第44話 常雨の村の問題

 リーメルとガーネットに言われるがままに俺はお婆さんの話を聞いてあげることになった。雨の中で一人でお祈りをしているなんて普通とは思えない。何か事情があるのだろう。


 お婆さんは自分の家に俺たちを案内すると、お茶を用意してくれた。家の外壁はかなり崩れ、室内も所々雨漏りをしており、雨の被害を大きく受けていた。


 山姥とかじゃないだろうな。


 「久しぶりのお客さんで嬉しいよ。お茶くらいしか出すものがなくて申し訳ないんだけど」


 「ありがとう」


 「私ちょうど喉が渇いてたんだよぉ」


 リーメルとガーネットはお茶を貰う気満々のようだ。


 失礼かもしれないが念のために自分たちに”状態異常耐性付与”をかけてからいただこう。毒が入っていたりしたら面倒だからな。


 「ん。美味しいですね、このお茶」


 リーメルとガーネットもコクコクと頷きながらゴクゴクと飲み続けている。よっぽど美味しかったのだろう。2人ともおかわりまで貰っている。


 どうやら毒も入っていないみたいだし、いらぬ警戒だったかな。


 「そうだろうさ。この辺りは魔力を適度に含んだ薬草が育ってね、滋養強壮効果なんかもあるんだよ。ここの村人たちはそれを町に卸して生計を立ててんだ」


 村の特産品について自慢げな声色で話している老婆だが、その目はどこか悲しそうだ。理由は推測できるな。この村へ来る道中で見たように薬草の畑が雨でダメになってしまっているからだろう。畑で働いている村人も見当たらなかったな。


 「でも外の薬草は雨でダメになってた」


 「それに村人もお婆さん以外見当たらないよね」


 リーメルとガーネットも俺と同じことを思ったようだ。お婆さんはその質問にも答えてくれる。誰かに話したくて仕方なかった感じだ。


 「1年前くらいだったかねぇ。聖教の使者とやらが来て、献金を求めてきたんだよ。神への捧げもののためだとか言ってね」


 聖教とはたしか、エルピスという神を崇め、世界中に影響を与える巨大宗教だったな。帝国で習った。帝国にも聖教の教会なんかがあるが、女帝カーラはそれを忌々しく思っているようだった。おそらく国内に自分以外に崇められる者が存在するのが許せないのだろう。


 「この村には聖教の熱心な信者なんかいなかったし、そんなにお金に余裕のある村でもなかったからね。その請求を断ったんだ。そしたらその使者は神をかたどった石像を勝手に村の広場に設置して、『後日神の天罰が下るだろう。この石像に許しを請え』と言い残して帰っていったんだ」


 「天罰って何?」


 質問したガーネットの目を見て老婆は答える。


 「この雨さ。それまでは月に数回しか降らなかったのに、使者が帰った翌日から1年、絶えずこの雨は降り続いているんだ」


 俺たちは驚愕した。聖教の使者の警告通りに実際に天罰が下ったのだ。そうとしか思えない。


 まさに神の御業だな。もしかしたらこの世界には本当に神が存在するのだろうか。


 「神様を怒らせちゃったのかな」


 「天気を操るなんて」


 「にわかには信じられないけどな。神様なんて」


 「こら、滅多なことを言うもんじゃないよ。私はこの神の怒りを鎮めるために、毎日石像の前でお祈りをしてるのさ」


 そういう事情で雨の中でお祈りしてたのか。宗教勧誘のおばさんじゃないと分かってよかった。

 しかしここまでの話では、この村にこの老婆一人しかいない理由は分からない。聞いてみるか。


 「それで他の村人はどうしたんですか。雨に嫌気がさして引っ越しちゃったとか?」


 「いいや。みんな雨の中でもどうにか必死に生きてたさ。でも1か月前くらいに山賊が来てね。たしかドドガ盗賊団とかいったか。そいつらに若者は全員攫われちまったんだ。労働力が大幅に減ったことで老人たちも村の復興を諦めて町に降りて行っちまったよ」


 雨だけでも大変なのに、山賊まで出るとは。泣きっ面に蜂だな。しかもここでもまたドドガ盗賊団とはな。


 「ドドガ…」


 「こんなところにまでいるんだね」


 「ドドガ盗賊団の主催するオークションが北であるわけだからな。スラムとの中間のここにドドガ盗賊団がいるのも納得でしょ」


 「あんたたちそこそこできる冒険者なんじゃないか。こんな雨の山道を通るくらいだし。どうにかあの山賊を倒して村の者たちを救ってきてくれないか」


 お婆さんはこれを依頼するために俺たちに声をかけたのか。俺たちもドドガ盗賊団との因縁があるわけだし、一肌脱いでもいいかもしれない。


 「いいですよ。俺たち盗賊退治は得意なんだ」


 「ほんとかい!感謝するよ」


 こうして俺たちは老婆に山賊のアジトのだいたいの場所を教わり、そこへ向かうことにした。

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