第32話 vs.アダマンタイトゴーレム
アダマンタイトゴーレムと合体したドドガ＿ドドガゴーレムの踏みつけを回避しながら俺は思考を巡らせる。
また人質を使われるかもしれないと警戒はしていた。さっきは人質を俺の元へ手繰り寄せる判断をしてしまったが、次は人質に”魔装付与”や”硬性付与”をかけたり、”空壁”で守ったりすればいいと思っていた。
だが人質と合体されてしまうのは想定外だ。
”脆性付与”で脆くすればアダマンタイト製といえど破壊することはできるかもしれない。しかしその素材に無実の人間が使われているというのが問題だ。先ほどドドガは通常のゴーレムを人に戻していたが、破壊したら元に戻せなくなる可能性がある。
いや、可能性ではないな。ここまで自信ありげに攻勢に出ているということは、このゴーレムには人質としての価値があるのは確定的か。つまり大きく破壊したらいくらドドガでも元に戻せないのだ。
「街から離れたここなら思いっきりやれるぜ」
そう言ったドドガゴーレムが地面に手を着くと、周囲の土が10本の巨大触手のように変化し俺を叩き潰そうとしてくる。しかし人で作ったというアダマンタイトゴーレムはまだしも、ただの土から作られた触手なら俺は壊すことにためらいはない。
俺は強化した蹴りで応戦することにした。接地と同時に足から”脆性付与”をすれば簡単に壊せるだろう。
しかし土の触手が俺と衝突する瞬間に鮮やかなオレンジ色に変化し、俺の魔法が弾かれてしまった。そのせいで触手を壊し切ることができずに、俺はそのまま叩き落とされてしまった。
「くっ！ただの土じゃないのか」
「そうさ。俺の力でこの土の触手をオリハルコンに変化させた。この技まで使わせたのはこの国の宮廷魔術師に続き、お前で2人目だ」
「光栄なことなのかな。あんまし喜べる状況じゃないけど」
オリハルコンというと希少金属の代名詞じゃないのか。そんなものを土から作れるほどの錬金術師だとはな。
地面が水のように波打ちだし、触手と連携して俺を絡めとろうとしてきた。俺は走ってそれを回避しながらドドガゴーレムの足元までやってきた。
そして俺はドドガゴーレムを拘束しようと、地面に”軟性付与”をかけて地面に沈めることを試みた。触手の攻略は後回しにして、本体の攻略に取り掛かったわけだ。
しかしドドガは錬金魔法で地中から土柱を伸ばしてすぐに地上に戻ってきてしまった。さらにはその飛び出る勢いを活かして俺に蹴りを入れてきた。デカいくせに随分と動きが速くて厄介なゴーレムだ。
「ぐはぁっ！」
俺は飛ばされて断崖にめり込んだ。
「どうだ、俺の最高傑作の威力は。俺と合体することで通常のゴーレムとは一線を画した動きをすることができる」
俺は断崖から脱出する暇もなく、ドドガゴーレムに捕まってしまった。この握力はドドガの武人族の腕のとは比べ物にならないだろう。急いでまた”滑性付与”で脱出をしなければ。
しかし予想に反してドドガゴーレムは俺を握りつぶそうとはせずに、錬金魔法による攻撃をしてきた。俺の体に燃えるような痛みが走る。
「お前もこのままこのゴーレムの一部にしてやろう。お前ほどの魔法使いを吸収すれば、さらに強力なゴーレムになるだろう」
「これはまずいな…」
時間切れなのか、俺の吸収に集中するためか、オリハルコンの触手は全て砕け落ちた。
どうにか脱出したいが、すでに体の一部がドドガゴーレムの手と一体化し始めてしまっている。もはや物理でどうにかなる状況ではない。俺も付与魔法で対抗しなければ。
何かこう言う状況で使える技はなかったっけか。”形状付与”で侵食を抑えつつ、”座標付与”の準備をして脱出するか。
「たあああああ！」
突如として俺の目の前でガキーンと金属音がなる。
ナッカが跳んできて、ドドガゴーレムの腕を斬りつけたのだ。弾かれてしまったようだが。
「ナッカ。こいつの腕はスラムの人でできてるから、壊しちゃダメだぞ」
「他人の心配してる場合じゃないでしょ。フールが死んだらどうするの」
たしかに。しかし判断が遅かったな。もう一体化が進んで”脆性付与”をしたら俺も壊れちゃいそうだし、”風刃”や”空壁”ではドドガゴーレムにダメージを与えられないようだし。
やはり”形状付与”で進行を遅らせつつ、”座標付与”の準備をするしかないだろう。
「剣が効かないなら私の魔法で」
ナッカが魔法での変形を試みるが、ドドガゴーレムはそれを弾いてしまう。ドドガゴーレムが勝ち誇ったように笑う。
「無駄だ。俺の魔法はお前らのもののは格が違う特別製なんだ。生半可な力でどうにかなりゃしねえよ」
ドドガゴーレムが腕を振るい、振り落とされたナッカは地面に着地した。
ナッカは地面から巨大な土の刃をいくつも出してドドガゴーレムを攻撃するが、当たった傍から柔らかく溶けてしまっている。錬金魔法による防御だろう。
「無駄だって言ってんだろ。俺はこの力で犯罪者の国を作る。お前らみたいなザコに躓いてる暇はねえんだ」
ドドガゴーレムがナッカを踏みつぶそうと何度も足を激しく上下させる。ナッカはそれを回避しながら、錬成した土の刃で俺を拘束する腕を破壊しようと試みている。
「私だってフールと共に平和な世界を作る夢がある。こんなところで負けらんないのよ！」
ナッカの土の刃がさらに増える。ドドガゴーレムはナッカの最大出力を見誤っていたのか、錬金魔法によるガードが間に合っていない。
「くっ！小癪な！」
ドドガゴーレムはガードしきれずに体勢を軽く崩した。ドドガの意識が若干俺から逸れ、吸収スピードが落ちる。
凄い威力の魔法だった。彼女は俺の”魔力付与”を使えるらしいので、魔力を回復させながら戦うことができるのだろう。
しかし”状態異常耐性付与”がないため、俺のように全力の回復はできない。回復速度を上げすぎると体が耐えられなくなって、魔素中毒の症状が出てしまうのだ。
現にナッカは先ほどから体調が悪そうにしている。もう一度俺の射程内に入ってくれれば”状態異常耐性付与”をかけてあげることもできるのだが。あとは前にリーメルにやったみたいに体内の魔素を…
そうか！
「フールの前にお前から殺してやるよ！」
ナッカの周囲の地面が壁のようにそり上がり逃げ道を塞ぎ、ドドガゴーレムがナッカを上から押しつぶそうとしている。
俺は今思いついた方法で俺の体に侵食するゴーレムを”分離”し、”滑性付与”と”ベクトル付与”で脱出する。
「は？」
ドドガゴーレムが間抜けな声を上げる。
そして俺は”弾性空壁”を活かした跳躍をし、ドドガゴーレムに蹴りを入れて吹き飛ばした。
ドドガゴーレムは完全に体勢を崩して断崖にのめり込んでいった。
「フール！脱出できたのね」
「まあね。ナッカがヒントをくれたおかげで」
俺はナッカの症状を見て、採掘場にて魔素中毒のリーメルの体内から魔素を取り出したことを思い出した。リーメルの体内の魔素を体外へ付与するイメージで”分離”していたのだ。
その応用で俺は今、自分と一体化していたアダマンタイトゴーレムを”分離”することに成功した。
正確にはアダマンタイトゴーレムに込められたドドガの魔力を”分離”して魔法抵抗力をなくし、形状付与で俺の体から剝がしたのだ。
「ナッカはもう休んでいていいよ。あとは俺がやる」
俺は空を飛んで、起き上がったドドガゴーレムと対面した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます