第45話 山賊のアジトへ
お婆さんのお願いを受けて、俺たちは山道を外れて東へ進んだ。詳しい場所を説明しなくても近くに行けばすぐに分かるということだった。盗賊の隠れ家なのにすぐ分かるなんてことがあるのだろうか。
「盗賊との戦闘はどうする?またガーネットの魔法?」
「いや。誘拐された村の人がいるだろうから、ガーネットの出番はないかな」
「うん。まだ魔力をコントロールできる気がしないしね!」
自身がないことを自信満々に言わないでほしいものだ。
「ガーネットはもっと真面目にならなきゃダメ。闘気も使えないし」
リーメルがガーネットに苦言を呈した。彼女はガーネットに対して優しい時もあったり、厳しい時もあったりする。まるでお姉さんみたいだな。
「闘気に関しては使えなくても仕方ないでしょ。ガーネットは魔法職の才能持ちなんだから」
俺はリーメルの意見に反対した。
帝国で習った知識に照らせば、無詠唱であれほど高威力の魔法を使えるガーネットは魔法職の才能を持っていると考えられる。この魔法職の才能持ちのデメリットとして闘気に適性がないというものだある。付与術師の才能持ちである俺もそれゆえに闘気の練習はしなかった。
まあちなみに今の俺は付与術で闘気と同等以上の効果を再現できるんだけどな。”身体能力強化”と”魔装付与”を足したら大体闘気と同じような性能になる。
しかし俺のこの常識はリーメルには納得できないようだった。
「フールが言うその才能ってのも眉唾物。それが本当だとしたら、サフランやナッカが闘気を纏える説明がつかない」
「…たしかに」
サフランは回復魔法の、ナッカは錬金魔法の才能をそれぞれ持っていると考えられるが、2人とも魔素トレによって闘気を纏えるようになっていた。
女帝の持っている情報が間違っていたのだろうか。
「じゃあ頑張ってみるよ。でも本当に闘気なんて纏えるのかな」
ガーネットが面倒くさそうに答えた。
「まあ無理せず自分ができることをすればいいさ。ガーネットには炎魔法があるんだから、そっちの練習に集中すればいいよ。闘気は余裕ができてからで」
「フールはガーネットに甘い。闘気がないと接近されたとき身を守れない」
リーメルはどうやらガーネットの防御面を心配して闘気の習得を急かしていたようだ。
「それは俺の魔法で強化するし、俺がいなかったらリーメルとか他の人がカバーしてあげればいいよ。お互いできないことを補えるのが仲間でしょ」
「…うん」
「いいこと言うねぇ、フール」
ということでガーネットは闘気の習得より炎の練習を優先してもらうことになった。
闘気の習得が騎士団の必須事項みたいになると、闘気を纏えない俺の面子が潰れるかもしれないという懸念があってガーネットをフォローしたが、なんかいいことを言った風になってしまった。せっかく良い感じにまとまったので余計なことは言わないでおこう。
そんなことを話しながら歩いていると目的のアジトが見つかった。なぜ盗賊のアジトだと分かったかというと同じようなものをスラムでも見たからだ。
土製の建物が密集しており、その上空にはこれまた土製のドームのようなものが広がっていた。ここもドドガが作ったのだろう。
「隠れ家とは程遠い」
「スラムでもそうだったけど、こいつらのアジトって目立ちすぎだよな」
サフラン曰くドドガ盗賊団は世界に名を轟かす巨大組織らしい、随分と好き勝手振舞っているのだろう。
しかしあの老婆はこれだけの規模の盗賊のアジトを本当にこの3人で制圧できると思ったのだろうか。そう思った次の瞬間、俺の領域内に複数の人間の気配がした。そして周囲の木から帯剣した3人の男が襲い掛かってくる。
「危ない!」
最初に反応したのはリーメルだった。リーメルはガーネットを守りながら2人の男の攻撃を受け止め、俺も自分に襲い掛かってきた男を”弾性空壁”で吹き飛ばした。
「まじかよこいつら。かなり強いぞ」
「全員で取り囲め」
リーメルに攻撃を受け止められた2人は下がりながら周囲に声をかけた。ゾロゾロと30人近い盗賊たちが出てきた。これは待ち構えられていた感じか。もしかして…
「お前たち、村のババアの依頼でここに来たんだろ。残念ながらこれは罠だ」
そういうパターンだったか。こういう可能性も考慮していた。それでも依頼を受けてここに来たのは、別に罠だとしても問題ないと思っていたからだ。
だってドドガを倒した俺たちにドドガの部下が敵う道理などないのだから。
「まさかあのお婆さんが…」
「いい人だと思ってたのに盗賊とグルだったなんて」
2人はどうやら本当に老婆のことを信じていたようだけど。これに盗賊の1人が答える。
「別にあのババアは根っからの悪人ってわけじゃねえからな。ただ俺たちに村の子供たちを人質にされているから協力してるってだけで」
「1人旅人を俺たちの元へ送れば、村人を1人下の町に解放してやるって言ってあるんだ。まあ村人なんてもう全員売っちまったんだけどな」
ゲスだな。老婆に嘘をついて操っていたとは。老婆も自分の孫たちを思っての行動だったわけか。
「あのお婆さんに送られた旅人に、お前らがやられるって可能性は考えなかったのか」
俺は盗賊たちを煽ってみる。
「無理に決まってんだろ。なんせこっちにはドドガ盗賊団幹部一の武闘派であるルギンさんがいるんだからな」
そう言いながら振り返る盗賊の視線の先に、身長3メートルのマッチョがいた。森の木を力づくでへし折りながら近づいてきており、たしかに相当なパワー系だと分かる。
こいつがルギンか。その体は全身が光沢のあるオレンジの金属になっていた。ドドガの魔法で体表をオリハルコンにしているのだろう。
スラムの人々が変えられたゴーレムはドドガの死と共に活動を停止したが、このオリハルコン化の魔法は死後でも効果が永続するのか。敵を殺しても解除できない魔法が存在するというのは、場合によってはかなり厄介そうだな。
「ガハハハッ。そういうことだ旅人よ。そちらのおなごは高く売れそうだな。先日取り逃がしたビーストライダーの代わりに、お前らをオークションの品として捕らえることにしよう」
他にも罠にかかったビーストライダーの旅人がいたのか。
「俺は”選ばれし者”だから、そう簡単には倒せないと思うぞ」
「選ばれし者?何を言ってるのか分からんが。戦う気があるならさっさとやろう」
選ばれし者について知らないようだし、こいつらから聞き出すべき情報も特になさそうだな。盗賊団の秘密兵器の1つだったであろうガーネットのことすら知らないようだし。
やはり”選ばれし者”などの情報を得るならオークションを取り仕切っているであろうもっと上位の幹部からか。
このまま戦ってもいいが、俺からしたら今さらドドガの幹部とか出されても勝負にならないだろう。
「リーメル。ガーネット。この幹部は2人で倒してみな。訓練だと思って」
アジトの外で人質もいないし、ガーネットが魔法を使っても問題ないだろう。
「うん」
「え!?まあ、やってみるよ」
2人の返事を確認したので、俺は他の下っ端の掃討をすることにする。
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