第46話 部下2人vs.全身オリハルコン人間

 「なんだ?全員でかかってこないのか。では俺が女2人の捕獲をするから、その男はお前たちで殺してしまえ」


 ルギンの号令を受けて盗賊の下っ端たちが俺に襲い掛かってくる。俺はそれを”ベクトル付与”で動きを補助した格闘術で応戦する。”土槍”や”風刃”を使えばすぐに終わるが、前回のドドガとの戦いで自分の近接戦闘の弱さを認識したのでその練習をしようと思ったのだ。


 「ほう、口だけではなかったか。では我らも始めるとしようか」


 ルギンが俺の戦闘力を見て高評価をする。そりゃああなたのボスを倒した男ですしね。


 「当たり前。フールはドドガを倒した人」


 「笑えぬ冗談だ」


 リーメルが真実を伝えたがルギンはそれを信じない。ドドガがやられたのはつい昨日のことだから、やはりスラムの外の部下たちにまだ情報が回っていないようだな。


 「来るよ」


 「うん」


 リーメルとガーネットが構える。

 ルギンはまずガーネットを目掛けて駆け出した。その3メートルの巨躯からは想像できない俊敏さで、ガーネットの回避が遅れる。


 「まずは弱そうな方から狙うべし!」


 ルギンの拳が振り上げられた。しかしその拳がガーネットに到達することはなかった。ルギンが地面に躓いたのだ。ルギンのオリハルコンの拳が地面を砕いた。


 「面白い術を使うな」


 立ち上がったルギンは足を持ち上げると、周囲の地面もくっついてきた。リーメルの”粘着性付与”か。


 「ありがとうリーメル」


 「もっと集中しなきゃダメ。ガーネットは空を飛びながら援護して」


 ガーネットは指示通りに空へ退避した。空を飛べるガーネットは地面を走るよりこちらの方が機動力があるので妥当な判断だ。


 地面ごと持ち上げられるパワーを持つルギンに対して、”粘着性付与”で拘束して戦闘不能に追いやる作戦は無理だろう。オリハルコンでできた体に対してどうやって有効打を入れるつもりなのだろうか。


 「でもあの体に私の炎が効くかな」


 「オリハルコンは武器に加工できると聞いたことがある。熱にさらされれば脆くなるはず。たぶん」


 ガーネットでオリハルコンの体を弱体化させて、リーメルが攻撃をするという作戦のようだ。ガーネットの炎はかなり高温なので不可能ではないかもしれない。


 「同じ手はもう食わないぞ。かかってこい!」


 ルギンが再び突っ込んでくる。ガーネットは高度を上げ、リーメルが応戦する。


 「ほう、空を飛べるのか。面白い」


 ルギンは依然としてガーネットから狙っているようで、周囲の木を引っこ抜いてガーネットに投げつけた。ガーネットはそれを燃やしてガードする。


 「すごい能力だ!お前は最高の商品になりえるぞ」


 ルギンは次の岩を拾ってガーネットに投げようとする。岩はさすがにガーネットでも燃やし切れないのではないか。


 しかし再びルギンの攻撃は失敗に終わる。手の平に岩がくっついて投げることができなかったのだ。


 「同じ手はもう食わないぞ…だったっけ?」


 「ガハハハッ。ここまで女に舐められたのは初めてだ。お前から潰してくれよう」


 ルギンのターゲットが背後にいるリーメルに移る。その隙をガーネットは見逃さなかった。


 一軒家程のサイズの火球がガーネットの手から放たれ、ルギンに直撃する。その直前にリーメルは巻き添えをくらわないように大きく後ろに跳んでいた。


 「なんだぁ。ドラァ!」


 しかしルギンが体をひねりながら腕を払うと、火球は簡単に弾かれてしまった。


 「オリハルコンの体は魔法を弾く。そんな攻撃痛くも痒くもないわ!」


 そのままルギンはリーメルに急接近して殴り飛ばした。掠っただけのようだが、あまりの勢いに後方の木まで吹き飛ばされて叩きつけられた。


 リーメルの作戦が失敗したか。ガーネットはルギンに弾かれないほどの規模の火炎を出すこともできるだろうが、それ程の規模だと近くにいるリーメルや俺や周囲の森にまでも被害が及ぶ。どうしたものか。もう手を貸した方がいいだろうか。


 「…どうしよう」


 「大丈夫ガーネット。今のをもう1回やれば勝てる」


 リーメルが指示を出した。あの火力ではどれだけ続けてもオリハルコンを弱体化することはできないと思うが、何か策があるのだろう。


 ルギンがリーメルへの追撃を始め、リーメルはそれを回避する。


 「ゼェゼェ…何をしても無駄だよ。ルギンさんにお前らはここで全員倒されるんだ。お前だってもうそろそろ限界だろう」


 「いや、こいつさっきからずっと余裕そうだぞ。そのうえ目線もしばらく向こうの戦場だし」


 俺と相対する盗賊たちはもう限界そうだな。


 俺は従来の”ベクトル付与”による格闘術に”魔力探知”を合わせることで、体がフルオートで敵を迎撃する技を編み出していた。ノックアウトされた盗賊はすでに20人を越える。増援も来ているようだが、問題はないだろう。


 さてリーメル達の方は。


 ルギンとリーメルはさらに戦闘の速度を上げていた。もっともリーメルは回避に専念しているようだが。攻撃してもどうせ効果は薄いし、隙を晒すだけだからだろう。


 ガーネットはその速度についていけず、先ほどと同じ火球を胸の前で構えたまま動けずにいた。困り果てて俺に助けを求めてくる。


 「どうしようフール。リーメルに当たっちゃうよ」


 「リーメルを信じてあげなよ。作戦変更してないってことはガーネットが撃つのを待ってるんだよ」


 リーメルはルギンの攻撃を処理しながらも、ガーネットの様子を伺っている。ガーネットが次の火球を撃つのを待っているのだろう。


 「やるしかないのか…よし。リーメル!行くよ!」


 ガーネットは叫びながら火球を射出した。攻撃のタイミングを敵にも知らせることになるので叫ぶのは悪手だと思ったが、ルギンは先ほど同じ攻撃を弾いた実績があることから避けるつもりはないようだ。リーメルにパンチを叩きこむ。


 避けられたパンチが地面を砕く。そして次の瞬間、なんとリーメルがそのルギンの腕の上を走ってルギンの頭を飛び越えた。その先にはガーネットの火球がある。何をするつもりだ。


 リーメルはその火球に向けて剣を振るい、そのまま着地した。火球は切れたり軌道を変えたりしていないようだが、失敗だろうか。


 「何をしているんだ。我にその火球は効かないというのに」


 再び火球が直撃し、ルギンは腕を振るって弾こうとする。しかし今度の火球はなぜか弾かれなかった。


 「なんだこれは。体に纏わりついて…」


 「ガーネットの炎に”粘着性付与”をした。合体技」


 「合体技!」


 ”粘着性付与”にそんな使い道があったとは知らなかったな。ガーネットも合体技というワードに目を輝かせている。


 「こんな…ゲホゲホっ」


 「熱のせいで呼吸が苦しいでしょ。楽にしてあげる」


 炎はルギンの顔の周りにも纏わりついているため、呼吸をするたびに高温の空気が体内に入ってくるのだろう。なんて残酷な攻撃だ。リーメルは介錯してやるつもりのようだな。


 「このような攻撃があるとは。見事…」


 ルギンはリーメルの慈悲を受け入れて、自らの首を差し出した。


 これにて盗賊の掃討が完了した。

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