第80話 侵入成功

 「ここなのです」


 「これが浮遊石か」


 メアに案内された荒れた大地の岩肌の上に、加工された分厚い石の円盤が置かれていた。数十人は乗れそうなサイズだ。


 周囲には同じ円盤がいくつも落ちている。これで竜人族は一斉に地上に降り立ったわけだな。強力な傭兵をこれで一度に大量に送るなんてことをされたら、戦争相手からしたら堪らないだろう。


 俺たちはこれに乗って早速空島へと向かう。


 「これに乗っていって敵にはバレないの?」


 「奴の権能にそのような効果はありません。それで監視は傭兵に紛れ込ませた部下に行わせてるわけなので」


 ガーネットの質問にターニャさんが答えた。これで奇襲をかけれるといいのだが。


 「じゃあ行きますよ。振り落とされないように注意してください」


 アルトが号令をかけると浮遊石がフワッと浮かび、真上に上昇しだした。


 「地上を歩けるようになったばかりなのに、次はもう空の旅か。楽しみだぜ」


 「うわ、私高いところ苦手なのよね」


 「私は飛べるから別に怖くないよ」


 「私ってどれくらいの高さまでなら着地できるんだろう」


 やる気十分のロズリッダに、高所に怯えているナッカに、それに対してどや顔のガーネットに、変な気をおこしそうなリーメル。いろんな反応を示しながら一行は空島へと向かう。


 「この石は2人じゃないと起動できないの?」


 俺はこの円盤の準備をしてくれたメアとアルトに質問した。


 「いつもは10人程度でやっていますが、それなりの魔力があれば一人でもできますよ」


 「この浮遊石の魔力はほとんどメアが込めたのです。アルトは魔力が少ない」


 アルトは一瞬眉をひそめたが、特に反論をすることもなかった。メアがほぼ一人で準備したというのは本当なのだろう。やはりメアは竜人の中でもかなり強いの部類に入りそうだな。


 「なんでそれが気になったんですか」


 アルトの質問に俺は答える。

 

 「実は俺の友人が誘拐されて、すでに空島を経由して帝国に行ったかもしれないんだ。俺はパレッドの他にそいつも目的なんだけど」


 俺は自分の空島での目的を話した。


 「そういえばサフランさんが言っていましたね。フールさんがお知り合いを追っていると。革命軍が力を貸す代わりに、フールさんのその手伝いをしてくれと私もお願いされました」


 「そうだったんですか」


 どうやらサフランはすでにターニャさんにこのことを共有していてくれたようだ。


 オークション船から逃げ出した後、メアとと共に紛争地帯へ戻ってきたターニャさんは、メアに浮遊石の準備の命令を出す傍らで竜人族と戦闘を繰り広げている革命軍に接触を図り、そこで今回の依頼をサフランにしたようだ。


 メアはその任務の途中で俺と戦いだして怒られていたわけだな。


 「そういえば1時間ほど前に円盤が一つ空島に戻っていくのを複数人で確認しました。円盤の誤作動化と思っていたのですが、もしかしたらあれがそのイチノセという人だったのかもしれませんね」


 アルトの話によると、一ノ瀬と葵はどうやら予想通りすでに空島へ向かっていたようだ。追い付けるといいのだが。


 「しかし浮遊石には竜人族にしか使えないようにセーフティがかかっているはずなのですが…」


 「あいつは魔眼の力で人を操ることができるんだ。たぶん戦場にいた竜人を操って浮遊石を使わせたんだろう。ここにいる皆には魔眼対策の付与をしておくけど、念のために警戒もしといてくれ」


 「魔眼…メアと同じなのです」


 「そういえばメアは両目の色が違う。どっちかが魔眼なの?」


 リーメルがメアの顔を覗き込みながら質問した。


 「昔は両方青色だったけど、最近急に右目だけ赤くなったのです」


 「へー、後天的に勝手に魔眼になることもあるのね」


 反対側からナッカが覗き込んで、メアの顔を手で挟んで目を観察している。


 「うう…二人とも顔が近いのです」


 「ふふ、メアに私以外のお友達ができて嬉しいです。あ、もうすぐ着きますよ」


 微笑んでいたターニャさんの顔が真剣なものになる。雲を貫いて上に出ると、遠くに巨大な島が浮いていた。巨大な森やが怪我いくつもあり、横だけでなく縦にもそれなりに立体的な島だ。


 その周囲にも小さな島がいくつもあり、その間を川が龍のようにつなげている。非常に幻想的な光景だ。


 その川には巨大な魚が泳いでいるようで、どこからか迷い込んだ怪鳥がそれを狙って飛来した。だが魚を獲ることは叶わず、怪鳥は空中で突然潰れて下に落ちて行ってしまった。


 「あれがバリアか。たしかにひとたまりもなさそうだな」


 ロズリッダがいち早くあの現象の正体に気づいた。アザレアが言っていたバリアとはあれのことか。たしかに下手に自力で飛んできていたら死ぬところだった。


 だが今回は正規の手順で来ているため、俺たちは潰れることなく無事に小島に着陸することができた。ここから本島にいるパレッドの討伐を目指す。


 俺たちが着地した地点の近くには、俺たちが乗ってきたのと同じような石の円盤が落ちていた。これに一ノ瀬と葵が乗ってきたということでいいのだろうか。


 「ねえフール。ガウがこの石から主人の匂いがするって」


 ガーネットが教えてくれた。やはり合っていたようだ。


 「え、てかガーネットはガウの言葉が分かるの」


 「うんまあ、なんとなくだけど」


 ガウと仲がいいとは思っていたけど、まさか会話まで出来るとは。


 「じゃあガウに葵を追跡してもらうこともできそうだ…」


 「皆さん隠れて!」


 俺がアイデアを話している途中ではターニャさんにコートの裾を引っ張られて中断されてしまった。俺たちはターニャさんに導かれて木の陰に身を潜めた。


 「どうしたんだ。敵か?」


 声のデカいロズリッダに対して人差し指でシーっとやりながら、ターニャさんは頷いた。


 「あれは竜人族ではない、パレッドの直属の部下たちです。時間外に帰還した円盤の調査に来たのでしょう」


 ターニャさんが指した方向からは複数人の人族がやってきた。そいつらの服装には見覚えがある。


 オークション会場へ向かう道中に寄った冒険者の町ピークタウン。そこで賞金首である俺を狙った集団だ。


 「あ、あの金色のコートは…」


 リーメルも気づいたようだ。


 「ああ。聖教の神聖騎士団だ」

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