第81話 作戦開始
あのよく目立つ金色のコートはどこからどう見ても聖教の神聖騎士団だろう。だがなぜ空島に奴らがいるんだ。
いや、分かり切ったことか。指導者パレッドが聖教の人間で、聖教がこの空島を支配しているのだ。冒険者の町ピークタウンで襲われたときからあまりいい印象を持っていなかったが、それは俺が奴隷施設で反乱を起こした犯罪者だから仕方ないことだと思っていた。
だが空島を支配して傭兵稼業を強制することに正義はあるのだろうか。
パレッドとやらと会って問いたださないとな。
「あれは地上の宗教の者たちだったのですか。大きな組織に私たち竜人は目を付けられていたようですね」
ターニャさんは浮遊石の調査をする神聖騎士団を見ながら悔しそうに呟いた。
「聖教…許せないのです」
「なんだろうと俺たち竜人を傷つけた報いは受けてもらいます」
メアとアルトは聖教相手にやる気満々のようだ。
「でもここを支配してるのが聖教ってなら、島を覆うバリアにも説明がつくわね。私やフールの権能より規模が大きすぎると思ったけど、たぶん聖教の結界魔法も合わせて使ってるのよ」
「なるほどな。複数人で維持管理されたバリアなわけか」
あのバリアを見てパレッドを桁違いの化け物だと思っていたが、ナッカの推理が正しいならまだ戦いようがあるように思える。
「それでどうするんだ。あいつらを倒してパレッドのとこまで案内させるか」
「ロズリッダ。ちょっと静かに」
血の気の多いロズリッダをリーメルがたしなめる。リーメルの猫耳がピクピクと動いている。どうやら神聖騎士団5人の会話を盗み聞いているようだ。
リーメルは聞こえた内容を復唱して俺たちに伝えてくれる。
「なんで浮遊石が2つも帰ってきたんだ。一つはさっきの客人のだが、後から来たのは知らないぞ。誤作動じゃないか。戦場に変化もないようだし、気にすることないだろう。だが万が一があったらパレッド様に怒られるぞ。この辺りを調査するか。本島で数百人規模の反乱が起きてるらしいが、面倒だから行きたくねえし。ここで時間を潰していこう」
そう言って神聖騎士団はこの周囲を探し出した。
「そんな…たった数百人で反乱なんて」
「ターニャ様がいないから全員が一丸になっていないのです」
本来は姫であるターニャさんをリーダーに据えて全員でパレッドに挑むつもりだったが、ターニャさんがなかなか帰ってこないことに痺れを切らした人たちが先走ったのだろう。
20年支配に耐え続けた竜人族だが、心の支えである王族を失ったことで耐えきれなくなったものが出るのも納得できる。姫が死んだと判断して、後を追うつもりで特攻をしかけているのかもしれないな。
「おいどうすんだ。こっちに来ちまうぞ」
ロズリッダの声で我に返る。神聖騎士団が俺たちが隠れる木の方に向かってきている。まずは目の前の問題を解決しないとな。
「もう本島で騒ぎが起きてるなら、ここで暴れても問題ないな。倒しちゃおう」
俺がそういうや否やロズリッダが駆け出して5人の敵を一瞬で倒してきてしまった。下っ端では相手にすらならなかったようだ。
俺たちはひとまずここで会議をすることになった。
「反乱のことも心配ですが、フールさんの知り合いの方のことも考えないといけませんね」
「客人っていうのがたぶんイチノセのことだよね。聖教と敵対してないんだ」
「魔眼の力で操ってるんだろうな。早く追いたいけどどこに行ったのか」
俺の疑問にターニャさんが地面に地図を描きながら説明してくれる。
「イチノセという人は帝国へ向かっているのですよね。この離れ小島から本島を挟んで反対側の離れ小島に、帝国行きの浮遊石の乗り場があります。おそらく操った人間に案内させてそこへ向かったのでしょう」
「反乱が起きてる本島を通って?危なすぎない?」
「リーメルさんの言う通り本島を経由するのは避けたいはずなので、イチノセはおそらく本島を経由しない、周囲の島を川で経由するルートを通ったと考えられます。もちろん本島を通った方が近道なので、危険を承知でそちらを通った可能性もありますが」
一ノ瀬がどの道を通ったか絞れないのか。それに本島での反乱を片付ける必要もある。頭がパンクしそうだ。
「じゃあ俺たちはまずどうすればいいんですかね」
「全員で一緒に動くのは時間がもったいないので、ここからは3手に分かれましょう。直接パレッドのいる本島に向かい反乱を率いるチーム、本島を通らずにいくつかの川を経由して反対の離れ島へ向かうチーム、反乱に参加していない竜人族の元に向かうチーム」
こうして俺たちは3チームに分かれることになった。
俺、リーメル、メアが本島に直接向かうAチーム。反乱に参加するのが主目的で、イチノセがいたらそこで倒して葵を保護も視野だ。
ロズリッダ、ガーネット、ガウが本島に寄らずに川を伝って反対の離れ島に向かうBチーム。イチノセはこちらの道を通った可能性が高い。この2人なら一ノ瀬相手でも遅れは取らないだろう。
ターニャさん、アルト、ナッカが反乱に参加していない竜人族の保護と説得に向かうCチーム。竜人族を率いて遅れて本島の反乱に向かってきてもらう。
「じゃあ全員武運を!」
こうして俺たちは行動を開始した。
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