第82話 思わぬ襲撃者
この空に浮かぶ島々の間の移動は川を船で渡るか、浮遊石を使うかだ。ここには浮遊石はないし、船だとスピードがでないので、俺たちAチームは”空壁”を発動してリーメルとメアを乗せて本島を目指す。川沿いならバリアがないらしいが、あまり離れるとバリアに当たるらしいので水面ギリギリを飛行する。
オークションへ向かうときもこの移動方法を使っていればよかったな。オークションで奴隷をまとめて救助する時に思いついた技で、これなら複数人を一つの”ベクトル付与”で一度に運ぶことができる。
一ノ瀬を追うBチームはロズリッダが人魚の姿に戻ってガーネットとガウが乗った小舟を泳いで押していき、反乱に参加していない竜人の保護と説得に向かうCチームはナッカがパドル付きの船を土から錬成して渡っていった。
「このフールの魔法ならすぐに本島に行けるのです」
「そうだな。急がないと…」
そのときだった。俺たちの進行方向から何かが急接近してきた。直前になってそれが人だということをようやく認識できた。しかも複数だ。
俺はとっさにそれを受け止める。
「っ!?これは…」
竜人族の亡骸だった。
「リューリ…そんな…」
メアの知り合いだったようだ。反乱を早まったせいで戦死してしまったのか。俺から亡骸を奪いながらメアは悔しそうに歯を食いしばっている。
「フール。力を貸してほしいのです」
「…もちろんだ」
メアはやる気をさらに増したようで、俺もその想いに答えたいと思う。メアにはオークションで助けてもらった借りがあるしな。メアは手に持った遺体をそっと手放して落とすと、口から火を噴いて荼毘に付した。
そのときリーメルが不穏なことを言った。
「ねえフール。今の遺体の飛んでき方、まるで横から落ちてきてるみたいだった」
たしかに一定の速さで真横に飛んでいた。横向きに落ちていると表現できなくもない。
「重力の権能…パレッドが反乱に参戦してるってことか」
リーメルが言おうとしていることが理解できた。
そのとき、また進行方向から人影が近づいてきた。また竜人の遺体かと思ったが今度は違った。直前まで近づいて、ようやくそれが生きた人族であると気づいた。
そいつは飛来した勢いのまま俺に蹴りを入れた。ただでさえ飛行中で不安定だった俺たちは、そのままバランスを崩して川に落ちてしまった。
俺ちメアは慌てて水面から顔を出す。
川の上から茶髪の壮年の男が俺を見下ろしてきていた。空を飛んでいるのか。2か月前に俺を地下ダンジョンに落とした赤髪の青年が脳裏をよぎるが、あいつとは似ても似つかないな。
「あれは…パレッド!」
「あいつが!?」
メアが目を見開いて驚いた様子で呟いた。どうやらこいつがこの島の支配者パレッドだったらしい。しかしなんでこんなところにわざわざ飛んできたんだ。
パレッドが俺に話しかけてくる。
「お前がイチノセが言っていたフルヤだな。よくこんな空の上まで来たな」
「一ノ瀬を知ってるのか!?」
一ノ瀬はパレッドにバレないように隠れながら空島を通過して帝国に逃げると思っていた。だからパレッドが一ノ瀬を知っているはずはないのだが。
「さっき会ったんだよ。女帝の手紙を持参しててな。まさか会って早々こんなこき使わされるとは思っていなかったが」
パレッドは軽い口調で頭をかきながらヘラヘラと喋っている。まだ状況が良く読めない。
「女帝の手紙?」
何か女帝が用意していたのか。よく考えたらあれほど大切にしていた一ノ瀬をこんな危ない地に無策で来させるわけがなかった。
「ああ。イチノセを無事に帝国まで通すことと、無理のない範囲でイチノセの望みを聞くことを要求してきやがったんだ。俺は女帝には恩があるからな、この手紙通り直々にイチノセの願いをかなえに来たわけだ」
追跡者のフルヤを殺してくれってな。
そう言い切る前にパレッドは俺に突進してきた。俺はなんとかその蹴りをガードする。今度は水をしっかり固めて踏ん張って止めた。
このタイミングを見計らっていたリーメルが急速に水面から姿を現すと、2本のナイフをパレッドに向けて背後から投擲した。
「いい部下を持ってるな。だがまだ甘い」
ナイフはパレッドに当たる直前にその勢いを失った。そして次の瞬間に切っ先が反転し、今度はリーメルに向かって飛んでいった。リーメルの1本は弾いたようだが、もう1本が肩に刺さったようだ。
「くあっ!」
「リーメル!メア、リーメルの援護に行ってくれ」
いまだに動揺しているメアにリーメルの様子を見てくるように指示を出す。そのときパレッドに注意がメアに向かった。
「お、お前が魔眼の竜人か。お前のおかげでフルヤの居場所が分かったんだ。感謝してるぜ」
「え?」
パレッドがニヤニヤしながらメアに話し出した。
「最近お前魔力探知の魔眼に目覚めただろ。実はあれは俺の部下が仕込んだものでな。お前の視界を俺が共有できるんだよ」
「この目が…?」
最近発現したというメアの赤い右目はパレッドたちの仕業だったのか。そういえばターニャさんはパレッドの部下が竜人族に紛れていて、竜人族を監視していると言っていた。だが実際は数人の竜人族が自分でも気づかないうちに監視役にされていたようだ。
「最初は地上で何か企んでないか調査するためのただの保険のつもりで、定期的に魔眼を配ってたんだが、その中でもお前は大当たりだった。お前のおかげで王家の血が残っていることも知れたからな。だから感謝してるんだ」
「じゃあターニャ様が処刑されかけたのも…」
「お前のせいだ。まだ生きてることもさっき共有して分かったから、今部下に始末に向かわせてる。今起きてる反乱もお前のせいで計画がバレて、俺たちから掃討に…」
俺は”形状付与”で水を無数の槍にしてパレッドを襲わせた。パレッドは慌てて後ろに飛んで避けた。
「あんま調子に乗るなよ」
俺はさらにパレッドに向かって跳躍して蹴りを叩きこんだ。見えない力によってガードされてしまったが。
「おー怖いな。ちょっとうまくことが進んで浮かれただけじゃんかよ。そんな怒るなって」
「メア!リーメルと一緒に姫様のとこに行ってくれ」
「でもフールが…」
「いいから早く!」
「わ、分かったのです」
メアは肩を抑えたリーメルの元に泳いでいくと、そのまま来た道を一緒に流れて戻っていった。風の魔法を使っているのか移動はかなり早い。
メアはこいつから離れた方がいいだろう。
「女子二人を逃がすとは、思ったよりいい男じゃねえかぁ。そういう男は嫌いじゃねえぞ!」
「じゃあ手加減してくれると嬉しいな」
こうしていきなり俺とパレッドとの1対1の戦いが始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます