第31話 白竜の民の援軍
「なんでハブラタがここに?戦いを手伝いに来たって…」
「お前たちのアジトを護衛するって約束だったろ。それでアジトへ行ったら、女の戦士に森の外の任務を助けてくれってお願いされてな」
そういえば村を救った礼にアジトを護衛してくるという話だったな。それでアジトの人間がここへ向かうようにお願いしてくれたと。
「それでなんでリーメル…この子と戦ってんの」
「この姉ちゃんが話を聞いてくれなくてよ」
「…!?」
皆の視線がリーメルに集まり、リーメルは気まずそうに視線を逸らした。まあ急に見知らぬ半裸男の集団が現れたら剣を向けるのも仕方ないか。
幸いリーメルが倒してしまった戦士たちの中に死者はいないようだし、サフランに回復してもらって許してもらおう。被害者の中にはハブラタの息子もいたようだが、当の父親は戦士なのに負けた本人が悪いので気にしなくていいというスタンスだった。
「それは申し訳なかった。白竜の民のことを部下にまだ連絡していなかったもので。それでハブラタたちにはこの森で逃走している盗賊たちの包囲をしてもらいたいんだけど。俺たちだけじゃ数が足りなくて」
「安心しろ。もう戦士たちの大半はすでにその任務に向かっている」
ハブラタがニっと笑って答えた。アジトで対応した騎士団員と同じ服をした者たちが森で戦闘を繰り広げていたので、それを援護する判断をしたようだ。制服にしておいて正解だった。
ハブラタが連れてきた200人の戦士たちは盗賊の逃走経路の南から順に包囲網を形成しており、北はまだ包囲しきれていないらしい。4本腕のハゲ、細身剣士、斧使い大男の強者ともまだ遭遇していないようだ。
つまり幹部格以上はまとまって北の方に逃げていると推測できる。
「じゃあ俺たちは北へ向かおう。ナッカもむかってるらしいし。サフランはリーメルが倒しちゃった可哀想な戦士たちを回復させてから追ってきて」
リーメルがまた気まずそうに冷や汗を流しながら顔をそむける。
「あんま仲間をいじめてやんなよ」
ハブラタに注意されてしまった。
俺とリーメルとハブラタ、そして十数人の白竜の民戦士団は森の北へと向かう。リーメルに白竜の民との経緯を説明しながらだ。
「じゃあそのガーネットってのはフールが名前をつけたんだ。ふーん」
「なにその含みのある言い方は」
「ガーネットで思い出したが、この先が彼女が倒れていたという場所だ。関係ないかもしれないが一応伝えておく」
「つまりどういうことだ。もしかしたらドドガとガーネットが関係あるかもしれないのか」
ドドガを捕まえたらゴーレムの解除だけでなく、ガーネットについても聞き出してみるか。
ここで俺の中に一つの懸念が生まれた。もしかしたらドドガは当てもなく逃げているわけでなく、この先にある隠れ家か何かに戦略的に向かっているのではないか。ガーネットはその隠れ家に捕まっていた被害者という可能性も出てくる。
この仮説が正しいとなると、もしかしたら俺は敵の罠の中に自ら突っ込んでいっているのかもしれない。ドドガが逃げる際に触れていた秘密兵器とやらが、この先にあるのではないか。
「ん、フール。敵」
進行方向の先に複数人の伏兵が構えていた。その中にはリーメル達が戦っていた幹部と思われる2人も混ざっている。
「ドドガの逃走を助けてるみたい。ここは私たちに任せて」
「任せた」
幹部格が追跡の妨害をしてきたということはこの先にドドガがいるのは間違いなさそうだ。俺はこの場をリーメルやハブラタたちに任せると先を急ぐ。
罠を張って待ち構えられている可能性もあるが、ここまで来たら正面から叩き潰してやる。今の奴はかなり深手を負っているはずだしな。
しばらく走ると森が途切れていた。森の外に出たわけでなく、森の中心が更地になっているのだ。更地の淵の生える木々は所々が焦げていた。まるで一帯が炎で吹き飛んだかのようだ。
その更地の中央に4本腕のハゲ男。ドドガが立っていた。
「なんだこれは…?なんで森が吹き飛んでやがる!あの赤髪の女の仕業か。やはりもっと早く処分すべきだったか…っ!」
ドドガが俺に気が付いたようだ。石のように砕けた首から血を流しており、大分無理をしているように見える。石に変化する防御術に対して俺の”脆性付与”は特攻だったみたいだな。
「ようやく追いついたぞ。赤髪の女の子なら俺が保護している。それがお前の言っていた秘密兵器だったんなら、降参してさっさとゴーレムにした人々を解放するんだな」
「つくづく癇に障る野郎だ。たしかにあいつの魔法を利用する手もあったが、コントロールできねえから別に奪ってもらって構わねえ。真の秘密兵器は他にあるからな」
やはりドドガは目的があってここまで逃げてきていたのか。ガーネットのことも知っているようだし、今度は確実に捕らえよう。
ドドガが地面に手をついた。大地が大きく震える。
「まだこんな力が…」
またスラムの時のように俺を生き埋めにするつもりかと思って警戒したが、どうやら違うようだ。
俺たちが立つ更地の横にある大きな断崖。そこに大きく亀裂が入った。
「こ、これは…」
俺は現れたそれを見て驚愕する。
断崖をぶち破って、全長50メートルほどの黒いゴーレムが出てきたのだ。普通のゴーレムの10倍もあり、さながら巨人のようだ。
「俺の最高傑作。アダマンタイトゴーレムだ。わざわざ死地へ赴いてくるとはな」
随分とこのゴーレムに自信があるようだ。アダマンタイトというととてつもない硬度を持つ特殊鉱石だろう。
だが俺はそこまでの脅威に思えない。
「いくらデカくしても同じように転ばせて終いだろ。そもそもゴーレムに構わずにお前を倒せばいいだけだしな」
俺はドドガに接近する。するとドドガは足元から土柱を伸ばして、ゴーレムの方へ逃げていった。ゴーレムがドドガの方に手を伸ばす。
「ゴーレムに守ってもらうつもりか。余計な悪あがきを」
俺はドドガがゴーレムの手の中に隠れるのだと思った。
だがドドガの目的は違った。ドドガはゴーレムの手に、まるで水に飛び込むようにチャポンと入っていた。
次の瞬間、ゴーレムの口が開いて喋り出す。
「これが俺の奥の手のゴーレム合体だ。ちなみにこのゴーレムの素材はただの土ではなく、スラムの住民が数百人は使われている。大人しく潰れてくれると助かる」
「これは…」
まずい事態になった。
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