を平定した後に、賛同を得たものたちは革命軍に入れるつもりだったようだ。紛争地帯の被害者も減り、革命軍も強化される。一石二鳥の作戦というわけだ。


 「虐げられるものを助けつつ、革命軍も強化する。今の私たちにできる最良の手だと考えます」


 「そんなことまで考えているのか…」


 アザレアは黙った。顎に手を当てて何かを考えているようだ。


 さて作戦の続きだ。


 壁を壊した後は3部隊に分かれて紛争地帯を前進して争いを制圧しながら、竜人族の傭兵を倒す。捕まえた竜人に空島への案内を取りつけたら、俺と数人は離脱して空島に向かう。


 そしてそこで竜人の傭兵の増援をとめ、傭兵依頼をした黒幕を調べる。さらに俺個人の目的としては一ノ瀬と葵の追跡だ。


 「ようは殺さずに無力化していけばいいんだろ」


 「船では抑えて戦ってたから、外では久しぶりに全力で炎を出せるよ!」


 「ガーネット聞いてたの?紛争地帯の人は炭にしちゃダメ」


 「ではいきましょうか。配置についてください」


 もうすぐ夜が明ける。

 こうして俺たちの紛争地帯での任務が始まる。

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