第47話 思わぬ再会
「しまった。情報を聞き出すべきだった?」
ルギンの首をはねてからリーメルが聞いてきた。
「ガーネットのことを知らなかったようだし、そんな重要な情報を持ってなさそうだったから別にいいと思う。どうせオークションには行くし、そこでもっと上位の幹部から聞き出そう」
「でもそのオークションの会場が分からないんじゃなかったっけ」
ガーネットに突っ込まれた。たしかにオークションがウエストタウンという町でやることまでは分かっているが、詳しい建物の場所などの情報は持っていなかったな。俺が相手していた下っ端もすでに全員倒して埋めてしまった後だ。
「これはミスったかな。まあウエストタウンに着けばなんとかなるでしょ」
楽観的にいくことにした。やってしまったものは仕方ない。
それにしても数十人いた盗賊の下っ端たちを俺が自分の手で屠ったのか。人狩りグルフやドドガのときはそれなりに必死だったから気にしていなかったが、やはり俺は人を殺めることに抵抗がなくなりかけているのだろうか。自分が自分でなくなる感覚がして少し怖い。
そんなことを自分の拳と盗賊が埋まっている地面を見比べながら考えていると、ガーネットが話しかけてきた。
「それでこれからどうするの?おばあさんのとこに戻るの?」
俺たちをこの地へ誘導した常雨の村のお婆さんは盗賊のグルだったらしかったが、それも人質になった村人を思ってのことだ。俺たち3人に被害が出ていないし、仕返しのようなことをする必要はないだろう。
「とりあえずアジトに行って本当に誘拐された村人がいないのかを確かめよう」
俺たちは再び”空壁”の傘の下を歩いて盗賊のアジトを目指した。
このアジトはスラム街のドドガの本拠地ほどの広さはもちろんなく、白竜の民の集落くらいのサイズだった。学校のグラウンドくらいか。だがこの狭い範囲の中に人の気配は感じない。
「人の気配がない」
「静かだね」
「やっぱりあいつらが言ってたように、誘拐された村の人たちはもうオークションに連れていかれたのか」
そのとき、アジトの奥の建物の裏に生命の気配を感じた。俺より一瞬早くリーメルも気づいていたようだ。
「フール」
「うん。魔獣かな」
「なんかいたの?」
俺たちは警戒しながら建物を回り込み、その気配の元へ向かった。その先には全身が傷だらけの1匹の灰色の狼が檻に入れられていた。鎖がつながった首輪もされて逃げることができないようだ。盗賊と戦って負けたのだろうか。致命傷ではないようだな。
人を乗せても安定して走れそうなほど大きいが、こちらに敵意は向けてこない。怪我のせいだろうか。
「これは…盗賊に捕まった魔獣か」
「大きな狼だね」
「危ないから触ろうとしちゃダメだぞ」
「分かってるよ」
ガーネットが目を輝かせてる気がしたのでくぎを刺しておく。
「ねえ、フール」
リーメルが檻の前で何かを発見したようだ。檻になにやらメモが張り付けられている。
<おそらくフェンリルの幼体
先日取り逃がしたビーストライダーの使役獣と思われる
傷だらけで山道に倒れていたところを捕獲。オークションに出品予定
暴れる恐れがあるので移送完了まで完全回復不要>
盗賊が書いたのであろう汚い字で書かれていた。
「フェンリル…ほんとにいたんだ。伝説上の生き物かと思ってた」
リーメルが感慨深そうに呟いた。ガーネットは檻に近づいて「すごい生き物なんだねぇ」と言いながらフェンリルの顔を覗き込んでいる。
俺もフェンリルというのは元の世界でも聞いたことがある。神話に登場する狼の姿をした巨大な怪物だ。この檻の中のは幼体らしいので、成長したら人を丸のみできるほどのサイズになるのかもしれない。
「それを使役できるビーストライダーがいるってのも驚きだな。そういえばスラムのアジトにナッカと突撃したときに、ドドガたちが”黒髪のビーストライダー”がどうとかって言ってた…」
俺はそこまで口にして一瞬思考が止まり、自分の鼓動が早くなるのを感じる。この目の前の魔獣に見覚えがある気がしてきたのだ。
俺はゆっくりと檻に近づきながら、その狼に問いかける。
「ガウ…なのか?」
フェンリルは尻尾を振りながら小さな声で「ガウ」と答えた。
俺はすぐに”形状付与”で檻と鎖を破壊した。
「なにやってるの!?」
「どうしたのフール?もっと慎重に近づかなきゃ。このフェンリルのこと知ってるの」
「知ってる。こいつのことも、こいつの主のことも」
2か月前に帝国で見たときより成長していて気がつかなかった。だが今思い出した。
「こいつはガウ。帝国で葵が…俺の友達が初めて使役した魔獣なんだ。なんでこんなところに…」
俺はガウに”自己治癒力強化”で傷の応急処置を施しながら、情報を整理する。
つまり盗賊のアジトに侵入した黒髪のビーストライダーってのは葵のことだったわけか。
しかしなぜ葵がこの大陸にいるんだ。たしかこの中央王国は帝国とは別の大陸にあるはずだ。一体何が起きているのだろうか。
ここで俺はガウが小さな筒を首から下げているのに気づいた。どうやらその筒は蓋が開けられるようで、その中には見知った字で書かれた手紙が入っていた。
_____
凛ちゃんへ
私はたぶん追手と千里眼から逃れられました
そちらは無事でしょうか
無事であると信じています
凛ちゃんとはぐれて先にスラムに着いてから1週間ほど調査しましたが、柔理くんは見当たりませんでした
ここで出会った凄腕の占い師に北の闇オークションへ行けば想い人と再会できるとアドバイスを貰ったので行ってみようと思います
私はここにアジトを構える盗賊団に目を付けられてしまったので先に出発します
ひとまず北にあるピークタウンという町で合流しましょう
_____
「なんだこれは…」
背中に鳥肌が立つ。
これは葵から楠木さんに向けられた手紙だ。内容から察するに、葵と楠木さんがこの大陸へ俺を探しに来てくれていたのか。それでガウがこんな傷だらけになるほどの状況に陥ったと。
「すごい汗。少し休んだ方がいい。これは…ジュウリって」
リーメルも俺の持つ手紙に目を通した。今ではフールを名乗っている俺の本名が書かれていることに引っかかったようだ。
ガーネットも異常事態なのかと檻の中まで駆け寄ってくる。
俺はいまだに整理がつかない頭でなんとかリーメルとガーネットに説明する。
「この手紙の二人は俺の友達なんだ。俺を探しにきてくれてるみたい」
「フールの友達…」
「これからどうするの。予定変更するの?」
葵や楠木さんはどうなっているのだろう。ここに手紙があるということは楠木さんはこの手紙を読めていないのだろうか。
俺を探しに来たせいで2人が命の危険に晒されたわけか。今は大丈夫なのだろうか。まだ何も分からない。
しかし俺には彼女たちを探す義務があるのは確かだ。
「いや、やることは変わらない。オークションへ行こう」
葵たちもオークションへ向かっているらしい。俺はオークションへ行く意欲がさらに高まった。
だがまずその前に常雨の村のあの老婆と話をしにいこう。葵たちの情報を持ってるかもしれない。全くここの盗賊を全滅させたのは悪手だったな。
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