第75話 傭兵竜人との戦闘

 作戦が始まった。左翼にリーメルとガーネット、中央にサフランとナッカ、右翼に俺とロズリッダとアザレアという形で分担し、それぞれ700のゴーレム兵を指示する。ガウは中央付近で一ノ瀬や葵の匂いの痕跡を探ってもらっている。


 「捕虜の私に剣を渡していいのか」


 「ここにはアザレアの家族もいるんだろ。なら共闘できるかと思って」


 「…感謝する」


 アザレアほどの戦力を放っておくのはもったいない。


 それに捕虜とは名ばかりの客人みたいなもんだしな。王に捨てられて中央王国との繋がりももうないわけだし。だから特に拘束とかもそもそもしてないわけで。


 こうして俺たち左翼は前進を始めた。俺とロズリッダとアザレアはゴーレム兵の先頭で先陣を切る。


 しばらく走ると早速戦場が見えた。ダークエルフの集団100人が竜人族の傭兵300人に襲われている。竜人族たち側に他の勢力はいないようだ。一体誰に雇われているのか分からないな。


 「あれは…私の家族たちだ」


 「王の保護から外れてさっそく襲われてるのか。全員突っ込むぞ!」


 俺たちは側面から傭兵竜人に襲い掛かった。


 土地や食料などを巡って付近の勢力と小競り合いを起こすのがこの紛争地帯の日常だが、この傭兵竜人たちはよそからきて、ただ虐殺を繰り返すだけの集団だ。誰に雇われているのかも不明で、戦闘を楽しんでいるという噂もある。


 つまりこの傭兵竜人は紛争地帯に住む全ての人にとっての共通の敵なのだ。これを倒せば紛争地帯の混乱も治まり、平和に近づくだろう。


 メアは…流石にこの中にはいないみたいだな。


 「とりあえずこの竜人共をやればいいんだな」


 「そう。でもできるだけ殺しはしないように。話を聞きたいから」


 この作戦の目的は戦場の平定であり、虐殺ではない。なので強力な魔法を使える俺やナッカやガーネットが大技で片付けるということもしない。


 ロズリッダが竜人の集団に特攻をしかけた。先ほどナッカに作ってもらった槍に水を纏わせ、龍のように操りながら戦っている。この水を使うことで機動力も確保しているようだ。


 だがやはりこの数に一人では敵わない。竜人たちが想像以上に強いというのもあるが、味方のゴーレム兵たちの連携が甘いというのもあって思っていたほどの圧勝劇にはならなそうだな。俺の付与で個の力を増しても、集団としての力は本人たち次第なのだ。


 しかし着実に傭兵竜人はその数を減らしていく。何か決め手があればすぐに決着がつきそうなんだが。


 「アザレアは軍の指揮とかできるのか」


 「国では万の軍勢を率いたこともあるが、それがどうした。喋ってないで私たちも突入するぞ」


 アザレアが傭兵竜人とダークエルフの前線に割って入り、竜人の攻撃を剣で受け止めた。


 ロズリッダが一時離脱して俺の横に跳んできた。


 「おいフール。今の会話が聞こえたんだが、まさかアザレアに軍を預けるつもりじゃねえだろうな。仲間でもないやつに仲間の命を預けるのはボスのやることじゃねえぞ」


 「そうだよな…」


 ロズリッダに怒られてしまった。とりあえず俺もアザレアが向かった激戦区に身を投じる。


 ダークエルフの男性が目を見開いてアザレアに声をかけていた。


 「お前アザレアじゃねえか。なんでこんなときに戻ってきたんだ」

 

 「父さんすまない。詳しい話は後だ」


 「よくわからんが、助けに帰ってきてくれたんだな」


 父親だったようだ。家族たちはアザレアと王の契約内容については知らなかったのだろうか。


 俺はここでかねてから考えていた作戦を実行することにした。


 俺は宙に浮かぶとダークエルフの方に向けて声を上げる。


 「聞けダークエルフの民たちよ。俺は革命軍のフール。竜人共を倒して共に勝利を掴むぞ!」


 俺はダークエルフたちを付与で強化した。


 押され気味だったダークエルフたちが息を吹き返した。力が増したことで士気も上がったようだ。


 これによってダークエルフ側が一気に優勢になり、戦場の全ての竜人を制圧した。最近できたばかりのゴーレム兵軍団と違って、ダークエルフたちは集団戦に慣れていた。それがさらに個の力を強化されたとなれば、竜人を速攻で倒すのもわけない。


 俺はアザレアの横に着地しながら質問をする。


 「アザレア。この部族の長は誰だ?」


 「それはここにいる私の父アシタバだが…」


 どうやらこの集団の長はアザレアの父親だったようだ。前線で剣を振るう白髭のダークエルフとはカッコいいものだな。


 「助太刀感謝する。フールさんと言ったかな」


 「初めましてアシタバさん。革命軍の総裁のフールといいます。我々は虐げられる人々の救済をやっているのですが、あなたたちの部族もこの活動に力を貸してくれませんか。もし仲間になってくれるなら、我々も全力であなたちを守ります」


 「お前このタイミングで何を交渉してるんだ」


 アザレアが割って入ってきたが、父親は俺の話に興味津々といった様子だ。


 「助けてくれた恩人に力を貸すくらいはしますよ。それが部族の安全に繋がるならなお喜んで」


 悩む素振りもなくすぐに快諾された。


 こうしてさっそくダークエルフの部族の協力を得ることができた。これを繰り返してこの紛争地帯の戦力を革命軍に取り込んでいくのだ。


 だが俺のここでの目的はまだ終わらない。


 「ということでアザレア。お前の家族は俺の仲間になった。お前もこの捕虜という立場を終えて、正式に俺の仲間になってくれないか」


 「…は?」

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